アルファロメオ
3. アルファロメオ
どうやら、このGTはV6、3200ccで6速マニュアルトランスミッションのモデルでGTの中では一番ホットバージョンです。
早速シートポジションを合わせてGTのキーを捻ると何とも言えない音が地下駐車場に響き渡り、私は驚きと共に、にやけていました。クラッチを踏み込みギアを1速に入れサイドブレーキを下ろすと、まだミッションオイルが温まっていないようで走りだそうとしたのでブレーキを踏みつけました。それはまるで荒馬の手綱を押さえているようで、早く解き放ってやりたい気持ちを油温が温まるまでおさえこみました。
油温計の針がピクリと動き出したのでアクセルを少しあおりながら、ギアを1速に入れてそっとクラッチを離すと太いトルクで、すべるように走り出したのです。
そして駐車場の中を1周するようにして出入り口に近づくとシャッターが開きはじめました。
光がその開いたところから、洪水のように押し寄せてきてGTのボンネットを照らし出し、そのボンネットのブルーをさらに綺麗なブルーに変えると、今度は私達を照らし出し、私の視界は真っ白になったため、胸ポケットに入れていたカルバンクラインのサングラスを掛けたのでした。
青空が一気に開けGTに外の空気を思いきり吸わせるためにクラッチを踏んで1回アクセルを煽ってから駐車場を後にしました。
横浜に向かうために横羽線に乗り、少し癖のあるポジションとミッションに慣れると1500kgの車体は240馬力と30kgトルクで、気持ちの良い加速を味あわせてくれました。
そして私達は、みなとみらいICで降りて大桟橋に向かったのでした。
大桟橋には、ちょうど外国から来た大きな客船が停泊していたので、GTを少し離れた駐車場に止めて歩く事にしました。
桟橋に着くと海風がとても気持ち良く、客船をしばらく見ていて、私は珍しい物を見つけたので、先輩に聞いて見る事にしました。
『UW旗って知ってますか?』
『浮気の略?』
『・・・・・・』
『“き”は旗です』
『知らない』
私は指をさして
『あそこにいる人が振っている2枚の旗の事です』
『どんな意味があるの?』
『あの人たちが振っている旗はUWと言って“安全なる航海を祈る、行ってらっしゃい”と言う意味があります。そして客船のマストの旗がUW1と言って“ありがとう、行ってきます”って答えています。他には船が入港する船に向かって“入港を歓迎する”と言う意味でUW2とか、同じように港が“入港を歓迎する”意味で、UW3を使います、その時入港する船は“ありがとう”と言う意味でやはりUW1を掲揚します』
『へぇ~かっこいいね』
先輩が私の腕に手を絡ませてきました。
小1時間潮風に吹かれてから、箱根に向かう事にしました。
横浜からは保土ヶ谷を抜けて東名高速横浜町田インターに向かったのですが、保土ヶ谷バイパスで少し渋滞があっただけで、東名に入ると渋滞は無くスムーズに厚木まで行く事ができ、厚木からは小田原厚木道路を箱根方面に走っていました。
100km/h程度で気持良く走っていたところ、何処からかバイクのような音が近付いてきて、GTの横で速度を緩めると、一気に加速し出しました。
『何!!あの車』
先輩は窓に張り付いて見ていました。
『スーパーセヴンです!!』
私もすぐにシフトダウンしてGTのアクセルを踏み込み高音を響き渡らせて加速したのですが、軽いエンジン音と共に、みるみるうちに遠くに離されてしまいました。
その時170kmは出ていましたが、スーパーセヴンの加速に付いていく事が出来ませんでした。
多分、GTのカタログ上で言うと、250km/hは出るのですが、セヴンは、超ライトウェイトスポーツ、馬力がGTよりも少なくても100km/hや200km/hに達する時間が恐ろしく速いのです。
先輩が『あの車に乗ってみたい』
私は前から興味があって、一度所有したいと思う車の1台なのでした。
その後は小田原厚木道路を抜けて、ターンパイクです。ここは高速コーナーが続く山坂道でGTの得意分野と言えます。
私は、3個のコーナーでGTのコーナーリングを確かめてから加速し出したのでした。
既に私は一人の世界に入っており、ヒールアンドトゥーを使ってフルブレーキングでコーナーに侵入し立ち上がりでアクセルを踏み込んで楽しんでいると、先輩は静かになっていました。
そのままターンパイクのコーナーを楽しんでいると、
『もう駄目』
先輩が乗っていることを思い出して、あわててスピードを落としたのでした。
この車は少しオーバースピードでコーナーに入って行くとFRのようにリアがスライドし出し、コーナーの立ち上がりでは、FF本来の加速もします。
流石フェラーリの血をひく車、とてもこの車が気に入りました。
きっと先輩が運転している姿はもっといいでしょう、きっとさりげなく乗っている姿はイタリア女性のように華やかなはずです、見たくなったのと、この車を買った理由が聞きたくなりました。
そんな事を考えているうちにターンパイクを登りきり、見晴らしのいい大観山展望台に着いたのでした。
展望台からは天気が良ければ芦ノ湖の向こうの青空に稜線をくっきりと浮かび上がらせた富士山を見る事が出来ます。
そしてもう一つの名物が、たくさんの車のエンスーたちが集まり車自慢をしているのです。中には世界で数台しか無い車をわざわざトラックに積んで持ってくる人も居るのです。
私達は、その展望台のパーキングに入り、空きを探していると先ほどのスーパーセヴンが居ました、ドライバーは居ませんでした、低さがやはり地に這いつくばっているようでした。
GTの駐車スペースを見つけて止めようとしていると、先輩が落ち着かない様子でいる事に気付きました。
『どうしたんですか?』
『トイレに行きたい』
GTを急いで止めて、トイレ方を指差すと、先輩はバッグを持って指差した方向に風に吹かれるまま周囲を気にすることなく長い髪の毛をかき上げながら歩いて行きました。
優雅でした。周りいる男達の視線のほとんどが、先輩を見ていました。
私は優越感に浸っていました。
先輩が帰ってくるまでGTのシートを少しリクライニングさせて、シートの心地よさを味わっていました。
先輩が帰って来たので、窓を開けて声をかけたのでした。
『間に合いました?』
『少し漏れた』
私はこらえる事ができず大笑いして、
『じゃあ、今もしかしてノーパンですか?』
すかさず鋭いストレートパンチをありがたく頂きました。
『女の子とドライブする時は、トイレを気にするの!!』
どこかの男性ファッション紙に書いてあったことを思い出していました。
『でも、普通女子なら漏れても言わないんじゃないですか?』
今度は可憐な愛を感じられないフックがわき腹に入り、言葉が出ずにいると、何処からか2人の男がニコニコしながら声をかけてきました。
『綺麗なGTですね』
私はフックの影響で声を出せずにいると、先輩が
『ありがとう』
彼らが私に名刺をさし出して来たので受け取ると、アルファロメオクラブの人たちでした。
『この車は、私のではなく彼女の車です』
と言うと彼らは、より大きな声で勧誘しはじめたのですが、先輩は名刺を受け取り、軽くあしらうように、
『考えさせていただきます』
と言うと私の手を引いて歩きはじめたのでした。
先輩には、ここに来た目的を言い、今度は私が手を引き大観山パーキングの裏側に行くと、目の前にくっきりと富士山が浮び上がっていました。
今日は特に雲ひとつ無い空で何ときれいな富士山でしょう。周りの人達がカメラに収めようと必死になっていましたが、私もこの大パノラマを何度もカメラ収めようとしたのですが、見た通りには収まらないのです。
私は、先輩と少しの間、時間を忘れて見ていました。




