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破壊の御子  作者: 無銘工房
建国の章
308/548

第42話 問題

「皆様には、ご足労をいただき感謝の言葉もございません」

 王宮の一室に集まってくれた人たちに向けて、ポンピウスは深々と頭を下げて、そう言った。

 その部屋に集められたのは、そうそうたる顔ぶれである。

 まずは、ソルビアント平原に住まうゾアンの若き英雄にして大族長であり、今やソーマの軍の大将軍となったファグル・ガルグズ・ガラム。

 その隣には、勇猛さをもって平原にその名を知られた〈爪の氏族〉の族長にして、ソーマの軍では獣将としてゾアンを率いるクラガ・ビガナ・ズーグ。そして、〈牙の氏族〉族長代理となったファグル・ジャガタ・グルカカと〈たてがみの氏族〉族長の息子メヌイン・バララク・バヌカのふたりが続く。

 さらに、工房を統括する匠人であり、ドワーフ重装歩兵を率いる地将ドヴァーリンと、その副将のノルズリ。

 今やソーマの軍勢すべての目となるハーピュアンを率いる鳥将ピピ・トット・ギギ。

 ディノサウリアンからは、自他ともにソーマの軍最強と認める戦士にして竜将のジャハーンギル・ヘサーム・ジャルージと、その三人の息子たち。

 人間種からは人将のマルクロニスと、その副官であるセティウスに「黒壁」のアドミウスなどの武将だけではなく、一部では氷の女長官と恐れられるミシェナとその義父であるソロンに加え、料理人のマルコまで顔を並べていた。

 そして、ポンピウスの願いによって彼らをこの場に呼び集めた女官長にしてエルフ弓箭兵隊を率いる弓将エラディア・オールドウッド。

 とどめとばかりに、蒼馬が第一の臣と認め、自らの半身とすら信頼するファグル・ガルグズ・シェムルまでもが蒼馬の警護から離れて加わっているのだから、この集まりがただ事ではないことが察せられる。

「礼は良い。それよりも本題に入っていただきたい」

 冒頭のポンピウスの謝意に対し、まず口火を切ったのはガラムであった。

「今は、いよいよソーマが大々的に建国を宣言しようという矢先の多忙な時期だ。こうして顔を直接に会わせるのも久しぶりな者も多い。そんな俺たちが、このように一堂に会したということは、おそらく皆も俺と同じことを聞かされたのだろう」

 日夜、大将軍として奔走(ほんそう)しているガラムが、多忙な時間を割いてまでここにやってきたのは、エラディアを介して伝えられたポンピウスの用件のせいである。

「新たな国が長きにわたり存続するか、すぐに(つい)えるかの大事。――俺はそう聞いてきたのだが、それに間違いはないのだな?」

 嘘であればただではすまさぬぞ、との気迫を込めてガラムが言った。それに合わせて列席した者たちの視線の集中砲火がポンピウスへと浴びせられる。

 しかし、さすがは元大宰相。たとえ後ろ暗いことがなくても、気の弱い者ならば卒倒しかねない猛者(もさ)たちの視線にも怯えの色ひとつ見せず、柔らかく受け止めてのけた。

「この老骨の名誉にかけて、(うそ)(いつわ)りはございません。――おそらく、このまま新たな国を興しても存続させるのは困難であると、私は考えます」

 ただ淡々と事実のみを告げるポンピウスの口調に、その場に居合わせた者たちの反応は否定と懐疑(かいぎ)が半々といったところだった。

 今や立ち位置を蒼馬の陣営に変えたとはいえ、ホルメア国の人間であったマルクロニスたちにしてみれば、元大宰相ポンピウスの言葉となれば軽々に扱えない。それでも鵜呑みにするには、あまりに不穏な内容であった。

「ホルメアの元大宰相様が、何を言うかと思えば」

 否定派の代表として声を上げたのは、ノルズリである。

 つい先日までホルメア国に父祖の地であるマーベン銅山を占領され、そこで鉱山奴隷として酷使されてきたノルズリにとっては、ホルメア国の人間は仇敵である。その大宰相とまで呼ばれたポンピウスの発言だけに、そう易々とは受け入れがたいものだった。

