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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第十五章 雪原を駆ける

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白狼

登場キャラ紹介


・ゾルグ

 鬼人族の男、アルナーの兄で族長候補、セナイとアイハンにとっては伯父にあたるので、ちょくちょくイルク村に遊びに来ている、もちろん交渉などの仕事もしている


・モール

 鬼人族の女性、現族長、もうかなりの年だが、特に病気をすることもなく元気、定期的に弓の練習もしているらしい




 

 洞人族に地下室を用意してもらい、そこに毛皮やメーア布の切れ端を詰め込み、入口に餌置きや水桶を用意して、白狼の避難所が完成となった。


 扉は付けずにいつでも出入り出来るようにし、モンスターが入りこまないよう定期的な見回りをするようにし……一応の安全策として白狼がギリギリ入れるような、それ以外が入れないような小部屋も用意し。


 そんな避難所に諦めたような表情の白狼を荷車で運ぶと、白狼は渋々といった様子で毛皮を集めて寝床を作り、そこで眠るようになった。


 食事は狩った黒ギーを出来るだけ手つかずの状態で出してやることにし……水は毎日人肌程度に温めたものを用意してやり、それ以上のことは何もせず、出来るだけ避難所には誰も近付かないようにすることにした。


 餌の用意に関しては保護した者の責任ということで私がやることになった……のだが、何だかんだとアルナーも手伝ってくれていて、それだけじゃなくゾルグを始めとした鬼人族の面々も手伝ってくれていた。


 何故手伝ってくれるのかと問いかけると、ゾルグからはこんな答えが返ってきた。


『人に懐かず媚びない狼の在り方には、決して忘れてはいけない誇りを感じることが出来るって言うかな……。

 王国に負けても降らず、抵抗を続けた鬼人族にとってその姿は特別なものに思えるし……狼は動物の中でも特別なんだよ。

 白狼を保護したと聞いてあの族長が、何年かぶりに馬に乗ってまで見に行く程だしなぁ……村にまで入り込んでメーアを襲おうとしたり、迷惑なのも確かなんだが……言葉では表現出来ない何かがあるんだよな、狼には』


 まさかあのモールが老体を押してまで見に行く程とは……驚くと同時に、あの白狼を粗末には扱えないなとなり、相応に気を使いながら様子を見ていくことになった。


 もちろん白狼だけでなく出産が近い皆にも気を使い……産屋を掃除し、安産絨毯をしっかり洗って綺麗にし……いつでも出産が始まって良いように準備も進めていった。


 そんな風にして日々を過ごし……何日かが経った頃、白狼は無事に出産、白毛や黒毛の子を4頭、産んだようだ。


 それからは白狼の警戒心がより強まり、こちらを強く威嚇してくるようになり……また白狼がある程度自由に動けるようになったこともあって、見回りの回数を減らすことになり……更に数日後、子供達が歩けるようになったのか、それとも咥えてどこかへ連れていったのか、白狼達は避難所から姿を消し……以降、白狼達が私達の前に姿を見せることはなかった。


 白狼達はどうしているのか、無事に暮らしているのか……気にはなったが、それ以上に村の出産の方が気になる訳で、自然と誰もが白狼のことを忘れ話題に出さなくなっていった。


 そしてまた時が過ぎて……ある日のこと、野生のメーアのために作った、イルク村近くの避難所に1人のメーアが駆け込んできた。


 怪我をしていて血まみれで、弱々しく声を上げていて……見回りに出ていた犬人族のカーリッツはそのメーアを見つけるなりすぐさま私の元に知らせに来てくれて、知らせを受けた私は安産絨毯を担いでメーアの下へと駆けていき……そしてそのメーアの怪我を安産絨毯の力で癒やしてやった。


 怪我の数はかなり多く、その全てがすぐにパッと治る訳ではなくじわじわと少しずつ傷が癒えていき……痛みが引く様が気持ち良いのか、メーアは目を細めて安堵したようなため息を吐き出し、静かな寝息を立て始め……そして寝言のような声を上げる。


