援軍来たる
――――砦で エルダン
援軍が来る、その連絡自体は誰にとっても喜ばしいものだ。
その上、救国の英雄が援軍となれば、味方敵双方の士気に影響があることで、本来であれば手放しで喜ぶべきことだ。
しかしそれが単騎というのはなんとも反応に困る話だった、しかも遥か遠方の王都からの援軍。
駿馬を抱えるメーアバダル軍とは言え、一体何日かかるのやら……そもそも東軍に見つからないはずがなく、まともに合流出来るとは思えない。
果たしてそれは援軍と言って良いのだろうか? 頼って良いのだろうか?
何故単騎なのか? 他の面々はどうしているのか? 援軍はそれで終わりなのか?
そういった疑問もあってエルダン達は困惑することになる……果たして期待を抱いてしまっても良いのだろうか? と。
しかしその単騎はあのディアスだ、単騎で戦場の流れを変え得る男だ。
公爵であり領主であり、それが援軍に来るということはメーアバダル領が正式に味方になるということでもある。
ディアスに期待を寄せるのであれば到着を待っての防衛戦、期待しないのであれば流れを変えるための大胆な策に出る必要があり……結局エルダンが出した結論は防衛戦だった。
元々の目的だった砦に入り、そこで兵達を休めながらの防衛戦。
これから数万を越える敵軍がやってくることを考えるとそれは、逃げ道を失う失策のように思えるが、あのディアスならばなんとかしてくれるに違いないという期待から……憧れから、その結論に至っていた。
もちろん全くの無策でそうする訳ではない、ジュウハはジュウハなりの考えで動き始め、マーハティ領の面々も事態を打破しようと動き始めている。
そうした面々の動きを助けるためにもエルダンは、一番目立つ形での籠城戦を……自らを旗印にしての大胆な囮作戦を決断していた。
そしてそれは見事に成功、東軍の意識全てがエルダンと砦に注がれて、その数の差を活かしての包囲戦が始まっていた。
「……だからこそ一度は打って出たいところであるの」
砦の歩廊に立ち、包囲のために動いている東軍を見やりながらエルダンが、そんな独り言を口にする。
ただ包囲されるだけではなく、一撃を与えておきたい、意識をこちらに向けておきたい、損害を与えて警戒感を増させて、相手を疲労させておきたい。
そんなエルダンの独り言は耳の良い獣人達にしっかりと届いていて、血気盛んな何人かがすぐさま動き出す。
エルダンと共に駆けるために、この鬱屈とした状況に一撃を与えてやるために。
砦を包囲されるというのは精神的に凄まじい負担を与えてくる。
絶望と言っても良い圧力、先の見えなさ、何もせずにただただ追い詰められていくだけの状況。
戦場に出てしまえば、そうした気分から解放されるとあって、完全に不利な状況ではあるのだが、多くの兵士達が前のめりとなっていた。
そしてエルダンもまた前のめりで……少しの休憩の後に門が開かれ、エルダン達が一気に駆け出す。
持久力はない、だからこそ短期決戦のつもりで全てを吐き出してやろうと、武器を構えて前のめりになって、獣のような姿勢で奇襲部隊が突撃していく。
当然東軍はそれに備えていた、何もせず籠城戦をしてくれるだろうなんて都合の良いことは考えていなかった。
しかしその勢いと士気の高さは予想外で、大慌てで迎撃しようとするも間に合わず、エルダン達の突撃は包囲軍の一部に見事に食らいつく。
包囲をするために大きく広がっていた東軍は、その一部だけを見ると人数が少なく、薄い配置となっていた。
全力で突撃してくる獣人達を受け切るための分厚さはなく、あっという間に噛み砕かれる。
先陣を駆けるエルダンの攻撃は、同時に三撃、四撃が放たれていて、ほんの数秒で何人もの兵士達が戦闘能力を奪われる。
斬られ叩かれ吹き飛ばされ、味方がそうなるのを見た兵士達はあっという間の混乱状態となる。
その隙を突こうとエルダン達は更に勢い付き、そのまま快勝かと思われたが東軍の指揮官達が指揮を取り始めると、あっという間に防衛姿勢が出来上がっていく。
目の前の獣人達が恐ろしいからこそ、脅威であるからこそ東軍の兵士達は生き残るために必死になって状況を整えていく。
