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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
中編 俺と優し過ぎる彼女と球技大会
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第27話 二宮誠改造計画

「朝だよ! 起きて!」


 俺を呼ぶ活発で可愛らしい声が聞こえた。

 あれ、あのアラームアプリ今日もかけてたっけ。

 今日は日曜日、早起きする必要はどこにもない筈だ。

 俺は無視して寝返りを打った。そのうち止まるだろう。


「おーい、朝だって!」


 しかし、うるさい。

 最近は飛鳥に起こして貰っていたから使ってなかったが、こんなに騒がしかっただろうか。


「うーん、起きないなぁ。悪戯しちゃうか!」


 いつものあれか。

 俺は先手を打って叫んだ。


「俺もお前のことが大好きだ!! 結婚してくれ!!」


 それと同時にバッと起き上がる。

 目を開けると、そこに居たのはマジックを持ってぽかんとしている水瀬。


「あ、あはは……流石にそこまではちょっと……」


 半笑いで引いている水瀬の誤解を解くのにしばらくかかった。














「で、なんでお前がここにいるんだ?」


「飛鳥ちゃんに招待して貰ったからに決まってるじゃん。大丈夫、誤魔化そうとしなくてもさっきのことは飛鳥ちゃんには黙っておいてあげるから」


「あれはアラームと間違えたんだって!」


「うんうんそうだよね、分かってる分かってる」


「……!」


 にやにやした水瀬に付いて居間に行くと、飛鳥が朝食を準備していた。


「おはよう。もう少しで出来るから待って頂戴」


「おはよ。別に急かしてねぇからゆっくりでいいぞ」


 俺がそう言ってソファに腰掛けてぼーっとしていると、立ちっぱなしの水瀬が俺達の方を見てほー、と何故か感心していた。


「……ほんとに2人で住んでるんだねぇ」


「一昨日言ったじゃねぇか」


「いや、なんか実感しちゃってさ」


 水瀬はしゃがんで俺に目線を合わせ、口に手を当てて小声で言った。


「大事にしなきゃだめだよ。飛鳥ちゃんのこと」


「……分かってるよ」


 俺も小声で返すと水瀬は満足そうに頷き、ぱたぱたと飛鳥の方に向かって行った。


「私も手伝うよー!」


「ありがとう。じゃあお皿を並べてくれる?」


「おっけー!」


 腕まくりをして張り切った様子の水瀬と、それを微笑ましそうに見ている飛鳥。

 2人が自分の家に居ることに今更ながら驚きを感じつつ、俺も手伝うかと腰を上げた。





「二宮誠改造計画!」


 水瀬はそう言って、手元のお茶を一口啜った。

 飛鳥の作るものは和風なものが多く、食後にお茶まで出てくる。これがまた美味い。

 俺も息を吹きかけ、適温まで冷ましてから啜る。やはり美味い。


「何それ?」


「貴方が未来の彼氏だと皆が納得してくれる為に、必要なのはなんだと思う?」


 俺が問うと、飛鳥は質問に質問で返してきた。それは別に構わないが、しかし、そうか。

 一昨日俺と水瀬が付き合ってることを言うと、クラスの連中は例外として、周囲の反応は怪訝そうなものばかりだった。このままでは偽だと疑われるか、最悪水瀬にまで悪い噂がつくかもしれない。だからなんとか周囲に認めさせたいところである。


「……それは、ほら、あれじゃないか。本当に好きかどうか、とか?」


 俺がしばらく考えてから、少し照れながら言うと、2人はドン引きした顔をした。


「そこで最初にそれが出てくる辺り、相当拗らせていることが改めて分かるわね」


「本当に好きかどうかなんて、どうやって測るの?」


 二人にザクザクやられた。言葉は刃物なんだぞ!


「多分この調子だといつまで経ってもたどり着けないだろうから答えをもう言っちゃうと、外見よね」


 飛鳥が額を抑えながら言ったその言葉にさらに俺は傷付いた。死体蹴りと言っても良い。


「いや、そういうこと言う? なんか台無しじゃん」


「そう思うのは自由だけれど、あなたの悪評は正攻法ではかき消すのに時間がかかりそうなのよね」


「勉強頑張ってるのとか、人付き合いとかって他のクラスと交流なかったらなかなか伝わりにくいもんねー」


「そう、だからこういう手段を取るのもいいんじゃないかと思うの」


 水瀬と飛鳥の間で話が進んで行っているが、俺はその中で気になったことがあって口を挟んだ。 


「ていうか俺の悪評って……」


 それを聞いておかしそうに笑う飛鳥。


「あら、もしかして気づいていなかったのかしら?」


「いや知ってたけどさぁ!」


 普通本人に直接言うか?と俺は恨みがましい目を向けるが、飛鳥は素知らぬ顔でお茶を啜る。

 まぁまぁ、と水瀬がとりなした。


「でもちょっと見た目に気を遣ってみるっていうのもいいことだと思うよ! 自信持てるようになったりするかもだし!」


「自信か……」


 そう言われると、少し興味が出てくる。それに、以前水瀬とカフェに行った後鏡を見て、リア充を目指すんだったら、見た目をなんとかしたいと思ったことを思い出した。あれからまだ一か月ほどしか経っていないのに、随分前のことのように思える。


