謎だった男
――――戦場で ディアス
黒く見えるのは、ソレが黒い鎧を身にまとっているからのようだ。
私の鎧に似ているように思えるが、細かい作りや意匠は全くの別物で……よく見てみるとアレはドラゴンか?
フレイムドラゴンの顔のような兜に、鎧には鱗のような模様が刻み込まれ、尻尾や翼もある。
人間にとっての仇敵であるドラゴンの意匠を身にまとうなんてのはただただ不吉で、色が混じりっけのない黒さだというのも、また不吉さを増させている。
そんな鎧の力なのか何なのか、ソレは私と同じくらいの高さで空に浮かんでいて……鎧の中身が真っ直ぐにこちらを睨んでくる。
……アレはかなりヤバそうだな。
「皆は離れていてくれ」
私がそう言うと、一緒に戦うつもりだったのだろう、周囲を舞い飛んでいた鷹人族達が少しの躊躇の後に離れていく。
そして私が戦斧を構えていると、鎧と一体化した大トカゲが声をかけてくる。
『アレは人間だぞ、君と同じ人間だ……つまりはアレは聖地の力による結果だ。
しかしあの異様さ……どういう意図でああしたのだろうね。
……ここで力を貸してやっても良いのだが、そうするとアレを作り出した聖地を刺激してしまい、聖地同士の泥沼の戦いとなる可能性がある。
だから自分と自分で集めた神器の力だけで頑張り給えよ』
「分かった、よく分からないが言う通りにしよう」
私がそう返すと大トカゲの気配が消える。鎧はそのままの形状だが、そこに大トカゲはいないらしい。
ならばと改めて戦斧を構えた私は、こちらに真っ直ぐ過ぎる敵意を向けてきている黒鎧と戦うために歯車に意思を伝えて真っ直ぐに突っ込んでいくのだった。
――――???? ??
それはもう使用することもないだろう部屋の消毒作業を進めながら、次にどうすべきかと思考を巡らせていた。
義務だからと扉を開き、叡智を与えはしたものの、得るものは何も無かった。
結局アレは何もせずただ傍観し、その挙句に嫉妬を募らせ、嫉妬に飲み込まれて暴走し……最後の最後まで何も成さなかった。
血を残せないのだとしてもモンスターを狩るなり仲間を助けるなり、あるいは歴史に関する研究で成果を残すなりしたなら意味があったのだろうに本当に何もせず、何も成さず……扉を開いた意味はあったのだろうか?
このまま何の役にも立たないでは話にもならず、どうにかして役立てようと考えた末に思いついたのが、アレに力を与えるという策だった。
戦うための武器と鎧を……あの金色の真の人間と相対することが出来るだけのものを与えて、戦わせる。
武器も鎧も何もかもをおぞましく作り上げ、そう演出し……真の人間に倒させる。
劣化物の上に立ち、自らの勢力を作り上げ、積極的にモンスターを狩り、あれこそは真の人間だ。
その思想には問題があり、行動にも思うところがあり、理想的で完璧な後継者とは認められないが、日に日に数を減らしていることを思えば贅沢は言えない。
正統を盛り上げなければならない、正統に力を集めなければならない。
……だから演出をしようとそれは考えていた。
英雄には敵が必要だ、悍ましく恐ろしく我欲にまみれた敵が。
だからまずアレに多くの無辜の民を殺させようとした、場合によっては赤子さえも殺させようとした。
それを救いに来るのは英雄、あの男も子供が人質だと知れば動かざるを得ないだろう。
そのついでに存在もしない偽神を祀る連中を贄とし、そのための場を整えることで更にアレの印象を黒く染めようとした。
結果としてその企みは失敗することになった……英雄が想定以上の速さで王都にたどり着いてしまったからだ。
民の援軍は未だ遠く、赤子達は救出され、悲惨な贄は埋葬されてしまった訳だが……だが英雄はやはり英雄、まさかの方法で戦場に現れてくれた。
これ以上あんな光景を広げる訳にはいかないと考えたのかとにかく動きが迅速で……だがこれはこれで悪くない機だった。
だからアレに力を与えた、武器や防具も与えた。
演出だ、英雄を盛り上げるための……そのためには雑魚では話にならない、英雄の前に立ちはだかる壁でなければならない。
だがあの男を抑え込める壁となると尋常なことではない、かなりの力を与える必要があった。
人間にそこまでして良いものかと悩みはしたが、随分と罪を犯している人間でもある……多少のやり過ぎも許容されるだろう。
だから許容量を超えた力を与えた、反動でどうなるかは明白……力を使いすぎればどうあれ命はないが、それもまた自らで選んだ道……ほんの一時でも英雄に肉薄出来るのなら、本望というものだろう。
その後どうするかはまだ決まっていないが……英雄ならばどんな試練を与えても乗り越えてくれるだろう。
……さて、最早役立たずでしかない人間よ、どう英雄をもり立てるのか見せてもらおうか。
と、そんなことを考えた聖地のそれは静かに……ただ静かに戦場の様子を見守るのだった。
――――戦場で 黒い鎧をまとった男
男は復讐者だった。
ディアスに潰され、身分を奪われ、落ちぶれて……色々と企むがその全てに失敗した。
これ以上ない人生の敗北者、一方で自分を貶めたディアスは領主として、公爵として成功し、成り上がり……まさに人生の勝者。
あまりに惨めで絶えきれず、自死さえも考えたが聖地に至ることで全てが逆転した。
世界の真実を知った、自分の価値を知った、自分達が目指すべき理想の社会のあり方をしった。
獣人亜人共に世界を奪われるなんて冗談ではない、正しき世界を取り戻さなければ、正しき人間の手によって管理をしなければ。
……自分に子が成せれば自分で果たしたのだが、しかし不可能で……だからこそディアスを憎みもしたが、同時に親しみも感じることになった。
同じ人間、真なる人間……自分には無理だがディアスになら可能かもしれない。
相応しい相手を、相応しい思想を、相応しい目標を抱いたならば、世界を取り戻すことが出来るはず。
……しかしディアスはそれとは真逆の方向に突き進んでいて……男は決意する。
ディアスから奪うことを。
聖地の技術ならば奪いさえすれば再生が出来るらしい、正しき人類を残すことが出来るらしい。
……ならば世界のためにディアスを倒すしかない。
最早復讐心は無いと断言しても良い。責任と宿命……成すべきを成すだけとも言える。
「アルフォス・マルゲリフ……! 世界のために戦わせていただく!」
そう声を張り上げた男は、腰に下げた鞘から剣を引き抜き……なんとも粗雑な構えでその切っ先をディアスへと向けるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は男とバトルです!
アニメは4・5話に突入
キャラが増えてきて、色々と動き出し始めますので、これからの展開にご期待ください!!




