1 大京山には行きません
ぼ~~~~~~~~~っ・・・・・・。
翌日の放課後、俺は野球部の部室だった(・・・)部屋で、呆然としていた。
今この部屋には俺一人だけ。
もう野球部の部室やなくなったこの部屋に、
野球部の皆が集まる理由はないのやった。
俺達は昨日、部の存続を賭けた試合で、惜しくも敗れてしまった。
これにより、我が張高野球部の廃部が決定。
という事は、もう俺はこの学校で野球をする事ができず、
という事は、伊代美をマネージャーとして甲子園に連れて行く事もできず、
という事は、甲子園出場を決めた暁に伊代美に告白する事ができず、
という事は、俺はもう一生伊代美と結ばれる事がないっちゅう事やないか!
な、何という事や・・・・・・。
これじゃあ俺は、何のためにこの学校に来たんや。
ていうか、何のために今まで野球をやってきたんや。
「はああああ・・・・・・」
深くて大きなため息をひとつ。
もう何もかもがどうでもよくなってきた。
俺の生き甲斐は、昨日をもって消滅した。
俺はこれから、何を糧に生きていったらええんや・・・・・・。
「ほぅううう・・・・・・・」
再び深いため息をひとつ。
と、その時やった。
部屋の扉がガチャっと開き、
「あ、昌也君、ここに居たんだ」
という声とともに、碇がおずおずと現れた。
それに対して俺が、
「おう・・・・・・」
と気のない返事を返すと、
碇は部屋の中に入ってきて、パイプ椅子を出して俺の隣に座った。
その碇に、俺は尋ねた。
「他の先輩達はどうしてた?」
すると碇は浮かない顔をして、力ない声でこう言った。
「先輩達の教室を一通り覗いて来たんだけど、
皆昌也君と同じように、ショックで呆然としてたよ」
「そらそうやろうなぁ。対外試合で百連敗するより、
廃部になる方がよっぽどショックやもんなぁ・・・・・・」
「うん、そうだね・・・・・・」
碇はそう言って黙り込んだ。
俺も次の言葉が見つからないので、そのまま黙った。
部屋に重い沈黙の空気が流れる。
そんな中、碇が俺に言った。
「昌也君は、これからどうするの?何処か違う部に入るの?」
「う~ん、今更野球以外の事をやりたいとも思わんなぁ・・・・・・」
「僕も、もっと昌也君と一緒に野球がしたいよ・・・・・・」
「でも、この学校ではそれがでけへんくなってしもうた訳や」
「・・・・・・」
俺の言葉に、碇は再び俯いて黙り込んだ。
が、すぐに顔を上げて、俺にこう言った。
「ねぇ昌也君。もし良かったら僕と一緒に、大京山に転校しない?」
「大京山に?マジで言うてんのか?」
「うん、だってあそこの監督さん、
僕らがここで野球ができないような事になれば、
いつでも来ればいいって言ってたじゃない」
「ああ、そういえばそんな事も言うとったなぁ」
「あそこに行けば、また一緒に野球ができるよ?」
「残念ながら俺は大京山には行かん。行きたいならお前一人で行け」
「な、何でなの⁉大京山の部長さんも、昌也君の実力を認めていたじゃないか!
昌也君だったら、あの学校でも十分にレギュラーが狙えるよ!」
「そいういう問題とちゃうんや。
俺は野球をするなら、この学校やないとあかんのや」
「どうしてなの⁉訳を聞かせてよ!」
「う、それは言えん。お前に言うと話がややこしくなる」
「何でだよ⁉僕達恋人同士でしょ⁉」
「それこそ何でやねん⁉いつから俺とおまえが恋人同士になったよ⁉」
「この前のデートで、昌也君が僕に告白してくれたじゃないか!」
「あれはデートとちゃうし告白もしとらん!勝手な事実を捏造するな!」
「ねぇ~、一緒に大京山に行こうよぉ~」
「嫌やっちゅうたら嫌や!」
甘え声ですり寄ってくる碇を押しのけながら、俺は叫んだ。




