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第281話 珠玉の菱と3つの星

後半3人称が入ります。


また、GWは日・火・木の3回更新予定です。

 紀伊国 高野山


 高野山全体の制圧・・が終わった。戦争にはならなかった。僧兵はほぼ一掃され、ごく一部の降伏した僧兵のみが生き残った。畠山氏の生き残りである畠山昭高も自らの坊の中で炎に包まれたそうだ。鎮火し次第遺体の確認となるだろう。元細川家臣で同僚を殺害した後高野山で僧兵になっていた亀井重堅は命乞いをしながら降伏してきた。改めて裁きを受けさせることになるだろう。

 他にも、根来寺の武装解除を拒否して高野山に入った者の死亡が確認された。最後の抵抗を示し、信長の狙撃を実行した杉谷某という火縄銃使いも根来寺出身だった。母衣衆の1人が文字通り信長の盾となって事無きを得たが、かなりの長距離狙撃だったそうで、信長も冷や汗をかいたと言っていた。その杉谷某もうちの強襲部隊によって討たれた。以前三好実休殿を狙撃した音羽ノ城戸という男もそうだが、今後は戦場以外で俺たちを狙う動きが増えるだろう。服部党には今後そういう動きに十分注意するよう命じておいた。

 高野山の座主である快宗様は高齢で、逃げ出すのにかなり無理をさせてしまった。火災に巻き込まれなかった坊での面会となったが、息が上がったままでかなり大変な思いをさせたなと見てわかる状態だった。


「我等の内々で片付けねばならぬ問題に権中納言殿の御手を煩わせてしまいました」

「御体は大丈夫ですか?」

「元々拙僧はもう長くはありませぬ。後1年も持たぬ身でしょう。御気になさらず」


 僧兵たちも快宗様を幽閉に止めたのは快宗様の体調があってだろう。もし何かを強要して亡くなったら文字通り自分たちが仏敵になる。その結果誰も自分たちに協力しなくなる可能性を考えれば手が出せなかったのだ。中途半端な対応になった理由がよくわかる。うちの救出部隊は最初から快宗様をおぶって脱出できる人間を派遣していた。このあたりも事前の情報を生かしての行動だ。それでもこれだけ消耗させてしまったのは申し訳ないが。


「高野山は残りますか?」

「寺領は大幅に縮小させて頂きますが」

「仕方ありませぬ。鎮護国家を願う者が国を乱したのですから。真面目に修行に務める者だけは御許し頂ければ、弘法大師様には拙僧が閻魔様に御願いして御許し願います故」

「今回の処理もあります。未だ御元気でいて下さいませ」

「忝い」


 ♢


 ほぼ無傷の神域に快宗様を送った後、信長と合流して実務者と協議に入る。


「神域は無事に渡せた。故に約定通り寺領は五千石分を残し没収。僧兵は解体だ」


 信長の言葉に、以前会った覚満殿が頷く。


「御配慮頂き痛み入ります」

「元来此の高野山は人々の安寧を願い、仏門を志す者の登竜門となることが本旨。其れを此れからも忘れないでくれ」

「残る者達は必ずや正道を歩みまする」

「期待している」


 当分は監視と他宗派からの警戒をかねて根来寺出身と興福寺・比叡山出身の元僧兵から編成した警備部隊を配置する。彼らの再就職先にもなるし、興福寺出身の元僧兵は今回の揉めた原因の1つである筒井氏関連のことがあるので高野山に甘い姿勢は見せないし、根来寺出身者は高野山の勝手を知っているので問題はそうそう起こさない。そして中立の視点から比叡山出身者が両者を仲介すれば問題も起こらないだろうし、讒言もされにくくなるはずだ。


 これで畿内周辺の宗教勢力は武力を完全に手放した。畿内で武力をもっているのは俺たち3家のみだ。三井寺は現在再建の申請をしてきている。今年中に信長と協議して決めることになるだろう。



