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ぼっちが学年二代美少女に憧れた結果  作者: 豚太郎
中編 俺と優し過ぎる彼女と球技大会
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30/66

第26話 偽彼氏

二話分くらいあります

 翌日。

 良く晴れた空の下、俺はアパートを出ると一人で鞄を背負って歩き出す。

 水瀬と付き合っているという建前上、今日から飛鳥と登校するのはやめた。



 少し歩き、駅前の方に続く十字路に差し掛かると、


「おーーい! 二宮君くーん!」


 こちらに手を振る女の子の姿が見えた。

 ぴょんぴょんと跳ねながら手を振る動きに合わせてボブカットの髪がふわふわと跳ねる。

 高校生にしては子供っぽい動作でも、水瀬の抜群の可愛さがあれば十分すぎるほどに似合っている。

 現に、道行く人が彼女の手を振る相手を確認しようと俺の方を見ては、なんでこいつ? と怪訝そうな顔をしていた。


 俺は頭を掻きながら彼女のところまで行く。


「悪い、待たせたか?」


「ううん、私も今着たとこだから! ……あれ待って、今のデートっぽいね!」


 にひひと笑う水瀬に俺は肩を竦めた。


「ま、俺はしたことないけどな」


「私も! でもこれからすればいいよね、付き合ってるだもんね」


 ふたりで学校へ向けて歩き始めると、さっそくそんなことを言う水瀬。

 まだ周りにうちの生徒の姿は見えないが、念には念を、ということだろう。

 俺たちの話を聞いていたのか、ぎょっとしたような顔をした隣を歩くサラリーマンに会釈すると、咳払いをして足早に去っていった。


「どうかした?」


 水瀬はそれに気づかなかったのか、小首をかしげて俺に尋ねる。

 俺はなんでもないと言って話題を変えた。






  学校に近づくにつれて、同じ制服を着た奴の数が増えていく。既に水瀬は男女問わず結構な人数に挨拶されているが、隣を歩く俺に注意を向ける奴はほとんどいない。

 俺は彼女への挨拶が途切れた隙に小声で話しかけた。


「なんか思ったより誰も聞いて来ないな」


「そうだね、なんでだろう? 私男子と二人で登校なんてこれが初めてなのに、何も聞いて来ないなんて……あれ、もしかして私って皆にとってどうでも良い存在なのかな……」


 ずーんと暗い雰囲気の水瀬。


「いや待て、まだ途中でたまたま会って一緒に登校しているだけだと思われている可能性がある」


「……じゃあ、どうしよう?」


「……付き合ってるっぽい雰囲気を出すにはどうしたらいいか、だよな」


 二人で何か良い案はないかと考えていると、丁度目の前の角から二人組の男女が出て来た。

 腕を組んで歩く彼らは見慣れた制服を着ているので、うちの高校の生徒らしい。


「ねぇダーリン、今日の一限ってなんだっけ?」


 女子の方が男子にしだれかかりながら言う。


「体育だよハニー。もうすぐ球技大会だからね、みんな気合入ってるよ。でも大丈夫、だれも僕には勝てやしないさ」


 ニコリと決め顔で笑いかける男子に、女子はポッと顔を赤らめる。


「やーーん、ダーリンったらかっこよすぎ~」


 そのまま二人だけの空間を作りながら学校へと歩いていく彼ら。


「「…………」」


 俺達は無言でお互いを見つめた。

















 結局、無難に手を繋ぐことにした。


「……いや、絶対ありえないから。あんなの」


 やや顔を赤らめて、不満そうに唇を尖らせた水瀬に俺は同意する。


「まぁ、あそこまでは中々な。うちの高校にあんな奴らもいるんだな」


「えぇっ、あのカップルをご存知ない? 学校でも有名な激しくイチャイチャしてるカップルだよ? ……ていうか私の手大丈夫? 汗かいてないかな」


 唐突にそんなことを気にし始めた水瀬に、俺もそれまで出来るだけ気にしないようにしていた手のひらの感覚に意識が集中する。


「いや、そんなことはない、けど。それより、水瀬の手がめっちゃ小さくて驚いてる。ちゃんと飯食ってる?」


「食べてるよ。二宮君の手は、けっこう固いね。特に指の付け根。……これってマメの後?」




 そんな会話をしながら、傍から見ればそれっぽく見えることを願いつつ手を繋いで歩いていた俺達に、後ろから声がかかった。


「水瀬さん!」


 振り向くと、そこには制服を清潔感ある着こなしをした、いかにも好青年感のある男子生徒がいた。


「あ……水沢くん……」


 昨日彼を振った後なので当然だが、微妙そうな顔をする水瀬。

 そんな彼女の様子に構わず、つかつかと歩み寄ろうとする水沢を見て、俺は二人の間に身体を割り込ませた。


 彼はむっとした表情をして、俺達の繋がれた手を指さした。


「お前、それはやりすぎだぞ。いくら水瀬さんが何も言わないからって。彼女そういうの嫌がるんだから」


