8 こないだの約束
一時期は中学時代のトラウマを引きずり、
まともな球を投げられへんかった碇やけど、
矢沙暮高との試合からこっち、すっかり本来のピッチングを取り戻していた。
バシコォン!
碇の手から放たれた速球が、物凄い衝撃音とともに俺のミットに飛び込む。
あいつはホモやけど、投手としての能力はピカイチの物を持っている。
百六十そこそこの小柄な身長ながらも、
そのムチのようにしなる右腕から放たれるストレートは、超高校級。
おまけにコントロールの精度もかなり高いので、
そんじょそこらのバッターじゃあなかなか打たれへんやろう。
(俺も打たれへんかも)
こいつが居れば、ホンマに甲子園に出場する事も夢やない。
あとはしっかり守れる守備力と、
一試合平均三、四点は取れる打線さえ備われば。
そうなるとやっぱり、小暮の力が必要やなぁ。
とか考えていると、碇の奴が投球練習を中断して俺に話しかけてきた。
「ねぇ昌也君、いつも昼休みに何処に行ってるの?」
「あ?何やねんいきなり」
「だって昌也君、いつも昼休みになると何処かに行っちゃうんだもん。
一緒にお弁当食べたいのに」
それが嫌やから俺は教室から出ていくんや。
でもそれを言うと拗ねそうなので、俺は代わりにこう返す。
「別に昼休みに何処に行こうと、俺の勝手やろうが」
「そんなぁ、せっかく昌也君のお弁当も、
僕が用意してあげてるのに・・・・・・」
「何でやねん⁉カップルみたいな事をするな!」
「ま、まさか昌也君は、他の男の子が作ったお弁当を食べに行っているの⁉」
「んな訳ないやろ!しかも何で男の弁当やねん!」
「だって男の子の手作り弁当といえば、男子が最も喜ぶアイテムだし」
「そりゃ女の子の手作り弁当や!何でお前は同性愛にしか興味がないねん⁉」
「ホモだから」
「サラッというな!」
「あ!そういえば昌也君!
この前の練習試合での約束、まだ果たしてくれてないよね!」
「あ?あ・・・・・・あああっ!
あれか(第一巻第五話参照)!
あれはホラ、え~と・・・・・・
よっしゃ、じゃあそろそろ練習を再開しようか」
「誤魔化さないでよ!話はまだ終わってないよ!」
「う、うるさいな!あの約束はもう時効や!」
「ええっ⁉あの試合からまだ一か月も経っていないのに⁉」
「ええい黙らっしゃい!
そんな事より次の大会まで時間がないんや!さっさと練習に戻るぞ!」
「むぅ~っ」
俺の言葉に頬を膨らませながら、碇は渋々投球練習を再開しようとした。
すると、その時やった。
「頼もーっ!」




