外交官エリー
婆さん達の名前一覧
マヤ婆さん、チルチ婆さん、ターラ婆さん、セリア婆さん、アリダ婆さん、チーマ婆さん、ピソン婆さん、ジメチ婆さん、スーク婆さん、ヒィア婆さん、ピキア婆さん、ポイヨ婆さん
このうちアリダ婆さんは肉料理、特に干し肉などが大好き
私が隣領で着たような黒を基調とした上着にズボン、メーア鋼や始祖の銀を使った装飾で飾り、宝石や真珠もボタンやらそこかしこに使われている。
ベルトには随分と豪華な鞘に納められた宝剣が下げてあり……メーアバダルの紋章が刺繍された赤色派手めのマントも用意されている。
夏が近付いて気温が高く風が強くなってきた昼過ぎ、化粧を落としてそんな服装となったエリーが広場で着込んだ服の確認をしていると、犬人族やニャーヂェン族達が、洞人族が作った大きめの鏡を持ってきてエリーに見せる。
「……ぜんっぜん私の好みじゃぁないけど、外交官としてはこれが適当なのかしらね。
まー、私が作っちゃったら伝統とかは無視した形になっちゃうからしょうがないんだけど」
なんてことを言いながらエリーは体をくねらせてアルナー達が用意した外交官のための服の確認をしていき……そして「よいしょっと」と一言を口にしてから体をくねらせるのを止めて、堂々と……男らしく立つ。
外交官としての佇まいを意識しているのだろう、化粧を落として男物の服を着てそうやって立つと、立派な男というか……城に勤めていそうな役人のように見える。
するとアルナーとダレル夫人、それと何人かの婆さん達が駆け寄って、服の確認などをし、裾の調整なんかの話し合いをし始めるが……概ね問題ない仕上がりとなっているようだ。
「行商に関してはセキ達や血無し達、ニャーヂェンやゴルディア、これから来るらしいギルドの皆にも任せられるだろうから、エリーには外交官を頑張って欲しい。
もちろん、そのついでに商売をしてもらっても全然構わないぞ」
私がそう言うとエリーは、笑顔でこくりと頷いて……それから自分の胸を撫でてから言葉を返してくる。
「お父様に大事な仕事を任されたことはとても光栄で、やる気もあるから任せておいて。
外交的なこともまぁー……出来なくもないだろうし、ダレル夫人が手伝ってくれるのならなんとかなりそう。
それにメーアバダルの名産品を売り込むには外交官という立場は都合が良いから、便利に使わせてもらうつもりよ。
とりあえずは獣人国に投資のお返しをするついでに、色々売り込んでみようと思うわ。
それからヤテンさんに家宝のお礼ね……最後にペイジンさん達に名産品の売り込み、この辺りが私の初任務になるのかしら」
「ああ、必要ならあの真珠も使って良いが……どうする?」
と、私が問いかけるとエリーは、真っ青になって顔を左右にぶんぶんと振り回す。
その真珠というのは、イービリス達が持ってきてくれた真珠の中に紛れていたものだった。
他の真珠と違って球体ではなく、涙のような形をしていて……大きい真珠。
エリーが言うには球体ではない歪な真珠というのは価値が低いものらしいが、綺麗に何かの形となったものは別格で、かつ大きいとなると想像も出来ないような価値がつくこともあるらしい。
現状その真珠の価値は『エリーには判断が出来ない』程のものらしく……そんなに貴重なものなら何かに使ってしまうか売るか、いっそ誰かにあげてしまっても良いと思うのだが……エリーは名産品として売り出すための軸というか、こんなに素晴らしい真珠がメーアバダルにあると喧伝するために、普段はどこかに保管しておいて客人が来た際などに見せるために使うべきだと、そう考えているらしい。
それも何かもったいない気もするが……まぁ、その辺りの判断は外交官かつ商人であるエリーに任せるとしよう。
なんてことを考えていると、エリーの服の様子を見ていたアルナー達が弾む声を上げ始める。
「ふぅーむ……体を鍛えているだけあって、やっぱり見栄えるな。
……良い馬を用意して、乗馬の鍛錬をしたらもっと良くなるはずだ、他所でも評判になるぞ」
と、アルナー。
「乗馬だけでなくダンス、簡単な剣術も覚えておくと良いでしょう。
マナーに関してはつきっきりで教えるという訳にはいきませんので、後で教本を用意しておきます。
そちらを見ながら勉強し、村に帰ってきた際に成果を見せてください。
貴族ではありませんが貴族らしく……堂々かつ優雅な仕草を心がけてください」
と、ダレル夫人。
「まぁまぁ、良い男じゃないの、若かったら放っておかなかったわぁ」
「ディアスちゃんより男前ねぇ……普段のお手入れが違うからかしら?」
「とっても美人さんねぇ、男前なんて言ったら可哀想じゃないの」
と、婆さん達。
普段から様々な手入れをして美容に気をつけているエリーだからか、こういう格好をしても良く見えるようだ。
「あ、そうだ、お父様。
あの黒ニワトリなんだけど、増えてきたらお肉を保存食にしてもらって良いかしら?
外交官就任のお祝いってことで昨日頂いたけどあの美味しさ……神様から頂戴したってことも含めて良い名産品になると思うのよね。
干し肉でもなんでも良いから、他所に売り込めたらきっと良い反応をもらえると思うわ」
婆さん達に囲まれてチヤホヤされながらエリーがそう言うと……婆さん達の1人、干し肉作りを得意とするアリダ婆さんが声を上げる。
「それなら油煮でも作ってみるかい?
ここに来る前の暮らしでは油が貴重だから中々出来なかったけど、今のイルク村ならその余裕もあるからねぇ。
香草や香辛料なんかを入れた油でお肉を煮て、しっかり火を通したらツボなんかに油ごと入れて冷やして油を固めてしまうのさ。
そうすると油の中に封じ込められてお肉が長持ちするって訳だね」
その提案を受けてエリーは、目を輝かせポンと手を打って嬉しそうな声を上げる。
「それは良いわねぇ、容れ物を洞人族さん達に作ってもらった凝った物にしたなら、きっと良い名産品になるわ。
……それと、他所に売り始めたらきっと黒ニワトリを盗もうなんて連中も現れるだろうから、そこら辺も気をつけないといけないわね。
……まぁー、関所があってお父様がいる上にアルナーちゃん達の魔法まであるから、ほぼ不可能だろうけど、それでも無対策って訳にはいかないわね」
と、エリーはいつものように女性らしい仕草でなんとも嬉しそうに語り続ける。
するとそれを見てダレル夫人が目を細め……それから静かな声を上げる。
「興奮するといつもの仕草が出てしまうのは、良くない所ですね……外交官として外に出るのであれば、もう少し気を張る必要がありそうです。
教育……いえ、練習も少し気合を入れた方が良いかもしれませんね。
では、早速今から―――」
と、そう言ってダレル夫人はエリーの腕をしっかりと掴む。
そうしてそのまま神殿近くの学び舎の方へと連れていき……結局エリーは日が暮れての夕食時まで解放されなかったのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、エリーのあれこれの予定です




