交渉の前に
ざっくりキャラ紹介
・ヒューバート
人間族、男、内政官、眼鏡でやや長い黒髪、細めの体型
・ベン伯父さん(ベンディア)
人間族、男、神殿長、髪型はヒューバートに似ている、細めではあるが、一応健康のために鍛えている
・ジュウハ
人間族、男、隣領の軍師、黒髪で艷やかな長髪、ディアス程ではないがそれなりに鍛えている
あれから数日が経って……色々なことが前に進んでいった。
特に洞人族の工作が順調で……早速トロッコでの荒野との行き来が可能になったらしい。
レールを敷いてトロッコとそれに引かせた荷車を走らせて……まだセナイとアイハンにしか上手い運転は出来ないようだが、休み休みであれば他の皆にも出来るようで、結構な頻度での行き来が行われているようだ。
海からやってきた積荷を運んだりゴブリン達を運んだり……今後も活躍していくに違いない。
そして……エリー達も獣人国で頑張っているようだ、
向こうに一緒に向かったペイジンとジュウハ達と協力しながら情報収集をし、獣王に会う前にと、向こうのお偉いさんに挨拶をして回っているとかで……順調にメーアバダルの外交官としての仕事をこなしていっているようだ。
更には向こうの王都を巡り、市場を眺めることで獣人国という国のことを見極めようとしているようで……その辺りは流石商人ということなのだろうなぁ。
……と、そんなことが書かれた報告書を読み終えたなら、ヒューバートが作った私のユルトの側にあるユルト、書庫と呼ばれているそこの棚にしっかりとしまう。
この書庫の壁際には本や書類、巻物なんかをしまう木の棚が用意されていて……中央付近には鷹人族の止まり木が用意されている。
止まり木の近くには水瓶と、干し肉を入れる箱があり……鷹人族の休憩所にもなっている。
天井の窓は他のユルトよりも大きく広がっていて、鷹人族はそこからの出入りが可能な形になっていて、遠方から手紙を持ってきたならまずここに来て、手紙を誰かに渡すか棚にしまうかしてもらって、それから休憩をしてもらい……後は家に帰るなり、更に仕事するなりしてもらうことになっている。
手紙を持ってきたなら、他の場所に行くのは厳禁、私やヒューバート、アルナーやベン伯父さん以外に手紙を渡すのも厳禁で……書庫に入って良いのも、鷹人族やその辺りの面々に限られている。
今後秘密にしなければならない手紙や書類が手元に届く機会が増えるはずで、その辺りの管理は厳密にすべきとのことで……書庫の入口や周囲には常に4人以上の見張りが立つことになっている。
犬人族とニャーヂェン族から、最低1人ずつ立ってもらっての4人で、まず無いとは思うのだけど余計なトラブルを回避するためにそうしているらしい。
「おーい、ディアス、早く出てきてくれや」
手紙をしまいながらあれこれと考えていると、書庫の外からゴルディアの声が響いてきて、何か用事だろうかと外に向かう。
ゴルディアはここには入ることが許可されていないから、見張りの誰かに止められてしまって、私が外に出るのを待っていたのだろう。
書庫を出て軽く挨拶をすると、ゴルディアはしっかりと封のされた封筒を差し出してきて、首を傾げた私がそれを受け取ると、私に近寄って小さな声で話しかけてくる。
(そいつはエリーに向けた手紙だ、鷹人族に頼んで届けさせてくれ。
……内容は、俺が戦時中にやっていた情報収集の方法を最近思い出してなぁ。
恐らくは獣人国での情報収集にも役立つだろうから、それを伝えてやりてぇんだ)
(なるほど? 手紙を渡すのは別に構わないが……エリーだって自分なりの方法でしっかり情報を集めているようだぞ?)
