対決
歯車の力で距離を縮め、その勢いも乗せて戦斧を振るう。
隙だらけの横腹を狙っての横薙ぎは回避も出来ない速度で迫るが、黒鎧が雑に構えた剣で受け止められる。
「うん!?」
思わず声を上げてしまう。
その動きと強さがあまりにも噛み合っていなかったからだ。
私はその構えで、あるいは動きで、相手がどのくらい強いのか、どのくらいの力を込めているのかを読み取ることが出来ている。
これまでの経験のおかげで相手の体を一目見さえすれば、体のどこにどう力を込めているのか、そこから相手が次にどう行動するのかまでが読み取れたのだが、目の前の黒鎧はなんとも雑な動きであり得ない力の強さを見せてくる。
腕にも足にも腰にも、体のどこにも力を込めていないのに、私の結構な力を込めた一撃をあっさりと受けられてしまっている。
それはあり得ないことだった、鉄の塊がパンのように柔らかいとか、羽毛のように軽いとか、そのくらいにあり得ないことだった。
そして黒鎧が戦斧を受けた剣を振るうと、戦斧ごと押し返されてしまう。
何が何やら、理解が出来ないがだからと言って何もしない訳にはいかないので、押し返された戦斧をそのままに振り回し、ついでに歯車にも指示を出して横に一回転、先程とか逆側に横薙ぎを入れる。
力を入れず、まともに構えず、そんな相手であるならばこの一撃はぶち当たると思っていたが、予想通りに相手の脇腹に命中する……が、まるで鉄の壁を殴っているかのように衝撃が伝わらずに返ってきて、私の方が弾き飛ばされてしまう。
「……アースドラゴンの甲羅よりも硬いのではないか?」
思わずそんな声を漏らしながら一旦距離を取る。
訳が分からないというか、理解が出来ないというか、混乱してしまうような状況だが、相手にも聖地の力が宿っているのなら、そういうこともあるのだろう。
……さて、どう攻めるか。
とりあえず様子見かと手斧を投げてみる、見事に当たるが傷を与えることも出来ずに弾かれ、手元に戻ってきた手斧を見てみると刃が欠けてしまっている。
……戦斧と違って修復しないだろうというのに、ものの見事に。
これはもう迂闊に投げられないなぁと、戦斧を構え直す。
そんなこちらを見てか黒鎧は剣を振り上げ猛然と襲いかかってくるが、その動きは情けなく緩慢だ。
しっかりと鍛錬をしていないのだろう、下手をすると剣を振ったこともないのかもしれない。
そんな一撃をさっと回避しながら反撃しようとすると、回避したはずの剣の左右に実体のない影のような刃が現れる。
そういう武器だったか!? と、慌てて大きく回避しようとするが間に合わず、鎧が光って影の刃を弾き飛ばしてくれる。
その光は攻撃を弾くだけでなく、黒鎧のことも照らし出してくれていて、それまで真っ黒に見えていた鎧の構造や、兜の中に隠れていた顔なんかが視界に入り込む。
……随分と卑屈な顔つきだ、攻撃を失敗したことに歯噛みをしているらしい。
初めて目にするその顔になんとも言えない気分になりながら私は、改めて反撃として戦斧を振り上げ、振り下ろす。
相手が頭を守ろうと持ち上げた剣に命中、そしてまた弾かれ、相手は微動だにしないまま私は吹き飛ばされる。
先ほどよりも強い力で弾かれて、頭上から背中側へと戦斧が流れてその勢いをどうにか殺そうと踏ん張った私は……そこであることに気付き、あえてその勢いを殺さず流れに乗る。
普段、地面に立っているときにそんなことをしてしまえば、筋を痛めるか関節が外れるかだが、今私がいるのは空中で、私の体を支えてくれているのは神器の歯車で、何の支障もなく体が縦に回転してくれる。
そうだ、自由自在に空を飛べるのなら、逆さになったって良いはずだ。
真っ直ぐに、地面があるかのように立っている必要なんてないはずだ。
逆さになったまま、戦斧を下から上に振るう。
剣で弾かれなければダメージがあるはず、そして今剣は振り上げられているから下からの攻撃には対応出来ないはず。
そう考えての一撃だった訳だが、命中よりも早く予想外の展開が巻き起こる。
「ひぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
黒鎧からの声、悲鳴のような甲高い声。
直後、黒鎧は姿勢も構えも何もかも見出して股間を守るかのような姿勢となる。
そこに戦斧が、相手の右腕の籠手にしたたかに直撃し、凄まじい音が響き渡る。
そして戦斧が弾かれるが、剣で受けられた時程は大きくなく、また衝撃が伝わったという手応えもあって、剣以外の部分を殴れば良いのだろいう答えを得る。
「この野郎がぁぁあ、またしてもぉぉぉぉ!!」
すると黒鎧がそんな声を上げてきて、私の足目掛けて剣を振り回してくる。
鎧は良いとして歯車が壊されたら大惨事だ、慌てて距離を取った私は逆さになったまま、この歯車の力で四方八方から殴りつけてやれば勝てそうだと、戦斧を握り直し……今までのない空中での戦いへと突入していくのだった。
――――そんな戦いを見上げながら ジュウハ
ディアスが飛んできた、謎の黒鎧が飛んできてそれに相対した。
全く訳の分からない状況ながらどういう訳か敵軍の動きが鈍っていた、それを見逃さずにジュウハは全軍を砦内に戻し、怪我人の治療や編成のし直しなど、立て直しを行っていた。
視線は空を見上げたまま、口を動かし指示を出し、部下の報告を耳で聞き、視線はしっかりとディアスを見やりながら。
「立て直しは概ね完了しました、エルダン様もお怪我はないようでご無事です。
今は身を清めて頂いていて、それが終わったならお食事をしていただく予定です。
……して、空のあれはその……ディアス様で?」
すると部下の一人がそう報告の声をかけてきて、空を見上げたままジュウハは言葉を返す。
「だろうよ、あんなのが世界に二人もいてたまるか。
……問題はあの黒い敵だな、一瞬リチャードかとも思ったが、どうも違う。
……奴はもしかしたらずっと、ずっと俺様達のことを邪魔してくれていたヤツなのかもしれねぇぞ。
不可解な反乱軍の動き……いや、それよりも前の、大耳跳び鼠人族によるディアス襲撃やディアーネの暴走にすら関わっていたのかもしれんぞ。
……ってことはあれか、あの黒いのはアルフォス・マルゲリフか。
まさかアレがあんな様になるたぁなぁ」
「……アルフォス? 聞き慣れない名前ですが、有名なんですか?」
「いや、全く。
たまたま俺様の情報網に引っかかっただけの雑魚だった……んだがなぁ。
ディアスを恨んではいるが、本気で恨むことも復讐することも出来ねぇ根性なしだったはずなんだが、何がどうしてああなったやらなぁ。
……しかしあの雑魚があんな力を手に入れているということは、それだけの存在に接触したということでもある。
今回のリチャードの動きにも関わっているっつうか、あれこそが黒幕ってことになるのかねぇ」
「……とすると、あれがディアス様に倒されたなら、この状況に活路が見えると?」
「さて、言い切ることはできねぇが、この状況であのディアスがわざわざ飛んできて襲いかかってんだ、全くの無意味ってことはねぇはずだ」
と、そんなジュウハの言葉を受けて部下もまた空を見上げ始め……空から砦内のジュウハ達は、東軍の動きへの警戒もしながら空を見上げ続けることになるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は引き続きVSアルフォス
アニメは先行配信で6話、半分まで行きました!
これからは登場キャラも増えていきますので、そちらにもご期待ください!




