空を舞う
――――西軍の砦の歩廊の上で ジュウハ
その光景を見て、歩廊に立って周囲を警戒していたジュウハは硬直していた。
援軍が実質単騎で現れた、しかもそれが空を飛んでいる、事前に予告されていたとは言え、それでも度肝を抜かれる程にとんでもない光景だった。
どんな兵学書にも書いていないそんな状況に、どう対応したら良いかが分からないがためにジュウハは硬直してしまっていた。
これを機と見て打って出るべきなのか? それとも相手の動きを見るべきなのか?
これを受けて相手がどう動くかも良く分からなかった。
そもそも今の東軍、リチャードは動きが読みにくい……その上でこれはもう読み切れるものではなかった。
懸命に思考を巡らせる、周囲の状況全てに意識を向けて状況の変化を見逃さないようにしながら悩み続ける。
そうする中でジュウハは東軍もまたジュウハと同じか、それ以上の混乱の中にあることに気付く。
(そりゃそうだ、空飛んでるディアスなんてどう相手をしたら良いのか、訳が分からな過ぎるからな。
一方的に攻撃されちまう上に、相手はあのディアスだ、間違いなく王国最強、装備は頭からつま先までが神器、俺様でもどうしたら良いのか分からなすぎるってんだ。
……ここで下手につつくのは論外か、混乱の中の奇襲も悪くはない手だが、それで変に立て直されても面白くねぇ。
それよりかは混乱のままディアスに攻撃されて、逃亡兵でも出た方がありがてぇ。
その逃亡兵達がこの光景を触れ回ってくれりゃ、あっちの士気にも影響があるはず……)
そう考えてジュウハは声を張り上げる。
「しばらく様子を見る! いつでも出撃できるよう準備だけは怠るな!!」
そんなジュウハの指示を受けて、砦内の面々は気もそぞろ、空を見上げたままノロノロと動き始める。
普段なら咎めるジュウハだったが今回ばかりは何も言わずに、ディアスのことだけを睨みつける。
(……んで結局アイツは何しにきやがったんだ? 援軍、なんだよな??)
なんてことを考えていると空を舞うディアスは、なんとも器用に歯車を操って降下を始めて、そして手斧を構えて砦を包囲する東軍の一部へと上空からの投擲攻撃をし始めるのだった。
――――一方その頃、東軍の陣幕で ディアーネ
「撤退だ! 引き上げろ!!」
空飛ぶディアスを見て、ディアーネの判断は迅速だった。
夢か幻か、悪夢でも見ているかとも思う光景だったが、自分の頬を殴ってみても目覚めることはなく痛いばかり、どうやら現実の光景ではあるらしい。
そうなるとアレと戦う必要がある訳だが、現状そのための武器も策もなく、せめて対ドラゴン兵器でもなければ話にならない。
常識、倫理、様々な法で対人に使うことが禁止されている対ドラゴン兵器だったが、この際そんなことも言っていられない。
自由に空を舞い飛ぶアレに勝つには使わざるを得ない……が、そのためには相応の準備が必要だ。
ならばもう退くしかない。
折角敵軍を包囲しているのに、なんて未練を残せば被害が大きくなるばかりだろうとディアーネは確信していた。
そんな号令を受けてディアーネの直属の部下達はすぐに動く。
混乱してしまうような状況ではあるが、ディアーネがそう言ったのであればその通りにしたら良いと、信頼しているからこその行動だった。
しかしディアーネの指示に従うのはほんの一部で、東軍のほとんどが混乱に飲み込まれていく。
そんな包囲軍の有様となんとも言えない気分で見ていたディアーネは、あることに気付く。
ディアーネの周囲以外にも混乱が起きていない一軍があるということに。
そこはリチャードの陣幕がある場所だったはず、リチャードの指揮が行き届いているからなのか、他の理由なのか……そこには混乱はなく、弓矢や槍を構えて上空の敵に備えようとしている。
「そんなものが何の役に立つ……!!」
思わず声を上げるが、それがあちらに届くことはなく……そして踵を返したディアーネは、それ以上戦場を見やることなく、撤退を始める。
そうやってディアーネと一団が撤退を始めたのを見て、周囲の一部もそれに続く。
訳が分からないながらも、どうにか生き残ろうと必死に考えての決断だったのだろう。
そうしてディアーネは東軍の3割程を率いながら撤退……東にある拠点へと逃げ込み、立て直しを図るのだった。
――――空から見下ろしながら ディアス
「ジュウハも目が曇ったなぁ」
思わずそんな声が漏れる。
下に見える戦場から漂ってくるのは敗色の空気、戦場で何度か感じた言葉で説明するのは難しい何か。
それが漂っている戦場からは逃げるしかないのだが、ジュウハはよりにもよって籠城を選んだらしい。
以前のジュウハなら私より先にそれを感じ取って逃げていたはずなんだがなぁ……。
それとも上から見ているからそう感じ取ることが出来ているのだろうか?
上からの視点、鷹人族の視点、初めて体験するそれは特別なものだった。
空を飛ぶという体験も中々だったが、私は空を見ているよりは地面を見ている方が好きだった。
街の光景、街道の光景、森の光景、平原の光景。
そこに生きる人々に動物に、人々の営みに……。
普通だったら絶対に見ることの出来ないそれは、なんとも特別で、途中からはずっと下を見るばかりだった。
そんな私を心配してか鷹人族の若者達が同行してくれて、おかげで迷うことなくここまで来ることが出来た。
何しろ空に道なんかないからなぁ……一度迷ってしまうとどうにもならなかったかもしれない。
「ディアス様、お疲れで?」
ずっと動かずにいたからか鷹人族の若者が心配そうに声をかけてくる。
「ああいや、どこから手を付けたものかと思ってな……とりあえずあの辺りを攻めようかと思うんだが」
私がそう返すと、その鷹人族は私の前に出て私が指さした方へと視線をやる。
「なるほど、唯一混乱していない部隊ですか。
……あちらの撤退している部隊は良いので? あちらも統率が取れたままのようですが」
「帰りたいのなら帰してやろう、戦いを止めに来たんだからむしろありがたい話だ。
それよりも味方があんな風に崩れているのにやる気満々の方が怖いな。
……だが同時に、あれを蹴散らしさえすれば立て直しは不可能になるはずだ、あそこを突くのが一番だと思う」
「了解しました、我々はどうしましょうか?」
「矢が当たりでもしたら大惨事だ、空から見下ろして何かあれば大声を上げてくれ。
歯車の力があればいつでも空に戻れるのだから、一人でも十分なはずだ」
そう言ってから手斧を手に取り構えながら降下していく。
……この歯車の力を知った時に思った、これはこの時のためにあったのだと。
兵士でもなんでもない民を巻き込んでの乱戦なんて冗談じゃない、そうなる前にどうにかしろと、この時のためにこの歯車は生まれたのだろう。
そう考えて私は手斧を持つ手に力を込めて……民を巻き込むくらいならばと、目の前の一団に犠牲が出るのを覚悟で投げようとする。
と、その時、突然何かが現れる。
黒い何か、おぞましい何か。
一瞬神々かとも思ったが、気配や姿からするとどうやらそれは人間のようで……そうして私はまさかの私以外の空飛ぶ人間と相対することになるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はVS何か
そしてアニメ最新話公開されています
TVでも続々放送となっておりますので、3~4話、チェックしていただければ幸いです!!