「メァメァ……メァー……」


 小さく細く、だけども呼吸は安定していて表情は穏やかで……そうやって眠るメーアの様子を見守っていると、カーリッツが小声をかけてくる。


「……あの、今このメーアが白い狼がって言ってましたけど……」


 その声を聞いて私はまさか……と、思いながらも「それはないだろう」と言葉を返す。


 あの白狼も子供の世話で忙しいはずだし、満腹になるまで用意した餌を食べていたはずだし……実際、白狼が立ち去った時には黒ギー一頭が丸々なくなっていた訳だし……そんな状況でメーアを襲うとは思えない。


 ……そして思いたくはない。

 

 まさか助けた白狼がメーアを襲ってしまうなんてそんなことは……と、暗い気持ちになりながら野生のメーアをそっと抱きかかえ、この状態で放置は出来ないとイルク村に連れて帰る。

 

 そして専用のユルトを用意してやり、野生のメーアが休める環境を作ってやり……夕食時、村の皆に今日何があったかを報告していく。


 するとアルナーや鬼人族の女性達が何かを言いたそうにする……が、何も言えずに言葉を飲み込む。


 狼に特別な感情を抱いていた鬼人族としては思う所がありつつも……やりかねないという気持ちもあるのだろう。


 他の皆もなんとも言えない顔となり、何かを言いたそうにするが何も言えず……そういう訳で、その日の夕食はなんとも言えない気分で食べることになり、翌日。


 冷え切った空気の中、寝床から抜け出し、アルナーが用意してくれたお湯で身支度を整え、着替えを済ませ……それから朝食の準備を手伝っていると、カーリッツがドタバタと雪を撒き散らしながらこちらへと駆けてくる。


「ディアス様ー! 昨日のメーアが目を覚ましましたー!

 そして話を聞いてきたんですが、びっくりですよー! あのメーア、白狼に助けてもらったんですってー!」


 その声を聞いて私が驚く中、アルナーや鬼人族の女性達が竈場から飛び出してきて、一体何があったのだと、早く詳しい話を聞かせろとそんな表情でカーリッツの下へと駆けていく。


 するとカーリッツはアルナー達に囲まれて少し怯みながらも、メーアから聞いたという話をし始める。


 あの野生のメーアはどうやら、以前ザリガニと戦った時に現れたモンスター……緑色の小人の数体の生き残りに襲われたようだ。


 どうやって潜んでいたのか、どこに潜んでいたのか……突然襲われ怪我を負い、なんとか逃げようと駆け出したが執拗に追いかけられ……血で濡れたことで雪に隠れるといういつもの手法も通じず、これで最後かと諦めた時に、狼達が現れた。


 白狼と小さな子狼達と……そんな母子を守るようにして周囲を囲う多数の狼達が。


 そして狼達はモンスターを攻撃し始め、数が多かったこともあり小人を圧倒……あっという間に倒し伏せて……そしてメーアの下へと白狼が近付いてきた。


 モンスターは倒されたが、それよりも厄介な狼に目を付けられたとメーアは絶望したそうだが……何故か狼はメーアのことを襲うことはなく、ただどこかへ行けとばかりに吠え始めたなんだとか。


 そのことを不思議に思いながらメーアがよろよろと歩き出すと、今度はそっちに行くなとばかりに強く吠えられ……特に白狼が牙を見せてまでメーアのことを追い回し始めたそうだ。


 そんな狼達から逃げるように……あるいは誘導されるように移動すると、その先に野生のメーアのために作った避難所があり、そこにメーアが逃げ込むとそれっきり狼達は何もしてこず、そのままどこかへと去っていったらしい。


 一体どこでメーアが私達にとって特別な存在だと知ったのか……私達の体についていた匂いで気付いたのか、それとも服などに使っているメーア布からか……狼を運ぶ際に食事中のメーアに挨拶をしたから、その時だろうか……?