と、返すとゴルディアは、分かってないなと表情で語ってから言葉を返してくる。
(市場に並ぶ品や客を見てどうこうってやつだろ? それも有効な手段だとは思うが……生粋の商人のエリーには思いつかない方法ってのもあるもんだ。
……まぁ、お前になら言っても構わないだろうから言うが、死者から国内情報を探るって手が、結構良い手なんだよ。
戦況なんかは隠せるかもしれねぇが、戦死者全てを隠し切るってのは難しいもんだ。
死んだら埋葬しなきゃならねぇし、葬式だって必要だ、遺族への手当てなどなど、事務処理だって必要になってくる。
葬式をやるとなったら知り合いとかに声をかけるだろ? それが貴族とかお偉いさんの葬式となれば一大事、あっちこっちに情報が拡散するんだよ。
そう言う情報をコツコツ集めてまとめ上げると……どこで戦闘があったのか、どっちが勝ったのかってことも、なんとなく見えてくるもんなんだよ。
俺はその方法で王国軍の状況の大体を掴んでいたんだぜ? まぁ、お前んとこは敵も味方も極端に死者が少ねぇもんだから、上手くはいかなかったが……)
(……戦争と言っても必ず死者が出る訳ではないんだぞ? 戦意を奪えばそれで良しっていうのがジュウハのやり方だったしな。
降伏や撤退を積極的に認めてやれば、他の戦いでも敵の戦意を奪いやすくなる……とかなんとか。
……それに内乱が起きやすい国とはいっても、獣人国は戦争中ではない訳だからなぁ……そんな情報集めても意味ないんじゃないか?)
(馬鹿を言うなってんだ、戦争以外の災害やモンスターの襲撃の規模を把握出来るだけでも意味はあるだろうよ。
情報が全く無いよりもあったほうが交渉の手札は確実に増えるはずだ、ひでぇ災害があったならその支援をしてやるからーなんて具合に話を持っていけるかもしれねぇだろ?
……特にモンスターの襲撃、その被害地域や規模が探れたなら良い手札になるはずだ。
こっちはドラゴン狩りが大の得意なんだからよ、モンスターにやられまくってるようなら、色々な形で助けてやることが出来る。
それによ、今回は狩ったドラゴンの素材を山程持ち込んでるんだからなぁ、うちの支援があれば、うちの援護があればこんな風にドラゴンを狩れますよって、そう言ってやれば効果は大なりってもんじゃねぇか?
……ドラゴンを余裕で狩れる人材と兵器があるお隣さんなんてのは、怖くて仕方ねぇもんだろうし、そこで変に警戒心持たれると面倒くさいことになるかもしれねぇ。
だからよ、情報集められるだけ集めて、ここらの問題を解決したいのならこっちから必要な分だけの人材や兵器を貸しても良いって言ってやりゃぁよ、警戒心が薄れる……かもしれねぇだろ。
実際上手くいくかはエリー達次第だろうが、可能性を上げることは出来るはずだ)
と、そう言われて私は内心でなるほどなぁと呟く。
そう言えば以前、鬼人族のモールにも似たようなことを言われたな……ドラゴンを狩れるお隣さんとは縁を繋いでおかないと不安だとかなんとか。
獣人国もそれに近い感情を持っているかもしれないから、そこら辺を上手く利用したなら……エリーとジュウハなら良い結果にしてくれるかもしれない。
「分かった、手紙はエリーに届けさせるよ」
と、私がそう返すとゴルディアは満足そうな笑みを浮かべて、いつにない初めて見るような得意げな顔を浮かべて、鼻息をふんすと吐き出してからのっしのっしと酒場の方へと歩いていく。
それを見送り、早速鷹人族に手紙を預けるためにと歩き出そうとしていると、そこにベン伯父さんがやってきて……ゴルディアと同じような手紙をこちらに押し付けてくる。
「……血無しについて、儂なりの仮説を書いておいた。血無しに悩まされている獣人国には良い交渉材料になるはずだ。
向こうの言葉にも翻訳したものを同封しておいた……その手間のせいで出立には間に合わなかったが、交渉はこれからなんだろう? 送ってやると良い。
それとメーアバダル神殿名義の手紙となるが、問題はないな?
これが上手くいけば、大メーア様の布教に繋がるかもしれん、布教が上手くいけば同じ教えを奉じる同志として心が近くなるかもしれん、平和のためにはこういった外交も必要になってくるだろう」
と、そう言って伯父さんはこちらが何かを返すのを待つことなく、神殿の方へと立ち去ってしまう。
それを見送った私は、しばらくの間ぼぅっとしてから……とにかく鷹人族に預けるかと、彼らの家……小屋がある方へと足を進めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はエリーやジュウハのあれこれの予定です。