「ホルメアのすべてを喰らったわしらの勢いは、まさに(ふいご)で風を送られた火の如し、よ。それを何の根拠をもって、ホルメアの大宰相様がおっしゃるのかのぉ?」

 ノルズリは細かく編み込んだ赤髭を指先でいじくりながら、皮肉たっぷりにそう言った。

 滅ぼされたホルメア国の人間が何を言っても、かけらほどの説得力はない。

 そう言わんばかりのノルズリの言葉に、他の者たちからは率先して同意する発言は出ないものの意見自体には肯定するような雰囲気であった。

 しかし、それぐらいは予想していたポンピウスは、それを泰然と受け止める。

「おっしゃること、誠にごもっとも。また、ソーマ様の臣下ですらない私の言を信じがたいのも当然でしょう」

 そう言ってポンピウスはノルズリより視線をはずし、顔を別の方へと向ける。

「ならばこそ、あなたにお(うかが)いいたしましょう。アウレリウス――いえ、ソロン殿」

 ポンピウスが言葉をかけたのは、先程からひとりだけニヤニヤと笑いながら事の成り行きを黙って見ていたソロンであった。

 今やその見識と洞察力においては、蒼馬の陣営の誰もが認めざるを得ないソロンである。彼の口を借りて、新たに興す国の問題を皆に理解してもらおうというポンピウスの意図であった。

「これより新たに興るであろう国が、長きにわたり続くか? またはすぐに(つい)えるか? 正直にお答えいただきたい」

 ポンピウスの真摯(しんし)な問いに、しかしソロンはケラケラと笑って答える。

「何か問題でもあったかな? わしには、さっぱりわからんのぉ」

 そのひねくれっぷりにおいても誰もが認めざるを得ないソロンである。まともに答えるわけがなかった。

「ソロン殿。国の大事ですぞ。まじめにお答えください」

 ポンピウスが重ねて問いかけても、ソロンは何のことかわからないと空惚(そらとぼ)ける始末である。いかにして、このひねくれ者の口を割ろうかとポンピウスが思案していると、思わぬ援軍がやってきた。

「お義父様。ポンピウス様が困っていらっしゃいますよ。そんな意地悪しないでください」

 それはミシェナであった。

 辺境の街の財務士に過ぎなかったミシェナですら、大宰相ポンピウスの名声は聞いている。自分が生まれるより前に、とっくに職を辞して隠居していたというのに、その偉業は今なお語り継がれているのだ。もはやミシェナにとっては伝説の中の人物である。

 そんな伝説の偉人を義父がからかうのに、先程からミシェナは恐れ多くて気が気ではなかったのだ。

 軽薄な笑みを浮かべていたソロンだったが、ミシェナに懇願されるなり顔をしかめた。

 ソロンはどうにもならないひねくれた老人だが、どういうわけかこの養女にめっぽう弱い。

 ソロンは小さく舌打ちを洩らすと、ふてくされた顔でボソッと言う。

「こいつが言うように、このままでは危うい。西域諸国をすべて敵に回した挙げ句に、国が自壊しかねん」

 ざわりと、その場がざわめいた。

 ポンピウスとソロンというふたりの賢人が口を揃えて言うのである。これはただの危惧(きぐ)だけではすまないと誰もが思った。

 しかし、肝心なふたりが危惧するものが、まるで見当がつかない。いったい何が問題なのかと、近くにいる者同士が小声で話し合うが、これといった答えは誰からも一向に出てこなかった。

 しばらくして皆を代表してガラムが口を開く。

「俺たちにはふたりが危惧するものが、まるっきりわからん。わかるように説明して欲しい」

 ガラムに(うなが)されたソロンは椅子から立ち上がるなり、()頓狂(とんきょう)な声を上げる。

「僕は、みんなが平等な国を作るぞぉ~。種族の差もなく、身分もない平等な国だぞぉ」

 どうやら蒼馬のマネらしい。

 敬愛する「臍下(さいか)(きみ)」をコケにするようなソロンの振る舞いに、シェムルは激昂(げっこう)して椅子を蹴立てて立ち上がろうとする。しかし、それよりも一瞬早く、ガラムがシェムルの腕を掴んで引き留めた。その上で「今は我慢しろ」と目で言われればシェムルも我慢せざるを得ない。

 そうしている間にもソロンはおどけた様子で続ける。

「小僧のおかげで王様も貴族様もいなくなった。これでみんなが平等。めでたし、めでたし。――とはいかん」

 そこでソロンは、シェムルが暴発しないか(にら)みを利かせているガラムへ話を振った。

「さて、大将軍殿。あなたは大将軍であるとともに、ソルビアント平原のゾアンすべての大族長であり、また〈牙の氏族〉の族長でもあるとうかがっております」

 ガラムが「そうだ」とばかりにうなずくと、ソロンは問いを投げかけた。

「では、〈牙の氏族〉の族長としてお答え願いたい。

 ある日突然、あなたの氏族の領域の隣に見ず知らずの氏族がやってきて生活を始めたとしよう。そして、その氏族から使者が送られてきた。そいつらは領域を侵す意志はなく、戦うつもりもない。できるならば手を取り合い共存共栄できればうれしいと伝えてきたとする。――さて、族長殿はいかがされますかな?」

