確信
登場キャラざっくり紹介
・オリアナ・ダレル
エグモルトの妻、ディアス達の教育係、人間族、女性。詩、ダンス、絵画などなど、貴族として芸術にも通じている、エグモルトに教えていたこともあったが、エグモルトにやる気と興味がなさすぎて諦めた。
・アルハル
セナイ達の護衛、ニャーヂェン族、女性。セナイ達のついでにダレル夫人から色々習っている、その中でもダンスは得意で好きだけど、楽しくなりすぎて相手を振り回しがち
最近のセナイとアイハンがやってること
・アルナーと狩猟や乗馬、刺繍や家事の練習
・ダレル夫人と貴族令嬢としての勉強
・畑の世話
・マヤ婆さんと魔法の練習
・アルハルと体術の練習
・サーヒィと一緒に狩り
・子供達と一緒に遊ぶ
――――セナイ達の畑で ディアス
当然のことなのだけど、セナイ達の教育係であるダレル夫人は、結構な時間をセナイ達と過ごしている。
ただ礼儀作法を教えるだけでなく、信頼関係を築くことも大事だと考えているようで、セナイ達の仕事である畑仕事も暇さえあれば手伝ってくれている。
セナイ達の畑で、大きく幹を伸ばし始めた両親の木の世話も丁寧にしてくれていて……つまるところエグモルトが駆けていった先に待っていたのは、腰に両手を当てて堂々と立つダレル夫人だった。
更には護衛のアルハルもいて、あっさりとエグモルトは捕獲され、説教をされることになり……私はそれが終わるまでの間、ダレル夫人がやっていた作業を代わりに手伝うことにし、そうしながらセナイ達に先程の話をしてみることにした。
すると、
「そういうのなら簡単に出来るよ」
「どのたねがいいたねか、わかっちゃうから」
との答えがセナイ達から返ってきた。
なんでもセナイ達は手に取るだけで種や芋の持つ力が分かってしまうようで……そう言えば森で冬備えをしていた時にもそんなことを言っていたかな?
増えない芋は食べて、増える芋は埋める……だったか。
「魔法で早く育てて良い種だけ植えるんでしょ? 簡単」
「やくそうごやでやれば、いちねんで5かいとか、6かいできるかも」
……なるほど。どうやらエグモルトの案は、セナイ達の力を使えばかなりの効率となるようだ。
しかしエグモルトは森人族の力でそれをすることをどう思うのだろうか? 神々や洞人族の力のように忌避するのだろうか?
そう考えて地面に膝を抱えて座りながら説教を受けていたエグモルトへと視線をやると、話を聞いていたのだろう、なんとも複雑そうな表情を浮かべている様子が視界に入り込む。
嬉しいような悔しいような、羨ましいような……かなりの感情がまぜこぜになっているようだ。
そんな表情でしばらくの間悩んだエグモルトは、悩んだ結果、自分なりの答えを出せたのだろう。
「まぁ、アイデアはワタシのものだから! 結果だけ見よう! 結果だけ!
良い種が普及したなら多くの人が助かるんだからね!!」
と、説教中にもかかわらず、そんな大声を張り上げて良い笑顔を浮かべて……結果、ダレル夫人の説教が激化し……夕暮れになるまでの間、説教され続けることになるのだった。
――――とある神殿の一室で ある高位神官
(やはりそうなったか……)
とある神殿の一室で、上等な作りの机を前に、なんとも簡潔な報告書を読みながら、神官服姿の男がうなり声を上げる。
最初は小さな疑問だった、聖地巡礼に旅立ったベンディアという一人の男、昔は権力争いに意欲的だった彼が、帰還後にはどういう訳か意欲を失っていて……その理由が気になった。
老いて意欲を失ったのか、それとも旅の中で何かあったのか……家族を失ったことがきっかけなのか。
しかしベンディアという男の性格を考えると、どれも納得行くものではなく……考えれば考える程に小さな疑問は大きくなり、疑惑に変わっていった。
もしかしたらベンディアが聖地に至ったのではないか? という疑惑に。
もしそうならベンディアは神々と邂逅し加護を得たことになる……が、高位神官にはその確信を得る方法はなかった。
ベンディアという男が今ではすっかりと廃れた旧道派の人間であり、新道派を恨んでいることもあって、直接確認したところでまともな答えが返ってくるはずはなく……そこでこの神官は一計を案じた。
神々との契約を得意としている者をベンディアにぶつけて、どういう結果になるかを見るという、かなり乱暴な方法での確認だ。
ベンディアが神々と邂逅し加護を得ているのなら、契約をした者には神罰が下るはず、なんらかの悪い結果が返ってくるはず。
……その考えは間違っておらず、派遣した一行は行方不明となり、遺体すら見つからない有様。
確認のために放っておいた何人かの間諜がいくら手間をかけようと時をかけようと、手がかりすら掴むことが出来ず……神罰が下ったであろうことは明白だった。
(厄介なことになった……)
あらゆる叡智と様々な神具があるとされている聖地、そこに至ったベンディアが何も持ち帰っていないということはないはず……そしてその叡智と神具がベンディアがいるというメーアバダルの発展に寄与していることもまた明白で……新道派にとっての最悪の事態が起きてしまっている。
メーアバダル領には数え切れない程の獣人がいるらしい、獣人国とも友好関係を築いているらしい、どんどん領土を広げているらしい、ドラゴンの襲来を物ともしない戦力を有しているらしい。
何しろ領主が救国の英雄で、単独でのドラゴン討伐を成しているというのだから、とんでもない話だ。
なんらかの妨害工作をしようにも、唯一の隣領マーハティとは血縁かと思う程の太い縁があり、他の公爵とも縁を繋いでいて……要所に関所を構えて一切の侵入を許しておらず、隙らしい隙が一つもない。
食料なり経済なりで困窮しているのであれば、手の打ちようがあるのだが、そんな気配は一切なく……それどころか最近は隣領に食料輸出まで始めてしまったらしい。
しかもそれは上質な塩漬けの海産物だ。
……まさかもう、海にまで手を出しているなんて……。
南の荒野を領地にしたと聞いて、なんと馬鹿なと笑っていたものだが、その目は荒野の向こうにある海に向けられていて……海に到達したその年に、国内最大の港町に匹敵するような量の漁獲をしているというのだから、もう訳が分からない。
船はどうしたんだ? 漁師は? 漁具は? 漁のノウハウをどこで手に入れた? 塩作りまで成功してしまっているとは一体全体何事だ?
