出産とか色々
登場キャラ紹介
・クラウス
人間族、男、既婚者で妻はカニス、ディアスの腹心であり、東側関所の主、槍の達人でディアスの次に強い
・カニス
犬人族(大型種)、女性、既婚者で夫はクラウス、隣領出身で白い毛の犬人族、クラウスとはラブラブで自分もそろそろ……と考えている
・イービリス
ゴブリン族(魚人族)、男性、ゴブリン族の冒険チームの長、真っ直ぐな熱血漢で、ディアスと気が合う、見た目と笑顔と笑い方は怖いがかなりの善人
白狼のあれこれで忙しくしているうちに、そろそろ出産が始まるだろうとなり、出産予定の面々が産屋に移動し、産屋かその周囲で寝泊まりするようになり……もう今すぐにでも出産が始まってもおかしくない状況となってきた。
去年はたまたま全員が一斉に出産となった訳だけど、今年までそうなるとは思えず……人数も多いことも考えると、しばらくの間は出産が続くというか、続く出産と産まれた赤ん坊の世話で手が離せなくなることだろう。
と、いう訳でいつそうなっても良いように入念な準備をした上で、人手をしっかり配置しようということになった。
まずは出産を手伝う面々。
マヤ婆さんを始めとした婆さん達にアルナー、セナイとアイハンも手伝うそうでその監督にエイマとアルハル、安産絨毯を使う私とベン伯父さんも当然ここに含まれる。
アルナーが抜けた穴……家事全般を取り仕切る役は、クラウスの妻であるカニスに頼むことになり、カニスとクラウスには一時的にイルク村に戻ってもらうことになった。
今は冬で、森も雪に包まれていて……そんな中で来る来客も侵入者もいないだろうとなっての移動だ。
クラウスには私の代わりに見回りやいざという時の防衛をしてもらうことになり……ジョー隊、ロルカ隊にもそれを手伝ってもらう。
関所の守りはモントとリヤン隊が担当することになり……ゴルディア、アイサ、イーライにもそれを手伝ってもらうことになった。
そういう訳で酒場は一時閉鎖となるが……ことが出産なので特に不満の声が上がることはなく、状況が落ち着くまでは皆我慢してくれるようだ。
赤ん坊の世話はダレル夫人やフェンディアや鬼人族の女性達がやってくれるそうで……婦人会の犬人族もここに参加し、頑張ってくれるそうだ。
ヒューバートはサーヒィや、雇った鷹人族達を率いて始祖の銀を使っての監視をしてくれるとかで……そして南から予想していなかった援軍も来ることになった。
「以前から話を聞いていたからな、そろそろだろうと駆けつけたのだ!
出産で忙しいとはめでたい限り! 我らも大入江での安定した子育てが出来るようになりつつあるからな! その礼という訳ではないが、ここは一つ尽力させてもらうとしよう!」
と、そんな声を上げたイービリス率いるゴブリン達だった。
白狼騒動の少し前、雪が深まってきた辺りで、一旦海に帰ると去っていったイービリス達だったのだが、それが数を増やし、30人程で戻ってきて……見回りをしていたサーヒィからの連絡を受けて村の南へと駆けつけると、その全員が船から持ってきたのか大樽を担いでいた。
その樽の中には氷と海水と大量の魚が入っているそうで……イービリスが言うにはそうすることで活きの良い魚をここまで運べるんだそうだ。
「海水は普通の水と違って凍りにくい、普通の水よりもうんと冷えても凍らず、氷と一緒に樽を詰めたなら恐ろしい程の冷たさとなり……それが魚の生命力を封じ込めるのだ。
村の北で作っている氷を見た時にこれがあればと閃いてな! 冬の美味しい魚を活きの良いまま持ってきたから、これをうんと食べて出産に備えて欲しい!」
村の北で、というのは少し前にナルバントが作ってくれた氷ため池のことだ。
洞人族の髭を……浄化の力がある髭を混ぜ込んだ材料で作ったそのため池ではエリー率いる氷班の面々が……セキ、サク、アオイや手が空いている洞人族達が、毎日のように氷を作っている。
川から水を流し込み、それを洞人族の力で浄化し、大体10日ほどかけて冬の冷気で凍らせて、しっかり凍ったら切り出し、地下の保管庫に運び込む。
一つでは足りないだろうと、いつの間にやら洞人族が量産した氷ため池では、どんどん氷が切り出されていて……そろそろ全ての地下保管庫が氷でいっぱいになるらしい。
隣領で売って、地下保管庫を冷やすために使い、飲み物や酒を冷やすために使い……保管庫の氷だけでは足りないだろうと、洞人族達は氷ため池の側に氷を入れるためだけの施設を作ろうとしていた。
円形にレンガを積み上げ、レンガの外側を荒野の砂と水と、それと色々なものを混ぜたものを塗り込み、どんどん上へと積み上げて……屋根は作らず、あえて少しだけの穴を開けた半球状の建物を作り、中に氷を詰め込む。
そんな穴があるとそこから日光が注ぎ込んでしまうのでは? と、思うが穴は排熱……熱を逃がすためのものらしく、それがあることで建物の中に熱がこもらず、氷が溶けにくくなるらしい。
そんな半球保管庫は、地下保管庫よりは保存効率が悪いというか、それなりの量が溶けてしまうだろうとのことだが、それでも半分以上が夏まで残ってくれるとのことで……急ぎでそれを量産しているらしい。
量産といっても、あまり作りすぎても邪魔というか、草が生える場所を埋め立ててしまうようなものなので、作りすぎるなとのアルナーの忠告を受けて程々の数にする、らしい。
4個か5個かそれくらい……とのことで、そのくらいならアルナーも良いだろうと言ってくれている。
氷があれば色々な食べ物を保存出来るし、夏の暑さをしのげるし……その有用性はアルナーも認める所なのだろう。
そして早速その氷が活躍していて……イービリス達が持ってきてくれた樽の中には、ついさっきまで生きていたのではないかってくらいに、新鮮な魚が入っていた。
しかもその魚の太っていること……大きくて太っていて、美味しそうで、今まで持ってきてもらった魚とは全く別格の魚のようだ。
「この魚は……港の連中は何と呼んでいたか……。
我らはこれをよく食べる、主食と言っても良い、そういう訳で我らにとって『魚』と言えばこれのことを指し……逆に魚以外の呼び名がないのだ。
何であればメーアバダル公、公がこの魚の名付けしてくれないか」
樽の中から両手で抱える程の魚を引っ張り出したイービリスがそう言ってきて……私はその魚をじぃっと見つめ、体の中央に入っている黄色い線を見て声を上げる。
「丸々太っていて、黄色い線があって、尻尾も少し黄色いようだし……リンゴ魚とかはどうだ?
