3 今日はスタメン落ち
「来てないぞ」
張高のグランドに行くと、キャプテンは険しい表情でそう言った。
ちなみに来ていないというのは、勿論碇の事や。
「ええ?来てないって、どういう事ですか?」
驚いて聞き返す俺。
このグランドには既に、野球部とソフト部の面々は一通り集まっている。
しかしその中に、碇の姿はなかった。
そんな中キャプテンは続けた。
「来てないものは来てないんや。
君はここに来る時、松山君の家に行かんかったんか?」
「いや、行きましたよ。
そしたら碇のお母さんが出てきて、
あいつはユニフォームを着て試合に行ったって言うてたんですよ」
「何やて?それはホンマか?」
「ホンマですよ。何やったら碇の家に電話して確認しましょうか?」
「いや、それやったらええわ。
しかし妙やな、試合の準備をして家を出たのに、ここに居らへんっちゅうのは」
「考えられるのは、気を持ち直して家を出たけど、
来る途中になって、やっぱり嫌になった」
「もしかして君は、まだ松山君と仲直りしてないんか?」
「いや、あの、一昨日あいつの家に行ったんですけど、
全く話を聞いてくれなくて・・・・・・」
「う~ん」
キャプテンは頭をかきながら考え込んだ後、俺の両肩に手を乗せてこう続けた。
「今日は君を、先発選手から外す」
「そ、それって、俺が碇を連れ戻せなかった罰ですか?」
「ちゃうがな。松山君が居らん以上、この試合の先発投手は岩佐や。
あいつは昔から近藤とバッテリーを組んできたから、
近藤以外のキャッチャーとバッテリーを組むのを嫌がる。
それに君には、グランドの外で仕事をしてもらわなあかん」
「え?仕事って何です?」
「決まってるやないか。松山君を探し出して、ここに連れてくるんや」
「ええ?でもあいつが何処に居るのか、見当もつかないですよ」
「何を言うんや!君は松山君の恋人やろ!」
「違いますよ!」
「とにかく何としても探し出すんや!
今日の試合は矢沙暮高の時と同じく、絶対に負けられへん試合や!
だから松山君の力が必要なんや!」
「まあ、それは確かにそうですけど」
「今日の試合は七イニング制や。早ければ一時間ちょっとで試合が終わる。
だからできるだけ早く、松山君を探し出すんや。
彼を説得してここに連れてこられるのは、君しか居らん!」
「そう、ですね。やっぱり俺が行かなくちゃダメですよね」
「行ってくれるか⁉」
「分かりました!俺、碇を探しに行きます!そして何としてもここに連れて来ます!」
「よっしゃ決まりやな!」
キャプテンはそう言うと、
周りでウォーミングアップをしていた先輩達を集合させた。
そしてひと際大きな声でこう続けた。
「聞いてくれ皆!今日は見ての通り、松山君がまだ来てない!
だから今から正野君に彼を探しに行ってもらう!
それまでは俺らだけの力で何とかするぞ!」
「よっしゃ!」
「分かった!」
キャプテンの言葉に賛同する先輩達。
そんな中千田先輩が、俺の背中をバシバシ叩きながら(凄くいてぇ!)言った。
「頼んだで正野!早く松山を連れ戻してくれよ!
岩佐はスタミナと根性がないから、すぐにへばるさかいに!」
「うぉい⁉本人の前でそう言う事を言うなよ!
聞こえてんだよこの野郎!」
傍らに居た岩佐先輩が声を荒げ、それを見た回りの先輩達がドッと笑う。
良かった。
岩佐先輩も近藤先輩も、すっかりチームに戻れたみたいや。
すると、グランドのホームベース付近に立っていた審判のおっちゃんが、
「そろそろ試合を始めますよーっ!」
と、両チームのベンチに向かって叫んだ。
「よっしゃ!今日の試合も絶対勝つぞ!気合入れろよ皆!」
「おーっ!」
キャプテンの掛け声に皆が答える。そして、
「どぉうりゃい!」
という掛け声とともに、俺以外の張高野球部員が、グランドに飛び出して行った。
頼みますよ先輩方。
俺が碇を連れて戻るまで、何とか頑張ってください!
グランドに駆けて行く先輩達にそう念じた俺は、
一目散に学校の外に向かって走り出した。
野球部の存続を賭けたソフト部との一戦。
果たして勝つのはDOTCH?




