4 通りすがりの新入部員
それじゃあここでもう一度試合状況の確認をしておく。
現在四対一でソフト部が三点リード。
回は七イニング制の六回の裏のソフト部の攻撃。
そんでもってノーアウト満塁。
バッターは四番キャッチャー佐渡さん。
その佐渡さんが右バッターボックスに入り、バットを構える。
その表情にさっきの余裕の笑みはなく、真剣そのものの顔になっていた。
「随分速い球を投げるやんか、あの子」
碇を見据えながら佐渡さんは言った。
「バッターボックスで見たら、もっと早く見えますよ」
俺はそう言って、碇にストレートのサインを出した。
碇はそれに頷き、この試合での第一球を、佐渡さんに向かって投げ込んだ。
バシコォン!
碇の放ったボールが、一直線に俺のミットに飛び込んだ!
その間佐渡さんはピクリとも動かず、ボールを見送った。
「ストライク!」
審判のコールが響く。
やや外よりのベルトの高さの球。
コース的には甘いけど、佐渡さんは全く反応しなかった。
意図して見逃したのか、それとも全く手が出なかったのか。
佐渡さんは何も言わないので、俺が彼女に尋ねてみた。
「どうです?バッターボックスで見たあいつの球は?」
すると佐渡さんは苦笑しながら言った。
「見えへんかったわ」
「そうですか」
俺はそう答えて碇にボールを返した。
ちなみに碇は前回の矢沙暮高戦で、
十二者連続三振というアホみたいな事をやってのけている。
なのでいくらこのソフト部が大阪大会で優勝した強豪やろうと、
碇の球はそう簡単に打たれへんやろう。
そして碇が次に投げたストレートでストライクを取り、
あっという間に佐渡さんを追い込んだ。
次に出すサインも勿論ストレート。
碇は第三球を佐渡さんに投げ込んだ!
前の二球には全く手を出さへんかった佐渡さんやったけど、この球には反応した。
「うぉおおっ!」
という叫び声とともに、フルスイングでバットを振った!
しかしバットは空を切り、碇の高めのストレートが三度俺のミットに飛び込んだ!
バシコォン!
「ストラーイッ!バッターアウッ!」
その瞬間俺は、二塁走者のリードが必要以上に大きい事に気づいた!
なので咄嗟に立ち上がって二塁に送球!
キャプテンがベースカバーに入る!
二塁走者も慌ててベースに帰る!
ベース上にキャプテンが一瞬早く到達!
そのキャプテンのグローブに、俺からの送球が飛び込んだ!
二塁走者がベースに滑り込む!
その走者にキャプテンがタッチした!
判定は⁉
「アウトォッ!」
アウト!
三振ゲッツー!
これでノーアウト満塁から一気にツーアウト一、三塁に状況が変わった!
「ナイスボール!」
二塁ベース上でキャプテンが、右手親指をグッと立ててそう言ってくれた。
それに対して俺は、右手の人差し指と小指を立てて、
「ツーアウトツーアウト!」と返す。
そんな俺に佐渡さんは、打席に呆然と立ち尽くしながら言った。
「あんたら(・)、何モンやのよ?」
「いやあ、ただの通りがかりの新入部員ですよ」
白々しく答える俺。
すると佐渡さんは、
「何処がやねん・・・・・・」
と呟き、ベンチへと戻って行った。
ちなみに次のバッターも、二球ファールは打たれたものの、
結局碇のストレートで空振り三振。
これでこの回のピンチは凌ぐ事ができた。
俺らに残された攻撃はあと一回。
ここで同点以上にせんと、そこでゲームセットになってしまう!
何としても次で逆転するんや!