 水沢に言われて、俺は傍らの彼女に問いかけた。


「そうなの?」


 微妙な表情の水瀬はまぁ、と頷く。


「付き合ってないなら、こういうことはしたくないかな……」


「ほら!」


 そら見たことか、と得意げな顔をする水沢には言い辛かったが、しかしこの役目を引き受けたのは俺だ。彼にはバレないようにゆっくりと息を吐いて心を落ち着ける。

 ……出来るだけ、何でもない口調で。



「そうなのか。まぁ、でも付き合ってるなら問題ないってことだよな」



「……ん」


 俺の言葉に、こちらをちらりと横目に見て、どこか照れたような様子を見せながらもこくりと頷く水瀬。

 ……実際は俺の演技の余りの臭さに恥ずかしくなっているだけなのだろうが、水沢からはそうは見えなかっただろう。


「…………は?」


 ぽかんとした顔をした水沢は信じられないとばかりに目を見開いて彼女を見た。


「えっ!? 嘘だろ!? だって、昨日は好きな人がいるからって……」


 あ、水瀬そんな風に断ってたんだ。

 やべ、そこの詳しい打ち合わせするの忘れてた。

 俺は内心の動揺を悟られないように平然としている振りをしつつ、即席で適当な設定を考えた。


「へぇ。じゃあ、その相手は俺だったってことかな。水瀬が告白してくれ時に、そんなこと言ってたような気もするし…………な、そうだよな?」


 俺が必死のアイコンタクトを送ると、水瀬は一瞬固まったが、すぐにブンブンと首を振って肯定した。


「えっ? ……あっ。う、うん! そうだよ! 私が二宮君に告白したんだよ! ずっと前から好きだったから!」


 かなり挙動不審な気もしたが、動揺している水沢はそこには気付かなかったようだ。彼は顔を歪め、がしがしと整えられた髪を掻き回した。


「そんな……こいつはほとんど学校来ないことで有名な問題児だろ? しかも全然格好良くもないし、なんで俺じゃなくて二宮と……」


「…………」


 正直、彼の言うことは最もだと俺も思った。

 あの水瀬未来が、俺を選ぶのは客観的に見てやはり不自然だろう。

 なんだろう。それでも俺だったのは、趣味が合ったからとかで押し切るのが良いのかね。

 そんな風に考えて、俺が心に渦巻く劣等感と諦念を押し込め、へらへらとした笑みを浮かべて彼に同意しようとした時。




「――それ以上言わないで」




 底冷えするような、普段の彼女からは想像もつかない声音で水瀬が言った。呆然とした様子の水沢に、彼女は淡々と言葉を続けた。


「なんでそんなこと言うの? 彼のこと、知りもしないくせに」


 フラットな口調だが、その裏側には怒気が込められているように思えた。


「良かったら、もう私に話しかけないでくれると嬉しいかな。これ以上あなたのこと、嫌いになりたくないから。…………二宮君、もう行こ?」


 水瀬がそう言って一方的に話を打ち切り、俺の手を引く。

 俺は彼女の手の震えに気がつかない振りをして、その場を後にした。

 未だぽかんとした表情のままの水沢を残して。








 暫く無言のまま歩き、もう背後に声は聞こえないだろうというくらいまで来た後。


「あーーー、緊張したぁーー……」


 水瀬はそう言って大きく息を吐いた。


「お疲れ」


「お疲れ様! ごめんね、告白の断り文句の話してなかった……」


 『好きな人がいるから』って奴か。

 そう言って手を合わせてくる水瀬に俺は問題ないと首を振った。


「いや、合わせられる範囲だったし。……一応確認だが、本当に好きな人はいないんだよな?」


 もし居た場合、俺の立ち回りがかなりめんどくさいものになることが予想される。

 だから水瀬が頷いた時に俺が安堵したのは、きっとそれが理由だ。


「うん。今はいないよ。敢えて言うなら、飛鳥ちゃんかな~」


 唐突な百合百合しい発言に困惑した俺に構わず、彼女はうんうんと真面目な顔で頷いている。


「この恋は永遠なのです。……だから、そんな飛鳥ちゃんと幼馴染な二宮君とも、仲良く出来たら嬉しいな!」


「おう、まぁ善処する」


「うむ!」


 そう言ってにこにこと笑っていた水瀬は、あ、ところで、と話を変えた。


「付き合う時、二宮君に私から告白したことにしたのって何で?」


「あぁ、それな」


 分からないけど、と前置きして俺は考えを話した。


「もし俺から告白して水瀬が了承したことにした場合、俺がゴリ押しで受け入れてもらったって思われる可能性があるだろ? そうなると、同じようにすればいけると考える奴がいたっておかしくない」


 人当たりが良い彼女は、ただでさえ押しに弱いと思われがちだ。

 その危険を冒すより、彼女から告白したことにした方が角が立たないのではないかと思ったのだ。


「後はまぁ『水瀬は好きになった人には自分から告白する』って話が浸透すれば、少しは告白する奴も減るかもって考えもあったが……。というか、水瀬は自分が告白したってして問題なかったか?」