 事後処理を進めていると、信長と俺の元に急報が届いた。

 三好式部大輔義興が、伊予で倒れたという報告だった。


 ♢


 摂津国 堺


 和歌山湊から急いで堺へ向かった。播磨にいた義兄の長慶も堺にやってきた。


「状況は?」

「伊予で大友との戦支度をしている最中、倒れたと。流石に一旦兵を退くと一存から連絡があった」

「容態は?」

「仔細は分からぬ」


 現地に派遣している軍医が診断しているだろうが、その内容が届かないと動くに動けない。


「一先ず情報を待つか」


 薬の調達と堺の医院における手術室の準備を進めていると、現地の軍医が手紙にした診断表を送ってきた。


「内臓の病気らしいが自分では仔細まで分からない、といった感じか。四国に渡るしかないな」

「義兄上。今は讃岐・阿波に行くならまだしも、伊予に行くのは危険ぞ」

「しかし、式部大輔殿は三好の唯一と言っていい跡継ぎだ。見捨てる訳にはいかん」


 俺の言葉に義兄の長慶はわずかに俯く。親心としては診てほしいということだろう。だが、危険な場所に俺を派遣するのはありえないとも。

 だからこそ、ここで葛藤できる三頭の一角を失う訳にはいかない。


「信長、兵を出して貰えるか」

「高野山で訓練しかしていない兵が万はいる。何時でも動かせるぞ」

「義兄上、後は貴方次第だ」


 義兄の長慶は目を閉じる。西国は自分たちが何とかすると決めていたし、信長に頼るとパワーバランスが織田に大きく寄ることになる。そういう部分でも葛藤があるのだろう。

 近くにいる三好日向守長逸と松永弾正久秀はじっと長慶を見つめている。相談役である篠原岫雲斎(しゅううんさい)が口を開く。


「殿、若様無くして三好は栄えませぬ。例え織田の援けを得ても、三好が続く限り問題御座いませぬ」

「岫雲斎」

「某も、息子(自遁)も其の為なら命も惜しみませぬ」


 既に一線から退き、相談役に徹している彼の言葉は重い。家臣団のトップといっていい人物だ。強い影響力のある彼がここまで言ったのは覚悟を示したと言っていいだろう。

 3回、義兄は深呼吸をした。俺が教えた心と体を落ち着ける方法。そして俺と信長に向き合う。そして両拳を板の間について頭を下げた。


「二人に頼む。三好を援けてくれ」

「無論。先ずは讃岐の宇多津に兵と糧食を運ぶぞ」

「讃岐に向かう。義兄上は此処で待っていてくれ」


 俺たち3人が本格的に組めば勝てる勢力なんてないのだ。


 ♢♢


 安芸国 吉田郡山城


 吉川元春が抗生物質の効果もあって峠を越えたことをうけ、毛利軍は全軍が進軍を停止した。子を失いかけた元就は中央との対立を避けるべく新たに重臣の口羽通良を京へ派遣。尼子を含めた和睦に向けて動き出した。

 そして中央に派遣されていた諸将の情報から、伊予の状況と織田・斎藤勢の動きを西国でいち早く察知したのも毛利元就だった。


「隆元、讃岐へ向かえ」

「讃岐へ、ですか」

「元春の快癒、礼を言うなら今だ。当主の其方が行けば誠意というやつが伝わる」

「父上は?」

「やる事がある。其れに我は船に耐えられる歳では無い」

「畏まりました」


 毛利隆元が安芸から備中経由で讃岐へ出発した後、元就は尼子との戦中に不穏な動きを見せていた国人の粛清と講和による領地の削減に対応できる体制作りを始めるのだった。


「元春、隆景。石見・長門・周防は手放すと思う也」

「銀山も、で御座いますか?」

「銀山を手放すから我等の本気が伝わるのだ」


 元就は九州まで織田軍は来ると予想していた。そして将来的に大陸との交易は必ずや再開されるであろうとも。だからこそ、彼は自身の領地の半分を差し出しても瀬戸内海の要地を確保することを優先すると決めていた。下関は要衝すぎて野心を疑われかねない。本気を見せつつ権益を維持するラインを、彼はしっかりと見極めていた。


「我等天下を望まず。然れど天下に名を残す事を望まん」

三好義興、倒れる。

史実と時期はほぼイコールです。このあたりは史実より叔父が生存して精神的負荷が減った以上に相手が強大かつ当時の西国最強格の将軍相手+そもそも西国最大の大名の跡取りとしてのプレッシャーなどが影響しています。それだけ道雪の相手は大変ということで。


毛利は良くも悪くも生き残り策に出ました。実務レベルの協議が終わり次第、中国地方の争乱は終息していくことになります。

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― 新着の感想 ―
[一言] というか、そこは戦国でもトップクラスの謀将 毛利の発展可能な程度、と同時に毛利に天下を望める力がない事や、三好、斎藤、織田、北条……彼らを敵にして勝てるとも思っていなかったんでしょうね だか…
[良い点] 「我等天下を望まず。然れど天下に名を残す事を望まん」 いいですねえ、これは元はたしか元就の遺言からでしたでしょうか? これが言えてかつ領地を手放す決断ができるのは一代で大きな身代を築きあげ…
[気になる点] 誤字?報告 西国最強格の将軍相手 ↑ 西国最強格の名将相手
感想一覧
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