第二領主屋敷
登場キャラ、単語解説
・ベイヤースとカーベラン
ディアスとアルナーの愛馬、ベイヤースは牡馬、カーベランは牝馬
・サナト
洞人族、男性、洞人族の族長ナルバントとオーミュンの子、洞人族としては若いらしい
・パトリック達
パトリック、ピエール、プリモ、ポールの4人で人間族、男性、神官、ディアスの伯父ベンの部下
・メーアモドキ
メーアそっくりの姿をした神様の使い、大メーアの使いとして度々ディアス達の前に現れ、様々な品物などなどを与えてくれている。
・迎賓館
イルク村の東側に用意された大きなユルト、近くには客人を歓迎するための場として調理場などもあり、様々な宝物なども展示されていた。
公的な客人がめったに来ないため出番はほとんどない
もう一つの領主屋敷は迎賓館の近くにあるらしいので、行ってみた……のだが、迎賓館の周囲に変わった様子はなかった。
おかしいな? と、首を傾げているとアルナーがもっと先だと指で示してきて、どうやらすぐ側という訳ではないらしい。
そこから更に東、森の方へと進むとようやく迎賓館……を、建築する準備をしている光景が視界に入り込む。
まず目立つのが何本もの柱に屋根をつけて、その下で木材を乾燥させている光景、次に地面に杭を打って、杭と杭を縄で繋いで、どんな屋敷にするかという図面……縄張りを作っている光景で、まだまだ建築そのものは始まっていないようだ。
それもそのはず、縄張りがかなりの規模になっていて……更にその向こうにはまた別の何かを二箇所作るつもりのようで、何人かの洞人族による別の縄張りが進んでいる。
……妙に大きい屋敷と言い、一体どんな方針なんだろう? と、首を傾げていると、こちらを見つけた洞人族のサナトがのっしのっしと大股で歩いてきて、声をかけてくる。
「おう! 見に来てくれたか!
その顔……話を聞きたいって感じだな? 今から説明して良いか?」
「ああ、頼む」
と、ベイヤースの背から降りながら返すとサナトは、縄張りを一つ一つ指さしながら説明をしてくれる。
「まずは領主屋敷だな、こっちに迎賓館の機能も移すらしいから見栄え重視……客人に見せつけるもんだって話だから、とにかく大きく立派にするつもりだ。
ってもまぁ、実用的じゃないもんに資材を使いすぎても良くねぇってんで、外見だけ立派で出来るだけ節約した造りにするつもりだ。
もちろん必要な台所や食堂、客をもてなす部屋や客室はしっかり作るがな。
んであっちのやつは第二神殿の縄張りだな、エリーとちょっと前にそんなのを作るって話したんだろ?
まぁこれはあれだ、メーアバダルの奥地まで行かせられないような巡礼者を迎えるための場だな、意図は迎賓館や領主屋敷と同じだ、ここで歓迎してこの先に行くことなく帰ってもらう……これ以上奥に行けるのは信頼出来るやつだけって訳だ。
んであっちのはドラゴンを迎撃するための砦だな、領主屋敷や第二神殿はもちろん、客人や巡礼者を守る必要があるってんで、作ることにした。
無いとは思うが、森の関所が破られた時のための備えでもある。
砦をそれなりの規模にするために第二神殿は資材を節約した造りにするつもりだが……その代わり洞人族の技術をぶちこんだ仕上がりにするつもりだ。
これから建てる工房で色付きガラスを作ってな、それを組み合わせて色彩豊かな天窓を作ってやりゃぁ、中に飾る大メーア様の像がそれはもう神々しい光に包まれるって訳だな」
「……なるほど。
色付きガラスとかは実物を見てみないことにはなんとも言えないが……かなりの立派な造りになりそうで驚いたよ。
しかしあっちこっちで頑張ってくれているようだが、洞人族達は大丈夫なのか? 荒野でも働いてくれているんだろう? 忙しすぎるのではないか?」
と、私がそう返すとサナトは、目を丸くしてから笑い、言葉を返してくる。
「ふっへ、このくらいなんでもねぇよ。
ディアスの旦那はなんだかんだと好きにやらせてくれるし、酒も用意してくれるし、こうして心配してくれるからな……良い領主だと思っているし、思っているからこそやる気も出てくるってもんだ。
……それにな、洞人族がこんなにいるのに、この程度のモンしか作れないのかと侮られた日には、祖霊と神々に申し訳が立たねぇ。
一族の誇りに懸けてでも立派なモンを作る必要があるんだよ。
だからよ、気合入れて頑張るからよ任せておいてくれや」
「……ああ、分かった、頼むよ」
「おう……っと、そうだ。
神殿の近くの修行場を作ってくれとベンの旦那から頼まれたんだが……具体的にどんなモンを作れば良いのか聞き損ねちまってな……どんなもんなんだ? 神殿の修行場ってのは?」
「ん? んん? 修行場……? 神殿にか?」
「おう、隣領の……なんて言ったか……。
……ああ、そうだ、グリンだ、グリンが今度こっちに、何人かのお仲間と一緒に神官見習いとして来るんだろ?