「やっぱり狼は狼だな、実に誇り高いじゃないか……助けてもらった恩に、私達が大切にしているメーアを助けてくれたんだ」


 その話を聞いてアルナーがそう言うと、鬼人族の女性達はうんうんと頷く……が、そんな中でカーリッツは何の遠慮もなくというか、空気を読まずに反対意見を口にする。


「狼はそこまで考えてないと思いますけどねー、偶然じゃないですか、偶然。

 満腹だったから襲わなかっただけで、気まぐれに遊んでいたら偶然その先に避難所があった、みたいな感じですよ、きっと。

 そして避難所にはディアス様とかオレ達とか色々な匂いとかがばっちり染み込んでますから、それにびっくりして逃げたんですよ、うん」


 すると犬人族達のほとんどがそれに賛同するような様子を見せて、うんうんと頷き始め……アルナー達はそれに不服そうな顔をし始め……それを見て私は、話を変えようと声を上げる。


「私には真相は分からないが、どちらにせよメーアが助かったのだから良かったじゃないか。

 もし狼達が助けてくれたのなら、とてもありがたいことでこれからも助けてくれるのだろうし……避難所から逃げただけなのだとしても、それはそれで成功と言うか、避難所の安全性の証明になった訳だし……問題はない訳だろう?

 それよりもその野生のメーアから今後どうするかの話は聞いてきたか? このままイルク村で保護されたいのか、それとも出ていきたいのか……カーリッツ、どうだ?」


 私がそう問いかけるとカーリッツは、その話を聞いてくるのを忘れていた! と、そんな顔をして尻尾と耳をピンと立てて、大慌てで避難所の方へと駆けていく。


 それを見送ったなら私は、とりあえず朝食の準備だと作業を再開させる。


 そしてアルナー達も「狼のことだから絶対に―――」とか「なんとも頼もしいことだ」とか、そんなことを言い合いながら竈場に戻っていって……そうしていつものように時が流れていく。


 昼食が出来上がる頃にはカーリッツが戻ってきて、野生のメーアがイルク村での保護を望んでいるとの報告があり……そのための準備はしっかりしていたので、特に問題なく受け入れることが出来る。


 ……そう、翌日も翌々日も、それから毎日のように野生のメーアが避難所に駆け込んで来たが全く問題はなかった。


 問題はないのだけどそこまで続くと偶然とも言えなくなり、村の皆は自然と野生のメーアが避難所に誘導されることを『白狼の恩返し』と呼ぶようになった。


 それと同時に、鷹人族の目と犬人族の鼻と、それと私の直感と始祖の銀を使っての徹底的な小人捜索が行われることになり……山から新たに下りてきたのか、それともアレ以来どこかに潜んでいたのかは分からないが、とにかく領内の小人が殲滅されることになった。


 更に鷹人族の巣に依頼しての見回りも定期的に、念入りに行われることになり……避難所の活躍もあり……何もないはずのメーアバダル草原……いや、今は雪原か、とにかくこの辺りはすっかりと安全地帯となったらしく、これを契機に野生のメーア達がなんとも元気に、悠々と闊歩するようになるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はいよいよ……となります



そしてお知らせです

コミカライズ最新54話がコミックアース・スターさんで、53話がニコニコ静画やpixivコミックで公開されました!


54話では打ち合わせをした原作にはないシーンが出てきたり、オリキャラが出てきたりしますので、ぜひぜひチェックしてみてください!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 白狼の恩返し、ちょっとした外伝っぽくていいですね
[良い点] …野生のメーアの最初の、白狼…のセリフ、白狼としか言わなかったし、助けてもらった方を予想しつつ見ましたが…当たってたようで何より!…ゴブ…ゲフン!緑の小人が、まだいやがるとは予想してません…
[良い点] > 白狼の恩返し ワロタ。この扇子のよさが人気の秘訣だなw
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