1 碇は近所に住んでいた
場面はさっきに続いてとある日の朝。
碇の奴が迎えにきたので、俺は渋々支度を済ませて家を出た。
すると門の所に、小柄で細身の、
一見すると女子にも見えるような優男が立っていた。
ウチの野球部でピッチャーをやっている松山碇や。
こいつは中学時代、
チームメイトに大けがをさせてしまったのをキッカケに
野球をやめとったんやけど、
ウチのファーストの千田銅次郎先輩の熱心な勧誘(という名の脅迫)
によって再び野球を始めた。
この前の矢沙暮高との練習試合では、
我が張高野球部に創部以来の初勝利をもたらす大活躍も見せた。
中学時代に全国大会で準優勝しただけあって、
その実力は一級品。
ボールのスピード、コントロール、マウンド度胸など、
今すぐ甲子園に出ても通用しそうなほどのピッチャーなのや。
そんな碇がウチのチームに居るというのは何とも頼もしい事やけど、
ただひとつ、こいつには致命的な欠点があった。
それは何かと言うと、
碇は、ホモなのです。しかも、俺に惚れています。
実は、そうなのやった。
まあ、ホモやというのは全然構わへん。
そういうのは人それぞれやと思うし。
ただ、俺は決っっっっっっしてホモではない。
だから碇に恋愛対象として言い寄られるのは、
この上なく困るのやった。
それに俺には小さい頃から想いを寄せている、
幼なじみの伊代美が居るしな!
・・・・・・全く仲が進展する気配はないけど。
まあそれはさておき、碇はそういう奴で、
しかも家がウチの近所にあるという事で、毎朝こうして迎えに来るのやった。
「おはよう♡昌也君♡」
俺が門の所まで行くと、碇ははじけるような笑みを浮かべてそう言った。
これが伊代美やったら俺も満面の笑みでそれに答えるんやけど、
残念ながらこいつは碇以外の何者でもないので、
俺はとりあえず碇の頭を平手でシバいた。
ベチコォン!
「あ痛⁉いきなり何するんだよ昌也君⁉」
叩かれた頭を両手で押さえる碇。
しかし俺は何ら悪びれる事なく言った。
「やかましいわ!お前のせいで今朝の俺の楽しい夢が台無しになったんじゃい!」
「え?でも僕は昌也君のおかげで、すごく楽しい夢が見られたよ?」
「どんな夢や!」
「ウチの野球部の甲子園出場が決まって、僕と昌也君がめでたく結ばれる夢」
「それは俺にとって全然楽しくないんじゃ!
しかも何でお前は俺と似たような夢を見とんねん⁉」
「え!そうなの⁉やっぱり僕と昌也君は、運命の赤い糸で結ばれてるんだね♡」
「気持ち悪い事を言うな!俺とお前はただ同じチームで投手と(テ)捕手なだけや!」
「恋人同士・・・・・・」
「違うわバカタレ!勝手に当て字を変えるな!
そんなんええからさっさと朝練に行くぞ!」
「あ、待ってよ昌也く~ん!」
ホンマに、朝から疲れますわ・・・・・・。