んで、問題のあったヤツだからとりあえず修行場で様子見をしようってなったって聞いてな……どんなもんがいるのかってベンの旦那に聞いたらただ部屋があればそれで良いって答えで、パトリック達に聞いたら体を鍛えられればそれで良いって答えで……そうなるとなんでもない部屋を作ることになるんだが、本当にそれで構わないのか?」
「ふーむ?
私が覚えている限りで神殿で行う修行と言うと……読み書きの練習と聖句の暗唱になるのか?
あとは……神官の服を繕ったり、炊き出しのために食材の扱いや料理の仕方を学んだり……他にも色々やっていたみたいだが、幼かった私が知ることが出来たのはそのくらいだな。
パトリック達はともかくとして、ベン伯父さんがそう言っているのなら、その通りにしておけば間違いはないと思うが……」
「なるほどなぁ……まぁ、なんとなくは想像出来たな。
他に領主としての要望はあるか? 今なら縄張り段階だから、大体のことは反映出来ると思うぞ」
「そう言われても困ってしまうが……そうだな、大トカゲを祀るなら荒野だろうから、こちらの神殿では大メーアだけでなく、メーアモドキも祀ってやってくれないか?
これまで何度も世話になっているし神の使いとして色々と頑張ってくれているようだし、祀って感謝を示すくらいのことはやっておかないとな」
「……確かにそれもそうだ。
御使様は……実際に見たことはないが、親父が始祖の銀を頂戴した時に会ったとか言ってたな。確かメーアによく似ていて、あー……目が毛で隠れているんだったか?
うぅむ……目を隠した上で大メーア様とは違う存在なんだと、どこかでハッキリ示さないといかんよなぁ。
そして感謝の気持を示す、か……像を作る際にはその辺りもしっかり考えないとだな。
……感謝の気持ちが伝わるような……伝えられるような姿に……」
と、そう言ってサナトが腕を組んで唸っていると、私達の足元の地面から白い何かが生えてくる。
……それはメーアモドキ……の顔だった、顔だけだった。
「あら、そんなに気を使わなくても良いのよ?
像にして感謝してくれるだけでそれで十分……ただ呼び方に関してはそろそろ工夫して欲しいかな。
まぁ、務めを果たしている間はどんな呼び方をしたって怒りはしないけども、やっぱり気分はよくないからね、お願いね」
と、そう言ってメーアモドキの顔はスッと地面の中へと戻っていく。
ベイヤースの側に立った私と、カーベランの側に立ったアルナーと腕を組んだサナトと、作業を進めながらなんとなしにこちらの様子を伺っていた洞人族達はしばらくの間……強い風が吹き付けてくるまでの間、メーアモドキの顔が消えた地面をじぃっと見つめた状態で硬直してしまう。
そして強い風を受けてなんとも言えない気分で地面から視線を移し、空を見上げるなり馬達を見るなり、縄張りを見るなりした私とアルナー、そしてサナトは、それぞれ順番に口を開く。
「……大メーアの使いとなると、小メーアとかかな?」
「小メーア様はいつでも私達を見てくださっているようだ」
「いやまぁ、顔を見せてくださったのはありがたいけどな……これで像を作りやすくなったよ……」
そんなことを言ってから私達は、とりあえずこの場を小メーアが顕現したというか、生えてきたというか、とにかくそんな場所にしようと決める。
実際にはあちこちに出てきているし、多分これからも呼べばどこであっても出てきてしまうんだろうけども、第二神殿の威厳を高めるというか、そんな使い方も出来るし……ここならまぁ、悪くない場所のはずだ。
そう決めるとすぐにサナトが杭を持ってきてくれて、それを深く打ち込んで目印として……追い追い、ここに記念碑でも建てておくとしよう。
地面から生えてきたことから豊穣の加護とか、そういった逸話を絡めても面白いのかもしれない。
「……地面から羊が生えてきて、豊穣か。
一目で加護が分かりやすいように、大木に木の実のように成る小メーア様の像でも作るか?
なんとも神秘的な画になるぞ?」
あれこれと話し合う中、サナトがそんなことを言ってくるが……流石にそれは不気味過ぎる気がするなぁ。
セナイ達の力のこととかを思うと悪くはない組み合わせだとは思うのだが……。
「大木に寄り添う小メーアではダメなのか?」
と、私が問いかけるとサナトは半目となって、心底つまらなそうなため息を吐き出して、
「それじゃぁ普通すぎてつまらなくねぇか?」
なんて言葉を返してくる。
だけどもどう考えても不気味な絵面にしかならなさそうであり……それから私はどうにかこうにかサナトを説得して……豊穣を示すらしいたくさんの実をつけるブドウの大木に寄り添う小メーアの像ということで納得してもらうのだった。