「あ、そこは全然大丈夫だよ。それより、色々考えてくれてたんだね……。ありがとう」


「お、おう。いや、大したことじゃないけどな」


 感心したような顔でお礼を言われて、俺は気恥ずかしくなって顔を背けた。

 











 その後の教室に着くまでも、俺達は水瀬の知り合いに次々に声を掛けられた。

 彼女が俺と付き合うことにした、と言うと、水沢のようにつっかかるとまではいかずとも、怪訝そうな顔をする奴がほとんどだった。




「ふぅ。ようやく教室到着かぁ。なんだか疲れたね」


 俺との仲を訝しがられる度に顔を強張らせていた彼女は、教室の扉の前でそう言って息を吐いた。


「俺は大して話してないから問題ないが。……どうかしたか?」


 水瀬がそう言った俺のことを微妙な表情で見ていたことに気づき問いかけたが、彼女は首を振った。


「…………ううん、何でもない」


 そして教室の扉の前で、よし、と気合を入れる彼女。繋いでいた手は、今はもう離していた。









「おっはよー!」


 ガラリと扉を開けて教室に入ると、水瀬が元気よく周囲に向けて挨拶した。


「おはよう」


「あ、おはようございます」


「おはよ~」


 それに答えた三人の女の子。


 一人目は俺より後にアパートを出たにも関わらず、俺達が登校に時間を掛けすぎたせいで先に教室に着いていた飛鳥。


 次に礼儀正しく挨拶したのが古賀で、間延びした声が姫野だ。彼女らに水瀬を加えた4人は最近仲良くなったようで、これには俺もニッコリである。飛鳥の友達が増えるのは良い事だ。誤解されやすい奴だしな。


「お、二宮来たか。今日は遅ぇんだな、もうすぐ橘と小田も来ちまうぞ」


 俺に気づいた柊も当たり前のようにそこに加わって、いかにも友達との朝の集まりって感じだ。

 ここに自分がいることに胸が熱くなった。

 これは元ぼっちの性ですね。


「というか、二宮さん今日は未来と一緒に来たのですか。随分距離が近いように思いますね」


 古賀はこの通り言葉遣いは丁寧なのだが、けっこうずばずばと思ったことを言ってくる。


「ていうか~、私さっきちらっと廊下の方見たら、二人が手を繋いでるように見えたんだけど~」


 姫野のおっとりした言葉を柊が継ぐ。


「おいおい、どういうことだよ。二宮はいつからそんなプレイボーイになったんだよ?」


「お前にだけは言われたくない。えっとな……」


 俺が何と説明しようかと迷っていると、水瀬がそれを遮って言う。


「あ、私から言うよ。……えっとね、実は私達……付き合うことに、したんだ……けど」


「……」


 彼女がそう言ううちに、教室内は静寂に包まれる。

 周りの反応の薄さに、だんだん尻すぼみになってしまった水瀬の言葉。


 今や彼女の唇は固く結ばれ、何かを後悔するように手のひらはぎゅっと握り締められていた。


 その時、姫野が沈黙を破ってぽつりと言った。




「そっか~、お似合いだと思うよ~! おめでと~!」




「…………え?」


 一瞬何を言われたか分からなかったのか、ぽかんとした顔をする水瀬。そんな彼女に構わず、古賀もいつも通りの少し平坦な声で言った。


「私は少し驚きましたが、確かに言われてみれば、二宮さんと話す未来はとっても楽しそうでしたね。おめでとうございます」


 教室内にはいつのまにか喧騒が戻ってきていた。

 そして、未だ固まっている水瀬に、飛鳥が心底不思議そうな声音で尋ねた。


「あら、どうして未来の方がそんな驚いた顔をしているのかしら?」


「……ううん。なんでもない! 皆ありがとう!」


 水瀬は三人に向かって抱き着くと、彼女達は不思議そうにしながらも笑って受け止めていた。

 それを横目に、柊は俺の肩を軽くパンチしてくる。


「ったく、それにしても二宮も水臭いぜ。言ってくれれば俺が相談に乗ってやったってのによ。ま、でもおめでとさん」


 その後始業ぎりぎりに教室に入ってきた橘や小田達にも伝えたが、やはり取り立てて驚かれることはなかった。


 ……まぁ、小田は多少取り乱していたが。


「じょ、冗談キツいでござるよ、二宮氏! この間、『彼女なんて傍に誰かが居なきゃ生きていけない軟弱な奴らが縋る為のものだ。俺には必要ねぇ』ってドヤ顔で語ってたではござらぬか!?」


「えぇ!? ちょっと何言ってるか分かんないですねぇ!」


 小田の痛切な叫びに俺は余裕の表情で答える。

 そうそう、こういうマウントが取りたかったんだよぉ!


 それから休み時間に他クラスの生徒が俺達を覗きに来ることはあったが、直接何かを言われることもなく一日は過ぎていった。


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