同じことをしろと言われて出来る貴族は国内どころか、大陸のどこを探しても存在しないだろう。
人手と予算と、相応の時間をかければ可能だが少ない人手と予算と一年未満という期間では……そう、神々の手を借りでもしなければ不可能だろう。
そうした状況もまた、ベンディアが聖地に至ったという確信を強いものにしていた。
(波が来る……西から大きな波が来る、メーアバダルだけで済めば良い方だ、最悪獣人国とマーハティ領までが一つとなって大波を起こすかもしれない。
なんらかの手を打たなければならないが……どういった手ならば成功すると言うのだろうか?
どうにかして……どうにかして先手を打たなければ……)
なんてことを考えた男は、報告書を破り捨てながら頭を両手で抱えて……しばらくの間、苦悩の唸り声を上げ続けるのだった。
――――領主屋敷での食事会の最中に ジュウハ
「……そうか! あいつか!! そういうことか!!!」
最近のマーハティ領内の景気の良さや治安の良さを祝い、そうなるまで奮闘してくれた忠臣達を労うための食事会の会場で、突然ジュウハがそんな声を上げる。
屋敷の中庭全体を使い、いくつものテーブルや絨毯、椅子などを並べて……テーブルの上全てを食事や酒で埋め尽くして……誰もが笑顔で楽しんでいる会場のソファに寝転がっていたジュウハの、突然の声に会場内の誰もが目を丸くする。
「ディアスの野郎のとこに神が現れたって報告が来た時点で気付くべきだった!
あの野郎がどこに消えたのかを……! さては聖地に至ったな、神に出会ったな! そこで得た力で、あの反乱騒ぎを起こしやがったな……!!」
飛び起きてソファの上に立って、両手をわなわなと震わせながら更に声を続けるジュウハに、誰もが困惑を隠せない中、勇気を出したエルダンだけが近付いてきて、声をかけてくる。
「一体何事であるの? 何がそういうことなんであるの?」
「あの反乱騒ぎだ! あの反乱は自然に起こったもんじゃねぇ、確かに誰かの意図が存在した!
それもこのオレ様を出し抜くような誰かの意図だ! 普通の人間に出来るもんじゃねぇ、出来たとしてその正体も気配も掴ませないなんてことは人の身では絶対に不可能、神にしか不可能だ!!
そうだ、神だ、神に出会って力を得やがったんだ! 神々ってもんが実在するという確信を得た時点で、そのことに気付くべきだったんだ……!
神の中には悪神もいるはずだ、悪人に手を貸す野郎もいるはずだ……いや、その神にとっては悪事じゃぁなくて善行なのかもしれんが、とにかくそういった存在がいてもおかしくねぇ。
そして……そんな神に出会って得た力でもって、ディアスやオレ様を害そうとする野郎に心当たりがある!!」
力強い声だった、確信があると……絶対に間違ってないという自信がある声だった。
「あの事件以降、あの野郎のことは常に探っていた……絶対に復讐してくるだろうと、戦後も情報屋連中に大金払って追跡させていた……!
この辺りに来ているのも分かっていた、突然姿を消したのはどこかで野垂れ死んだからだろうと思い込んでいたが……あの野郎、聖地に至って神の力を得たな。
それでオレ様の評判を落とすためにあんなことをしでかしたって訳だ……!
ディアス単独ならなんとでもなるが、オレ様とエルダン様が盤石では迂闊な手出しが出来ないと、そう考えたに違いない!
あれに失敗しても諦めず、盗賊やらをディアスの所に送り込んだが失敗……最近動きを見せねぇのは、このままではどうにもならんと、別方向での攻めを考えているからに違いねぇ。
……王都か? 神殿か? ……さては王の失踪騒ぎにも関わってやがるな……!!」
「……それは一体誰のことであるの?」
ジュウハの言葉に耳を貸していたエルダンは、どうやらそれが妄言の類ではないとの確信を得たようで……真剣な表情で低い声で、そう問いかける。
「……ディアスの戦争中の逸話の中では有名な話だからエルダン様も知っているだろう?
戦争中にやらかして、ディアスに潰された……玉無し野郎の元貴族だよ。
あの一件にはオレ様も関わっていたからな……オレ様達への復讐と考えれば筋道が通るってもんだ」
するとジュウハがそう返してきて……目を丸くしながら「まさか……」と呟いたエルダンは、その可能性が否定しきれないと気付き、改めて詳細を確かめるためにジュウハが雇っていた情報屋に連絡を取るようにとの指示を出す。
しかし連絡は取れず、鳩人族諜報隊が調べてみると情報屋の全員が、いつの頃からか失踪してしまっていることが判明し……事を重く見たエルダンとジュウハは、すぐさま諜報隊を動員しての情報収集を開始し……その元貴族の情報を探り始めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は今章ラスト、その後のディアス達の予定です
そしてお知らせです
コミカライズ13巻が7月11日発売で予約を開始しています!
興味がある方は通販サイトなどをチェックしていただければ幸いです
表紙などなど続報があればまたお知らせいたします




