9 ある意味道場破り
グランドの入り口の方から、ひときわデカイ叫び声が響いた。
そのあまりのデカさに、俺達野球部員全員がそこに注目した。
すると入口の所に、
胸元に『怪力』と書かれた白のTシャツに黒のハーフパンツを身につけた、
ガタイのごつい男が立っていた。
その男は
「うぉおおっ!」と叫び声を上げながら、
ホームベースの方に突進した。
そしてあっという間にホームベースの所に駆け寄ると、
そこでノックをしていたキャプテンに向かい、
これまたデカイ声でこう言った。
「君らは張金高校野球部の諸君らか⁉」
「へ?そ、そうですけど?」
たじろぎながら答えるキャプテン。
すると男は右手の拳を空に向かって突き上げ、
「よっしゃあああっ!遂に辿り着いたどぉおっ!」
と目一杯叫んだ。
それを目の当たりにした俺達野球部員は、一様に目を点にした。
一体何なんやろうかあの男は?
どうやらウチの部に用があるみたいやけど、何かけったい(・・・・)な雰囲気の人やなぁ。
と心の中で思っていると、キャプテンが遠慮気味に男に尋ねた。
「あの、失礼ですけど、あなたはどちらさんですか?」
すると男はニヤッと笑い、
やけに上半身を後ろにのけぞらせながらこう答えた。
「俺の名前はぁっ!定山信彦ぉっ!
大京山高校野球部のぉっ!
五番!サード!三年!定山!信彦!だぁああっ!」
そのあまりにテンションの高い自己紹介に、
キャプテンはげんなりしながら頷いた。
それにしてもあの男も野球部の人間やったんか。
しかも大京山高校っちゅうたら、
去年の夏と今年の春の甲子園で優勝した、大阪の超強豪校やないか。
そういえば俺の中学時代のチームメイトもその高校に入ったんやけど、
今はそんな事はどうでもいい。
それにしても、大阪ナンバーワンの強豪校の選手が、
ウチみたいな無名のチームに何の用やろう?
そんな俺の疑問を代弁するように、
キャプテンはその男、定山に向かって尋ねた。
「ええと、それで、ウチの部に何の御用ですか?」
それに対して定山は、ズズイッとキャプテンに顔を近づけて言った。
「この部にぃっ!松山碇という投手はぁっ!居るかぁああっ!」
あの人はいちいち叫ばんと気が済まんのやろうか?
それはまあええとして、あの人は碇に会いに来たんか。
もしかして知り合いか?
でも当の碇は目を丸くして首を傾げてるけど。
そんな中キャプテンは、定山から後ずさりしながら答えた。
「ま、松山君ならそこで、ピッチング練習をしてますけど・・・・・・」
すると定山は碇の方にグリンと振り向き、
「お前が松山碇かぁっ!」
と叫んだ。
「ひっ、そ、そうですけど・・・・・・・」
いささかビビりながら答える碇。
すると定山は続けてこう叫んだ。
「よっしゃ!俺と勝負しろ!」
「え?な、何でそうなるんですか?」
碇の代わりにキャプテンが尋ねる。
すると定山は再びキャプテンの方に向き直って叫んだ。
「俺がぁっ!彼とぉっ!勝負したいんじゃあぁっ!」
とにかく叫びたいんやなあの人は。
それに対してキャプテンは、疲れた表情で言う。
「勝負したら、帰ってもらえます?」
「勿論や!俺はその為にここまで来たんやからな!」
それを聞いたキャプテンは、碇の方を向いて言った。
「松山くーん!どうもそういう事らしいから、ちょっと勝負してくれへんかなぁ?」
「え・・・・・・」
キャプテンの言葉を聞き、にわかに表情を曇らせる碇。
まあこいつの気持ちも分からんでもないけど、
このままやとあの男はずっとここに居座るかもしれへん。
なので俺も碇に言った。
「おい、とりあえず勝負したれや。でないとあの人、ずっと帰らへんぞ」
それに大阪ナンバーワンチームの五番打者の力も見られるしな。
すると碇は口を尖らせながらも
「分かったよ」と言い、ピッチャーマウンドの方へと歩いていった。




