2 ソフト部のスカウト
それにしても、仮にこれで碇が大京山に転校すれば、
それは大京山の監督の思惑通りになる訳やよな?
そしてそうなるように仕向けたのはウチの校長で、
それ以前からも、あの校長はやけに碇を大京山に転校させたがっていた。
という事はつまり、大京山の監督とウチの校長の間に、
何らかの利害関係があるんとちゃうやろうか?
それについては試合の前から疑っとったんやけど、その証拠は何処にもない。
だから前もって鹿島さんに依頼したんやけど、あれはどうなったんやろうか?
もし、それで校長の何らかの不正を突き止める事ができれば、
野球部の廃部の話も取り消す事ができるんやけどなぁ。
ここは鹿島さんに最後の希望を託そう。
そう心に決めた、その時やった。
コンコン、と、外から部屋の扉をノックする音が聞こえた。
もしかして鹿島さんか⁉
校長の不正を突き止め、俺達に知らせに来てくれたんやな!
そう確信した俺は、弾む声で言った。
「どうぞーっ!開いてますよーっ!」
すると部屋の扉がガチャッと開き、
「お邪魔するよ~っ」
という声とともに、一人の女子生徒が現れた。
いよっ!
待ってましたよ鹿島さん!
・・・・・・と、思ったら違った。
その女子生徒は鹿島さんではなく、ソフト部キャプテンの佐渡さんやった。
「何や、佐渡さんですか・・・・・・」
心底ガッカリした俺は、露骨にげんなりしながら言った。
すると佐渡さんはさも愉快そうにニヤつきながら、俺と碇の近くに歩み寄って来た。
「いやぁ、昨日は惜しかったねぇ」
と佐渡さん。
それに対して俺は、疲れた口調で尋ねた。
「何の用です?もう俺らには用はないはずでしょ」
「いやいや、それがあるんよ。こっちの松山君に」
「え?僕に?」
佐渡さんの言葉に目を丸くする碇。
その碇の両手を握り、佐渡さんは言った。
「松山君、よかったら正式な部員として、ウチのソフトボール部に入れへん?」
「え?でも、ソフトボール部は女子しか入れないですよね?僕、男ですよ?」
「だぁいじょうぶ♡君は見た目が可愛いから、女の子としても充分通用するって」
碇の問いかけに、ニコニコしながら佐渡さんは答えた。
すると碇は、少し語気を強くしてこう言った。
「そんなの嫌です!僕は正真正銘の男なんです!」
いや、お前はホモやろうとよっぽどツッコミたかったが、
ここは黙っておく事にした。
「え~、残念やなぁ。もし入部してくれたら、
あたしが手取り足取り指導してあげようと思うたのにぃ」
この人、ただ単に碇を自分のモンにしたいだけとちゃうんか?
だがそれも口に出さず、俺は佐渡さんにこう言った。
「さっきからずいぶんと勝手な事を言うてくれてますけどね、
まだウチの野球部は、完全に廃部と決まった訳やないんですよ?」
「は?何言うてんのよ?あんたら野球部は昨日、ウチらとの試合で負けたやないの」
「でもあの試合は元々、ウチの校長の独断で組まれた試合でしょ」
「何やのよ?今更あの試合は無効やとか言うんか?往生際が悪いなあんた」
「違いますよ。そうやなくてですね、
今回の試合の裏で校長は、何か良からぬ事を企んでいたような気がするんですよ」
「良からぬ企みって何やのよ?」
「それを今、知り合いの新聞部の人に頼んで調べてもらってるんです」
「嘘くさ~。廃部になるのが嫌やからって、いい加減な事を言うたらあかんであんた」
「いい加減な事やないですよ!
昨日の試合が組まれた理由を考えると、校長の悪事が浮かんでくるんですよ!」
「そうは言うけど、校長センセが何か悪事を働いたなんて証拠は何処にもないんやろ?」
「だ、だから、今調べてもらってるんですって!」
「それはいつ分かんの?来月?半年後?あたしが卒業してからじゃあ遅いで?」
「ぐぬぬぬ・・・・・・」
佐渡さんのモノ言いに、言葉を詰まらせる俺。
チクショウ、これやとこっちが不利やないか。
なので俺は、苦し紛れに碇に話を振った。
「おい碇!黙っとらんとお前も何か言うたれ!」
すると碇は、呟くようにこう言った。
「昌也君と一緒なら、僕、ソフト部に入ってもいいです・・・・・・」
「うぉおいっ⁉何を言い出すんやお前は⁉」
「ホンマに⁉松山君がウチの部に来てくれるなら、
球拾いの一人や二人、何ぼでも入部さしたるで!」
「ちょっとちょっと⁉何勝手に話を進めてるんスか⁉
俺は絶対ソフト部なんかに行きませんからね!」
嬉々として言う佐渡さんに、俺は声を荒げた。
このままやと話がとんでもない方向に行ってしまう。
鹿島さん!早く来てくれ!鹿島すゎーん!
俺は心の中で叫んだ。
すると、その時やった。
コンコン。
再び部屋の扉をノックする音が聞こえた。
俺は慌てて言った。
「どうぞーっ!開いてまーす!」
すると扉がガチャッと開き、
「お邪魔しまーす」
という声とともに、一人の女子生徒が現れた。
そしてその女子生徒は、今度こそ鹿島さんやった!