大盾を構えてその隙間から大槍を突き出して、迂闊に飛び込めない状況を作り、その後ろから弓を射る。
普通と言えば普通、王道と言えば王道、だからこそ練兵が容易く突き崩しにくく、数で勝る軍にそうされてしまうと、獣人の力があっても簡単にはいかない。
やろうと思えば突き崩せるが、そうこうしているうちに体力が尽きてしまい、数に押しつぶされてしまう。
……これは無理だ、そう判断したエルダンはすぐさま砦に戻るべく駆け出す。
一切の未練を残さず脱兎のごとく、砦に向かって一直線……しかしそれを読んでいたのか、騎兵の一団がエルダン達の前に先回りしてくる。
その先頭に立つのは王女ディアーネ、以前に見かけた時とは別人かと思うような野趣溢れる姿で、獣人かと思うような形相でこちらに攻撃するために声を張り上げてくる。
やられた。
そう思わずにはいられない、これまで何度も繰り返された戦闘の中でディアーネの厄介さは分かっていた。
最強という訳ではない、確実にディアスにもエルダンにも及ばない、エルダンの部下である多くの獣人達にも敵わないだろう。
しかし弱いかと言うとそうではなく、一軍を預かるだけの強さはあり、それでいて指揮能力は抜群……その美貌で兵士達を惹きつけるのか、兵士達の指揮は高く、練度も侮れず、倒せなくはないが簡単にはいかない、厄介な相手であるということをエルダンは痛感していた。
これに構っていては逃げ切れない、背後からも敵軍が迫っている。
だから駆け抜けたいのだがディアーネは隙なく構え、焦ることなくじっくりとこちらを追い詰めるために動き続ける。
時には迫り、時には引いて、騎兵であることを活かしての時間稼ぎ。
一切の乱れなく隙なく、完璧に行われるそれにエルダンであっても翻弄されてしまう。
それを見て砦からは救助に向かおうとの動きがあり、背後からは敵軍が迫り、前方のディアーネは悔しいくらいに華麗に動き回る。
……これはやってしまったか、失策だったか。
しかしここで動かなければ……と、そう考えたエルダンは、それでもと前に突き進むことで状況を打開しようとする。
と、その時だった。
どこかで見た手斧が空から降ってくる。
凄まじい勢いで回転しながら、ディアーネの持っていた騎乗槍を叩き落とし、それから手斧はおかしな軌道で回転しながら空へと戻っていく。
「砦まで走れ!!」
そして声、聞き慣れた声。
直後また手斧が降ってきて騎兵達の武器を落としたり、あるいは騎兵そのものを落馬させたりしていく。
その手斧のことはよく知っている、願えば主の下に戻る手斧……神器の一つ、そしてその使い手のことも知っている。
問題は何故それが空に戻っていくのか……何故それから降ってくるのか。
色々と疑問はあったがエルダンはまずは駆けて砦に戻ることを優先する。
駆けて駆けて、開かれた門の中になだれ込んで……門が閉じられたのを確認してから安堵のため息を吐き出し、それから振り返り、状況を確認するために歩廊へと駆け上がり、そして困惑の声が響き続けている戦場を見る。
それから視線を上げて空を見上げて……そこであるものを見たエルダンが大口を開けることになる。
二つの歯車が回っている。
軸もないのに何故か回っている、地面から空へと伸びるまっすぐの軸が、見えない軸があるかのように激しく回転していて……その上には黄金色の鎧の姿。
歯車の少し上に宙に浮いているかのように立つその姿もまた見慣れた姿であり……何人かの鷹人族を従える救国の英雄は、見事なまでに空を飛んでいて、それからしばらくの間、砦内と戦場は前代未聞の大混乱へと陥ってしまうのだった。
お読みいただきありがとうございました。
ディアスは単騎のつもりでしたが、鷹人族が心配で勝手についてきちゃった感じです。
次回はこの続き、ディアス視点であれこれです
そしてアニメ2話が放映、3話が配信開始となりました!
3話ではペイジン・ドやらあのキャラ達が登場!
特にお気に入りの一話だったりするので、ぜひぜひチェックしてみてください!




