それぞれの思惑
登場キャラ紹介
・エイマ・ジェリーボア
大耳飛び鼠人族、女性、セナイとアイハンの教育係で、ディアスの参謀、とても小柄でとても賢い、眼鏡をしている。
・ベンディア
人間族、男性、ディアスの伯父、メーア神殿の神官長、幼い頃のディアスにあれこれと教えた厳しい教育係でもあり、ディアスにとっては頭が上がらない人物
・小メーア
??? ?? 神々の一柱、大メーアの使者、メーアモドキと呼ばれていた。最近は気軽に顔を出しがち
・ペイジン・オクタド
フロッグマン、男性 ペイジン商会の商会長、ペイジン・ドなどの父親。温和で冷静、ディアスに非常に友好的で、獣人国で様々な工作をしてくれていた。
――――工房の様子を見やりながら エイマ・ジェリーボア
新型のトロッコで遊ぶ、セナイとアイハンを……トロッコには乗らずに、レールの側で見守っていたエイマは、ふとした拍子に辺り一帯を……工房と呼ばれる地帯の様子を見回し、それから思考を巡らせる。
一つの発見をきっかけに色々なことが前に進み始めた、それは爆発的な進展と言えたが……ドラゴンに依存する素材が必要がゆえに、一定の歯止めがかかってもいる。
やろうと思えばディアスやナルバントが考えている以上の物や武器が作れそうにも思えるが、必要素材に限界があることでそこまで手が回らないというか、発想が回らない。
余計な所にまで手を広げずに、堅実に足元を整えろと、誰かが言っているようでもあり……まるで神々がそうしたかのようにも思える。
神々という存在が実在するということを、その目でもって確認しているエイマは、そこまで思考を巡らせるが……いや、神々がそうしたいのなら直接忠告なりをしにきたら良い訳だし、そんな面倒な手は使わないかとも考える。
と、そこに神官のベンディアがメーア達を引き連れながらやってきて、先程のエイマのように周囲に視線を巡らせてから、ディアスに向けて声を上げる。
「ディアス、愚者の神話のことは知っているな? 程々にしておくんだぞ」
するとディアスは、視線をベンディアへと向けて、
「……ああ、分かったよ」
と、渋い顔で返してくる。
「愚者の神話ですか?」
突然聞いたことのない言葉が出てきて、気になってしまったエイマがそう問いかけると、アゴ髭を一撫でしたベンディアが側までやってきて……何の躊躇もなく地面へと腰を下ろし、メーア達を撫でながら話をし始める。
神々の時代と呼ばれた遥か昔、人々は不思議な力を活用することで繁栄の極みにあった。
火がなくとも光と暖かさに包まれ、大地を埋め尽くす程の食事があり、海よりも激しく溢れかえるミルクとワインを楽しむことが出来て、風のように尽きぬ蜂蜜があらゆる病を治した。
多くの人々が望む天国というものを見事なまでに再現してみせ、多くの人々がその恩恵を堪能していたのだが……その天国には大きな問題があった。
その問題とは……そもそもの不思議な力にあり、それを後世の人々は瘴気と呼んだ。
瘴気は大地を汚染する、汚染された大地はモンスターを生み出す……その事に気付いていながら人々は、天国での暮らしが止められず……溢れかえったモンスターに攻め滅ぼされる時まで天国に依存し続けた。
結果、天国は滅び、瘴気に汚染された大地だけが残り……そこは未だにモンスターを生み出し続けているという。
「―――とまぁ、こんな具合でな、過ぎた力は身を滅ぼす、過ぎた力に振り回される者を愚者と呼ぶ……というお話だ。
発展も繁栄も自らが制御出来る範囲にしろという、神殿に伝わる教えの一つだ。
色々な発見で飛躍的な繁栄が見えたのだとしても、突破口を開けるのだとしても、一旦落ち着いて足元を見つめ直すくらいでちょうど良い……と、そういう訳だな」
ベンディアがそう話を終えると、エイマは面白い話もあるものだなと感心する。
それと同時にやはりなんらかの歯止めをかけようとしている、何者かの意思を感じるようでもあり……少しだけ不安に思う。
とは言え何の根拠がある訳でもなく、不安に思うだけ無駄ではあるのだが……。
「発展も繁栄も程々に……ですか。
メーアバダルもいつかはそういう問題と向き合う時が来るのでしょうか」
と、エイマが返すとベンディアは苦笑して、何も言わずにメーアを撫でる。
すると……、
「瘴気を増やすような真似をしなければそれで良いの。
……モンスターの駆除や我が子らの保護ということを考えれば、発展してもらわなければ困るし、いちいち気にしなくても大丈夫。
……ただ過ぎた武器を人の世に向けすぎると、お怒りになる神々もいらっしゃるかもしれないから、そこは注意しなさい」
と、いつかに聞いた声がメーアの群れの中から聞こえる。
