ゴルディアとエリー
登場キャラ紹介
・ゴルディア
人間族、男、酒場の主、ギルドの長。ディアスの孤児仲間で、ディアスが率いる子供達の副リーダー的存在。
ディアスが戦場に行ってからは、代理でリーダーを務め、そこからギルドを設立、ディアスを後方支援しながら、孤児仲間それぞれの生業を成功に導いた
・エリー
人間族、心は女性、外交官。ディアスの育て子の一人、ギルドの設立メンバーでもある。
自立後は商人となり、自らがデザインした服などを売る商会で大成功を収めたが、領主となったディアスの下に向かうため、その商会をあっさりと手放した。
――――酒場で接客の準備をしながら ゴルディア
ゴルディアという男の根幹にある方針は、基本的にはディアスと変わらない。
仲間を飢えさせないこと、仲間を守ること、皆で楽しく日々を過ごすこと。
だけれどもゴルディアは、ディアスにはない目標もしっかり持っていて……それが平民を見下している貴族を見返すこと、だった。
戦争中、ディアスを支援していた理由のほとんどはディアスのためであったが……平民であるディアスを活躍させることで、貴族達を見返してやるという想いもしっかり持っていた。
だからこそ演劇や歌といった手法でディアスの名を挙げるために腐心をしていて、そこまで重要そうに思えないことにもあれこれと手を回していて……そして今、ゴルディアのそんな目標は理想的な形で、叶えられようとしていた。
平民が公爵になって、領地の開拓に成功して、新しい技術を手に入れて、どこよりも大きく発展する……かもしれない。
もしそうなったら、これが上手くいったなら、メーアバダルが大きく発展したなら……貴族と平民という枠組みそれ自体がなくなるかもしれない、壊れるかもしれないと、ゴルディアは胸を躍らせていた。
貴族達は言う、伝統的な血筋に意味があると……その血筋にあるからこそ賢く、正しく領地を治められるのだと。
だが、平民のディアスが成功したなら? 最上位に成り上がったなら? そんな言葉何の意味もない、平民だって貴族以上のことが出来るのだと実践でもって証明することが出来る。
……そのためならゴルディアはあらゆる手を尽くすことが出来る、全てを賭すことが出来る……ディアスにあれこれと意見を言うことも出来る。
ちゃんとした学問を修めた訳でもなければ、天性の賢さがある訳でもない……それでも領地のためになると思うことを思いつけたならば、何の遠慮もなく進言することが出来る。
ディアスも他の誰でもないゴルディアが言うのであれば、どんなに苦々しい意見であっても耳を貸すはずで……ゴルディアは、さて、次はどんな意見を言うべきかと頭を悩ませる。
そうやって頭を悩ませながら酒場の掃除や、食器の手入れ、酒の管理などをしていると、ドアが開かれてマスティ氏族の大人達が5人、ゾロソロとやってきて……犬人族用の小さな席へとちょこんと座る。
小さなテーブルに小さな椅子、椅子の背もたれには尻尾が自由になるように、大きな穴が空いていて……そこに大人達が座った時点でゴルディアは、何も聞かずに酒と料理の準備をし始める。
その5人は常連だ、いつも注文するのは『お任せ!』だけ。
酒の名前も知らないし、料理の名前も知らないが、ここに来たら美味しいものを出してくれると信頼してくれているようで……ゴルディアはまず犬人族用に調整した酒を用意して、それを入れたコップを席へと持って行く。
基本はワイン、それを薄めて果汁や薬草、木の実などを入れて混ぜたものが犬人族用の酒となっていた。
体が小さく酔いやすく、ワインをそのまま出してしまうと、少量でもひどい悪酔いをしてしまうので……程々に、人間だったら薄すぎると怒るような薄さの酒が犬人族用となっていた。
そしてその酒を出す時に準備を進めている調理のメニューを口にする。
「今日は焼いた黒ギー肉に、隣領で仕入れた豚の腸詰め、それと海から届いた貝の煮染めと焼きリンゴ魚だ。
腸詰めと貝の煮染めが辛い味付けだな」
そのどれもが味が濃い、そしていくつかはとても辛い。
それらは酒が進むように、薄い酒でも美味しく楽しめるように、ゴルディアなりに改良したメニューだった。
それを聞いた犬人族達は穴から放りだした尻尾を振り回しながらコップに口をつけ……早く料理が来ないかなーなど、そんなことを言いながら酒を楽しんでいく。
メーアバダルでは、基本の三食は領主であるディアスが負担する形で無償で提供される。
滋養たっぷり、味も悪くなく、薬草などが使われているので体にも良い。
その三食を食べてさえいれば日々を生きていくには十分なのだが……より量を、より濃い味付けを、辛い味付けを、酒に合う味付けをと求める場合は酒場の出番となる。
(……それを選べるようになるくらい、領民が豊かになったってことなんだろうな。
こいつらも毎日来るようになって……それでも余裕があるってんだからなぁ)
基本的な支払いはメーア毛払いか、メーア布払い。
犬人族達はそれらを日々の労働で手に入れていて……それぞれの家が、氏族が、結構な貯蓄が出来ている状態であるらしい。
使う機会はそれなりに増えてきた、行商人が来たなら買い物をしない者はいない、誰もが景気よく楽しく買い物をしている。
その上で酒場にやってきて、毎日飲んで食べても……尚余裕がある。
