10 一打席限りの勝負
という訳で、張高のエースの松山碇と、
大京山の五番打者の定山信彦の勝負が始まった。
勝負は一打席のみ。
その打席で定山を打ち取れば碇の勝ち。
ヒット以上の安打を打てば定山の勝ち。
バックは先輩方が守り、エラーやフォアボールが出た場合は、
もう一度仕切り直すというルール(を定山が決めた)。
ヘルメットをかぶり、金属バットを持った定山が、
ゆっくりと右のバッターボックスに入った。
そしてバットの先端を碇に向け、
「全力で来いやぁっ!」
と叫び、まるでプロ野球の外国人バッターのような豪快なフォームでバットを構える。
そのガタイは遠目から見るよりもでかく、
いかにも遠くまでかっ飛ばしそうな雰囲気を醸し出していた。
そうでなくてもあの大京山で五番を打つバッター。
その実力は折り紙つきのはずや。
そんな凄いバッターに碇のボールがどこまで通用するのか。
この目で確かめさせてもらうで。
この状況で変化球を投げさせる必要はないやろう。
ストレート一本で勝負や。
俺はマウンドの碇にストレートのサインを出した。
それに頷いた碇は、大きく振りかぶって投球動作に入った。
さあ見せたれ碇。
矢沙暮高打線相手に三振の山を築いた、あのストレートを!
そして碇は左足を踏み出し、定山に向かって第一球を投げ込んだ!
が、俺は次の瞬間、『あれ?』と思った。
碇の右手から放たれたストレートが、やけに遅かった(・・・・)のや。
しかもそのボールが真ん中高めのストライクゾーンにきた。
もしかしてこれ、打たれるんとちゃう?
と思った瞬間──────
グァキイン!
物凄い衝撃音とともに、定山のバットが碇のストレートを捕らえた!
そして打球は一直線にセンターへ飛び、
そこを守っていた扇多阿太郎先輩のはるか頭上を越え、
十メートル以上あるネットフェンスの上段に直撃した。
この球場やなかったら完全にホームラン。
もしかすると、場外まで飛ばされとったかもしらん。
今の一球が完全な失投とはいえ、流石は大京山の五番打者。
その実力は伊達やないっちゅう事か。