「分かった。やってみよう。俺は何をすればいい?」


 俺が言うと、えっとねーと水瀬は俺のことをじろじろ見てくる。


「んー、ちょっと言いにくいんだけど……」


「この際だし、なんでも言ってくれていいぞ」


「おっけー。えっとね、改めて見ると二宮君はね……清潔感が足りない!」


 ビシっと口で効果音を付けて言った水瀬の言葉に俺は首を傾げた。ああでも柊もそんなこと言ってたっけ。


「清潔感? 風呂は毎日入ってるぞ」


「うーん。そういうんじゃなくってさ……」


「貴方、ヒゲちゃんと剃った方がいいわよ」


「え? そうか?」


 顎の辺りを手で撫でてみる。ざらざらとした感じがあるし、言われてみればそうかも知らんね。


「微妙に生えてるのが1番汚らしいわ」


 飛鳥の言葉に水瀬もうんうんと頷いている。そう言われると途端に気になってくるから不思議だ。


「……剃ってくるわ」


 俺はダッシュで洗面所に行き、鏡を見て丁寧に剃った。

 最後に手で触れて確認する。うむ、つるつるである。自分では、結構すっきりした感じがする。これが清潔感か。


「お、良いね! すっきりした」


「良い感じね。中学時代を思い出すわ」


 戻ってきた俺を見て、水瀬と珍しく飛鳥も手放しで褒めてくれた。


「こんな感じで、今日一日二宮君を改善していく計画なのだ! じゃあ、出かけようか!」


「え? 出かけんの?」


「あたりまえ! ほら、行くよ!」


 水瀬に手を引かれ、俺は家を出た。





 飛鳥は付いて来ないらしい。訳を聞くと、隣を歩く水瀬は呆れたように言った。


「だって、これ一応デートだから。デートに保護者同伴はないでしょ?」


 保護者て。


「そのかわり、飛鳥ちゃんには写真いっぱい送ろう! 見せつけてやろうぜ!」


 言いながら、水瀬は俺を先導している。駅の方に向かっているようだ。


「あ、電車乗るよ」


「俺金持って来てないんだが」


「大丈夫、飛鳥ちゃんから貰ってる」


「まじか」


「飛鳥ちゃんは二宮君のご両親から貰ったらしいよ」


 確かにこれは保護者ですわ。




 電車内はそんなに混んでいなくて、立っている人はほとんどいなかった。俺は空いている席を一つ見つけ、水瀬をそっちに誘導した。


「え、いいよ別に私立ってるし」


「いや、俺最近座ってゲームし過ぎて足が退化してるから、立ってないと不味いんだわ。お前まさか、俺の健康を害したい訳じゃないよな?」


「言うほどゲームしてないでしょ……分かった、じゃあ私座るね」


 そんなやりとりの後、つり革に掴まった俺の正面に座る水瀬が言った。


「せっかくだし、その猫背をなんとかしようか! ビシッとまっすぐ立って!」


 俺は言われるがままに背筋を伸ばした。


「へー、普段は全然分かんなかったけど、思ったより背高いね! ……あ、もっと胸を張る感じで」


「……こうか? 少しやりすぎ?」


「ううん、それくらいで良いよ。やっぱり立ち姿って大事だからね。慣れるまではいつも意識しとくんだよ」


 言われて若干面倒臭くなったが、水瀬の彼氏役を引き受けたのは俺だ。俺の悪評は今更構わないが、つられて水瀬の評判が落ちるのは避けたい。俺は背筋を伸ばしたまま水瀬と他愛無い話をしながら暫く列車に揺られた。









 あ、ここで降りるよ、と水瀬の声で数駅行ったところで下車した。


「ここは?」


「私の最寄り駅。この近くにお店あるから」


 俺はまだ何の店に行くのかすら聞いてないが、水瀬はさっさと歩き出したので黙って彼女に付いていく。

 五分程歩くと、いかにもイケてます! と言った感じの店が見えて来た。

 ガラス張りの外装とその中の様子からして、美容室みたいだ。


「とうちゃーく!」


 水瀬は丁度その店の前で立ち止まった。そして即刻その場から逃げようとしていた俺の腕をガシッと掴んだ。


「カフェの時も同じ反応してたから、もうお見通しだよ」


「嫌だ無理だ嫌だ無理だ嫌だ無理だ嫌だ」


「だいじょーぶ! 私もよく行ってるお店だから」


 俺の手を掴みながら水瀬はもう片方の手で店の扉を開けた。


 店内は外見同様モダンな印象で、俺には何に使うのか分からない、でも凄くお洒落な感じのする小物があちこちに置いてある。

 俺が場違いさに震えていると、何やら20代後半位のちゃらい感じの男が水瀬に話しかけていた。


「あ! 未来っちじゃーん! 予約かしこまっておりまーす!」


 その男はバチコーンと効果音が鳴りそうなウィンクを横ピースとセットで水瀬に向かって決めた後、俺の方を見て言う。


「で〜、こっちのメーンが未来っちのカレピ?」


 えっ、何語話してるの? と俺が恐怖に震えていると、水瀬は親しげに返事をした。


「そうなの! で、イメチェンしたいらしくて、店長にお願いできないかなって!」


「未来っちの頼みなら、断れないっしょ〜!」


 彼がグッと親指を立てると、水瀬も同じように返していた。

 俺がぽかんとその場に突っ立っていると、ぽんと肩を叩かれた。


「じゃ、そう言うことで! 切ってもらって!」


「うぇーい!」


「お、お願いします」


 ここまで来たらもう水瀬を信じるしかないだろう。俺は頭を下げた。


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