リンゴもこう、下の部分が黄色くて、物によって線が入っていたりするからなぁ……美味しくて滋養があるというのもリンゴによく似ていると思うんだ」
「うむ! 公がそう言うのであればこれからはそう呼ぶとしよう。
祝いのリンゴ魚、ぜひとも受け取って欲しい!」
私がそう言うとイービリスが力いっぱい弾んだ声を上げて……他のゴブリン達も樽を掲げることで、お祝いの気持ちを示してくれる。
「ありがとう、イービリス、本当に嬉しいよ。
……とりあえず村で歓迎するから、長旅の疲れを癒やしてくれ。
……というかその格好、寒くないのか?」
私がそう声をかけると……以前と全く変わらない、服らしい服を着ていないイービリス達はその尻尾でぼふんっと雪を叩いてからギャッハッハと笑い、声を上げる。
「全く平気だとも! 場合によってはここ以上に寒い海域にも行くし、太陽の温かさの届かぬ深海に潜りその中を泳ぎ回るのだからなぁ、この程度の寒さ何の問題にもならんとも。
……とは言え暖かい火も寝床もあれば楽は楽だ、用意してくれるのであればありがたい」
その言葉に頷いた私が、イービリス達をイルク村へと案内していると……その直ぐ側をメーア達が通りかかり、ある一頭のメーアを中心に体を寄せ合い、もこもこっとした塊となっている一団を見てイービリスが「あれは何事だ?」と問いを投げかけてくる。
「ああ、あの中心にいるメーアが、少し前に保護した野生のメーアでな……モンスターに襲われて結構な怪我をしているんだよ。
そしてメーア達にはひどい目や悲しい目にあったメーアを、それ以上悲しませてはならないというルールがあるそうでな……あのメーアが悲しまないよう、ああやって皆で寄り添っているんだ。
そのルールを守っていれば、群れ全体が何か辛い目に遭ってしまっても群れの絆がぐっと深まることになり……その絆が群れを守ることにもなるんだとか」
「……なるほど、とても深いルールではないか。
我らの村でも似たようなものを考えても良いかもしれない―――」
と、イービリスがそんな声を上げていたその時だった、雪をばっふばっふと巻き上げながら何人かの犬人族達がこちらに駆けてきて、大声を上げる。
「ディアス様ー! 出産ですー! 出産が始まりましたー!
産屋までおこしくださいー!」
「アルナー様がお呼びですよー!」
「産屋に入る前に着替えをして、手を薬湯で洗ってくれとのことですー!」
その声を受けて私がイービリスの方を見やると、イービリスは何も言わず頷き、産屋に向かってくれと伝えてくる。
「分かった! 今から向かう!
お前達はイービリス達の案内と世話を頼む! 泊まるためのユルトもクラウス達に言って用意してもらってくれ!」
犬人族達にそう声をかけた私は、産屋の方へと駆けていき……アルナーの言う通りにして産屋に入ったなら、私とベン伯父さんが使うことになっている、隅にある部屋へと向かう。
そこはただ椅子があるだけの部屋で、その部屋の壁には小さな窓があり……そこから腕を入れて安産絨毯に触れて起動するというものだ。
何かがあるまで私はそこで待機、何事もなければ出産が終わるまで待機したままで……何かがあったならすぐさま安産絨毯を起動させる。
安産絨毯の力をどう使うのかとか、出産にどう影響するのかとかは、マヤ婆さんやアルナー達に任せ、何も考えずにただ起動させるだけが私の仕事だ。
そうしてまず一人目の出産が始まり……そしてどういう訳なのか、これをきっかけに出産が続くことになる。
全員一斉にではないが、順番に……という感じで、毎日毎日7日程、出産が続くことになった。
そんな状況を見て、イービリス達は村の仕事をよく手伝ってくれて……仲間に連絡して更に多くのリンゴ魚を運んでくれまでもして、とても力になってくれた。
せっかく来てくれたのにロクに歓迎できず、申し訳ないばかりだったが、その分だけイービリス達に何かがあったら助けてくれたら良いとか、春になって余裕が出来たら南の入江側に色々な施設を作ってくれたら良いとか、そう言ってくれて……その言葉に甘えに甘えた私達は、必ず恩返しをしなければと決意することになる。
だがその恩返しはまだまだ先のことになるだろう、何しろしばらくは産まれたばかりの赤ん坊の世話で四苦八苦することになるからだ。
どんな恩返しが良いのか……南の入江側の整備はもちろんとして、他にも何か……。
その答えはしばらくの間出ることがなく……私達は赤ん坊の世話をしながら頭を悩ませることになるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は赤ん坊のあれこれやらになる予定です




