2 次なるスカウト指令
「やっぱり、あのセカンドは欲しいなぁ」
その日の昼休み、校舎一階にある野球部の部室で昼飯を食っていると、
(教室で食うと碇がつきまとってきてうっとうしいので)
机を挟んで正面に座る二年の東倉山男キャプテンが、
シミジミとそう言った。
それに対して俺は、昼飯のコロッケパンを頬張りながら聞き返す。
「あのセカンドって、小暮の事ですか?」
小暮双菜。
俺と同級生でポジションはセカンド。
中学時代は全国優勝したチームのレギュラーで、
打撃守備走塁ともに全国レベル。
その実力は、中学時代に対戦した俺も身をもって体感している。
(そして負けました)
そんな凄いセカンドが実はこの張金高校に居るんやけど、
その小暮は、双菜という名前からも分かるように、
性別が女で、高校に入ってからは野球を辞め、
ソフトボールの方に転向してしもうたのやった。
この前も野球部に誘ってはみたけど、にべもなく断られてしもうた。
その事があったので、俺はキャプテンにこう続けた。
「前にも言いましたけど、あいつはもう野球を辞めたみたいですよ?」
「そうか、それならしゃあないな」
「分かってもらえましたか」
そう言って頷く俺に、キャプテンはこう言った。
「じゃあ昼飯を食べ終わったら、早速小暮君を勧誘してきてくれ」
「あれ?何か話の流れがおかしくないですか?」
「おかしくない!甲子園を目指すからには、
有能な選手をスカウトするのは当然の事!
ましてや小暮君は中学時代に全国優勝してるんやで⁉
そんな凄い選手をスカウトせぇへんっちゅうのは、
目の前に物凄くおいしそうなアンコがあるのに、
遠くにあるまずそうなアンコでタイ焼きを作るようなモンや!
分かるやろ⁉」
「とても、分かりにくいです・・・・・・」
「とにかく!我が張金高校野球部の戦力アップの為には、
彼の力が不可欠なんや!何が何でもウチの部にスカウトするんや!」
「でもですね、これも前に言いましたけど、
あいつはソフト部の方に入ったんですよ。
だから今更勧誘しても手遅れやと思いますけど」
「そんな事ないわい!ていうか何でソフト部やねん!
ウチの学校のソフト部は女子部しかない(・・・・)はずやろ!」
「えーと・・・・・・」
この人を含め、ウチの野球部の先輩方は、
小暮が女やという事に気が付いていない。
別に隠してるという訳ではないんやけど、
これは今説明しといた方がええんやろうか?
と考えていると、キャプテンは先に結論を出した。
「そうか!小暮君は物凄い女ったらしなんやな!
だから女子ばっかりのソフト部に入ったんや!」
「え⁉いや違いますよ!そうやなくて小暮はですね──────」
「けしからんやっちゃ!そんな奴は一刻も早くソフト部を辞めさせて、
我が野球部でその女ったらしな根性を叩き直したる!」
「いや、だからですね──────」
「よっしゃ!そうと決まったら俺も小暮君をスカウトに行くで!
そんでもってその場で説教もしたる!」
「でぇえっ⁉そんな事したら余計に話がこじれますって!」
「じゃあ正野君がちゃんとスカウトしてくれるか⁉」
「わ、分かりましたよ。やるだけやってみますよ・・・・・・」
「よっしゃ頼んだで!どんな手を使ってでも、小暮君をスカウトするんや!」
「はあ・・・・・・」




