9 碇の家
その日の夕方。
部活を終えた俺は、グランドを出てある場所へ向かっていた。
ある場所とは言わずもがな、碇の家や。
碇は今日も、部活どころか学校にも来ぇへんかった。
しかし試合は明後日。
残された時間はあまりに少ない。
だから何としても、今日のうちに碇の誤解を解いて、野球部に復帰してもらわんと。
という訳で俺は、碇の家の前にやって来た。
碇の家は俺の家から数分という、結構近い場所にある。
何処にでもあるごく普通の二階建ての一軒家。
その家の前に立った俺は、門柱のインターホンを押した。
ピンポ~ン。
とチャイムが鳴った後、しばらくしてからそのマイクから声が聞こえてきた。
『はい、どちら様でしょうか?』
上品な感じの女性の声や。俺はかしこまりながら言った。
「あの、俺、碇君と同じ野球部の、正野昌也っていいます。えと、碇君は居ますか?」
するとインターホンの女性は、
『しょ、正野君⁉ちょ、ちょっと待ってね!』
と取り乱したように言い、そのまま声が途切れたかと思ったら、
ほどなくして玄関の扉が勢いよく開け放たれた。
そして中から、碇と顔も髪型もそっくりな、エプロン姿の女性が現れた。
ていうか、碇本人か?
と思っていると、その女性は俺の前まで歩み寄って来て言った。
「あなたが正野君なのね⁉」
「そ、そうです。え、え~と、あなたは、碇君のお母さんですか?」
たじろぎながらそう尋ねると、その女性はコクリと頷いて続けた。
「そうです。私は碇の母で、光といいます」
やっぱりそうか。
それにしてもホンマによう似てる。
碇の奴も光さんと同じく、女に生まれたらよかったのになぁ。
それやったら俺だって・・・・・・って何を考えてるんや俺は⁉
俺は頭をブンブンと横に振り、気を取り直して光さんに尋ねた。
「あ、あの、ここ数日碇君が学校に来てないんですけど、どうかしたんですか?」
すると光さんは浮かない顔で答えた。
「実はあの子、数日前から部屋に閉じこもったまま出てこないの・・・・・・」
「それってまさか、引きこもりってやつですか?」
俺の言葉に、光さんは力なく頷く。
そんな光さんに、俺は続けて尋ねた。
「ど、どうしてそうなったのか、理由は言ってましたか?」
「それが、部屋にこもったまま何も話してくれなくて・・・・・・」
「そう、ですか・・・・・・」
「正野君、あなたの事は碇によく聞いてるわ。
もしよければ碇の部屋に行って、直接話をしてもらえないかしら?」
「わ、分かりました・・・・・・」