それはかつてメーアモドキと呼ばれた神の使い、小メーアの声で……エイマはすかさず跳び上がって、メーアの背に乗って群れの何処にいるのかと確認しようとするが……小メーアがいつも発している独特の気配は既に消失していて……どうやら先程の言葉を伝えるため、それだけに顕現したようだ。
「……えぇっと、ベンさん、今のお言葉、記録しておきますか……?」
メーアの背中にペタンと座り込み、突然乗ってしまったことを詫びるために両手で懸命に背中を撫でながらエイマがそう言うと、苦笑したベンディアは手帳と炭片を懐から取り出し、今の言葉を書き記し始める。
……ベンディアが記録したなら、村の皆にも伝えてくれるはず……ディアスを始めとした主要な面々にも伝えてくれるはず。
その言葉をどこまで守るかは分からないが……内容的に特に問題はないだろう。
モンスターの駆除も、メーアの保護も、人に武器を向けないことも、ディアスの方針に矛盾しない。
小メーアの言葉に関係なく、本人の気質でもってそうしているのだから、問題になるはずもない。
そう考えてエイマは小さなため息を吐き出し……なんだか楽しくなってきたのでメーアの背を全力でわしゃわしゃと撫で回す。
小さな手であってもそうされることは気持ちの良いことのようで、エイマに乗られたメーアは目を細めて地面に座り、スピスピと寝息を立て始め……エイマはよりやる気となって、頑張っていく。
そうしてエイマはしばらくの間……ベンディアの記録が終わるまでの間、メーアの背中を存分なまでに撫で続けるのだった。
――――一方その頃 獣人国の王都で ペイジン・オクタド
獣人国の最西にある王都の自らの屋敷でオクタドは、その日のために用意した記録や書類を山のように積み上げ、その一つ一つを丁寧に処理し……同時に部下や家族に細かい指示を出して動かし……その日のための準備を整えていた。
メーアバダルからやってくる使者と獣王の歴史的な会談、それを成功させるための準備で……エリーのための正装や装飾品を用意したり、礼儀作法の教師を用意したり……各参議や役人への根回しをしたり、会談の場に出す食事の献立を考えたりなどなど、すべきことは数え切れない程に多い。
それでもオクタドは嫌な顔ひとつせずに励んでいて……周囲に控えた家族達は、高齢なのだから程々にして欲しいと心配し、それを言葉ではなく表情や態度で伝えようとする。
それに気付きながらもオクタドは休むことなく、手を抜くことなく励み続ける……全ては会談の成功のために。
今回の会談で一番の問題となるのは、王国による獣人国民の拉致に関することだろう。
メーアバダル公にその責はなく、むしろ狼藉者達を遮断することで、再発を防いでくれているのだが……だからと言ってやってきた王国の使者にその責を問わないでは、獣王の立場が揺らいでしまう。
今後の友好関係のためにも、なんらかの決着をしておくべきであり……そこでオクタドは獣人国と王国との解決ではなく、獣人国とメーアバダルの解決という形を取ろうと画策していた。
全てを水に流すわけではない、王国の責はこれからも問い続ける……が、メーアバダルとは一定の妥協をし、再発防止の向けての協力関係を築く。
そのためにはどんな交渉が必要なのか、どんな譲歩が必要なのか、メーアバダル側が用意した品々だけで納得出来るものなのか……獣王はこの案をどう考えているのか。
その辺りを探るため、丁寧かつ手広い根回しを展開していたオクタドは、その全てを把握しているのは自分だけだからと、励み続ける。
エリーが王都に到着するその時は近く、残された時間は少なく……用意した墨が尽き果てるのではないかという勢いで働き続ける。
そしてその働きは……悪くない形で結実していく。
元々メーアバダルに悪感情を持つ者は少なく、これといった妨害もなく……オクタドからすると肩透かしだと思える程に。
こういった時に厄介な動きをしてくると言えばヤテン・ライセイだが、彼は友好派……森人族という不安材料もあるにはあったが、メーアバダルとの衝突で意気消沈したのか、最近は全く動きを見せず……商売敵達も、ここで邪魔するよりもメーアバダルに取り入って、ペイジン商会の独占取引をどうにか突破してやろうと、そちらに腐心している。
悪くない、本当に悪くない……これならば孫に最高の土産を残すことが出来そうだ。
……と、そんなことを考えながらオクタドは、エリーの到着までに必要と思われるあらゆる準備を、完璧なまでに整えてみせるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はエリーやらディアスやらの予定です
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