誰もが皆真面目に働いていて、領主さえもが毎日働いていて、そして景気の良いことが連続していて……犯罪らしい犯罪は起きず、上層部が不正することもない。
結果、誰もが余裕を持つことが出来て、良い流れが出来上がっていて……誰も飢えることがない。
「あ、これ美味しい」
「からいっ……からいけど美味しい!」
「貝! 初めて食べたけど貝美味しい!」
「……か、からっ……お酒おかわりっ」
「リンゴ魚おいし~」
ゴルディアが料理を出すと、そんな声が響き渡り……それを聞きつけたのか、それとも料理の匂いに誘われたのか、何人かの客がやってきて、自分達に合った席へと向かって足を進めていく。
人間族・ニャーヂェン族用、洞人族用、鷹人族用、ゴブリン用。
などなど、日々増えていく席に客が腰を下ろしたなら料理を運び……するとまた客がやってきて次の料理を運び、そうやって席が埋まったなら、ゴルディアは大忙し……何人かの村人に声をかけて手伝ってもらっての、稼ぎ時が開始となる。
酒場にやってきた客の誰もが笑顔で、盛り上がって飢えや渇きを満たしていて……それを見たゴルディアは笑顔となって、その心は十分なまでに満たされているのだが、それでもゴルディアは頭を悩ませることを止めない。
それ程までにこれまでのゴルディアが、貴族に飲まされた苦渋は苦く多く……頭をこれでもかと悩ませたゴルディアは、いくつかの案を思いついた上で、さて次はディアスにどれを提案してやるかと更に頭を悩ませていくのだった。
――――獣人国の王都、ペイジン家の屋敷で エリー
王国人が初めて足を踏み入れたとされる獣人国最西の都には、エリーの想像を越えた光景が広がっていた。
王都の中央に位置する山の上に建てられた獣王の居城は高く広く、そこから放射状に広がる町並みは豪華絢爛。
並ぶ家々一軒一軒の壁や屋根に様々な、石材や陶器の飾りがあり、ペイジン・ドの説明によれば、それがその家の家名や生業を示しているという。
ただ示すだけならば簡単な飾りで良いはずだが、それでは粋ではないと、どれもこれもが職人の技と数奇を凝らした造りとなっていた。
屋根は赤く壁は黒く塗られ、なんとも派手な家々に挟まられた大通りには、多種多様……様々な獣人亜人の姿があり、その中でも特に隣領でも見た獅子人族の数が多く、警備員のような形で配置されているらしい兵士達の多くも、獅子人族だった。
エリーが知る獅子人族のスーリオよりは小柄ではあるが、それでも十分過ぎる程の体格と威厳を有した獅子人族の兵士達は、ただ立っているだけでもかなりの防犯効果となるだろう。
ペイジン家の屋敷は、そんな大通りの中央……都の入口と王城とのちょうど中間辺りに位置していて、そこに驚く程に広い……初期のイルク村程の広さの屋敷を構えていた。
そしてそこでエリーは、獣人国風の女性用の衣服を身につけての、礼儀作法を学ぶ日々を過ごしていた。
王国の男性用礼服で外交官としてやってきたエリーだが、獣王主催の祝宴では女性用の衣服で出席するのが好ましいらしい。
では外交の場でもその服が良いかと言えばそうではなく、男性用礼服で出席した方が良いとのことだった。
そんな風に男女入り混じった格好をして良いのか? という疑問に対してペイジン家当主、オクタドの答えは、
『昔から獣人国では、貴殿のような方を魂を二つ持つ方として敬意を示しておりましたので、問題がないどころか歓迎してくれるはずでございます』
とのことだった。
もしかしたら気にする者もいるかもしれないが、少なくとも獣王は気にしないとのことで……そういうことならとエリーも気にしないことにしていた。
そんなエリーの下には、鷹人族とペイジン家が構築した伝達網によって日々、様々な情報や手紙が届けられていて……その中の一つ、イルク村での日々が綴られた手紙をあてがわれた自室で、窓枠に腰掛けながら読んだエリーは、床に垂れる程に長い女性用衣服の袖を揺らしながら思考を巡らせる。
(まったくゴルディアさんらしいと言うか……色々と気持ちが先走っちゃってるみたいねぇ。
また貴族を見返すとかそんなこと考えているのかしら……?
ギルドを作って多くの平民を救って守って……既にそこらの貴族以上に立派なことをして、十分なことをしてるのに、まーだ物足りないって言いたいのかしらねぇ。
ま、でも今は貯蓄を他には回せないわね……思ってたより獣人国が立派で、兵力も十分、何かあって内部が落ち着いたらこちらに意識が向くのは明白、いざという時の備えはしておかないと、ね。
……獣人国がこちらを侮らないよう、バリスタで貫いたドラゴンの甲殻を贈呈品の中に混ぜ込んでおいたけども……さて、獣人国の皆様はそれを見てどういった反応を示してくださるのかしら)
バリスタで貫いた甲殻……見る人が見れば、それが相応の威力の兵器でもって貫かれたものであると気付くはず。
それだけの兵器を有していると分かれば抑止力になるはず……なってくれるはず。
イルク村代表者の面々とペイジン家の面々に相談した上で打ったその一手が、果たしてどういった結果を招くのか……エリーは少しだけ不安に思いながら、その答えが分かるその日を……獣王との面会の日を待ち遠しく思いながら、日々を過ごしていくのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回こそディアスの出番となります