 しばしガラムは腕組みをして考え込む。

「氏族の土地を侵されたならばともかく、それならば不測の事態に備えはしておくが、氏族間の友誼(ゆうぎ)を結び、助け合うことになるだろう」

 ガラムの答えに、ソロンは「結構、結構」と何度かうなずいてから、さらに尋ねた。

「あなたとその使者とで氏族間の友誼を結ぶのですかな?」

「そんなわけはない」

 ガラムは即答した。

「氏族間の友誼ともなれば、それは氏族の大事だ。当然、相手の氏族の族長と直接に顔を合わせ、誓い合わねばならんものだ」

 ガラムが自分の意図した答えを口にしたのに、ソロンはニカッと笑う。

「では、相手の氏族には族長がいないと言われたら、いかがされる?」

 ガラムはソロンの言葉が理解できず、「何?」と眉間にシワを寄せた。さらに、ソロンは続けて言う。

「相手の氏族は、老人から子供まで全員で話し合って物事を決めているので族長はいない。代表となる者はいても、それも話し合いで決めているので、いつ別の者になるかわからない。だが、友誼を結ぼうと言ってくる」

 それにガラムは「そんな馬鹿なことがあるか」と言わんばかりに顔をしかめて見せた。すると、すかさずソロンが畳みかける。

「小僧が興そうとしている新たな国の問題とは、つまりはそういうことよ。氏族を国に、族長を王に変えれば、現状がわかろう」

 ソロンの言葉に「そういうことか」と理解を示したのはズーグである。

「俺とて氏族間の友誼を結ぼうという大事な場に一介の戦士が出てくれば、『俺を舐めているのか?』と首にして送り返したくなるわ」

 ズーグに「そうだろ?」と言わんばかりに目を向けられたガラムもまた重々しくうなずいて見せた。

「先触れの使者ならばともかく、相手と友誼を結ぶほどの大事と思えば、それなりの立場や経歴の者を立てねば相手への礼を失することになる。また、相手としても誰を氏族の代表と見なせば良いかわからず、協議すらままならなくなるだろう」

 そこでソロンは、ひとつため息を洩らして言う。

「一部の例外はあれど、ゾアンはそのときにもっとも優れた者を族長に選ぶと聞いておる。これは、むしろ小僧の考えと近い。だが、それでも族長に選ばれた者は、我こそが族長であると名乗り、その責務を果たそうとするであろう。

 ところが、小僧の場合は『自分はあくまで族長ではなく一介の戦士にすぎない』と、こう言い張っているわけよ。これでは隣国も小僧を国の大事を話し合う相手とは見なせんわ」

 これに、ようやく皆の顔にも理解の色が浮かぶ。

 ところが、そこにシェムルが噛みついた。

「そんな馬鹿な話があるものか! ソーマはその身ひとつだけで私たちゾアンの信頼を得て平原を取り返したばかりか、今やこうして国ひとつを勝ち取ったのだぞ。その偉業は、誰もが認めざるを得ないものではないか! それのどこに不足がある!」

 シェムルとしては蒼馬が交渉相手にならないと軽んじられていると言われて我慢がならなかったのだ。

 これにソロンは「まったくじゃ」と同意を示しつつ、さらに言葉を続ける。

「しかし、人間様と言う奴は血筋というものにくだらん固執を示す生き物でな。特に、力もなく実績も上げられておらん馬鹿者は、自らの血筋と地位しか誇れるものはない。それだけに、そうした者にとっては血筋と地位こそが絶対の価値観となる。そう言う連中からして見れば、王も名乗らず、どこの血筋ともわからん小僧なぞ、とうてい対等に交渉する相手とは見れんわけよ」

 ソロンに反論する言葉が見つからずに顔をしかめるシェムルに代わってバヌカが口を開く。

「ですが、ホルメア国とロマニア国とは交渉でうまくやれたではないですか」

 バヌカが指摘するのはホルメア国の主権移譲とロマニア国との休戦協定とヴリタス亡命の件だ。

「私たち〈たてがみの氏族〉は氏族内の有力血族の中から族長を選ぶのが(なら)わしですが、それでも力を示した者を軽んじるわけではありません。問題ではないのでは?」

 バヌカの援護射撃に、シェムルは「そうだ、そうだ」と言わんばかりに、腕組みをしてしきりとうなずいた。このシェムルの反応に、バヌカもわずかに全身の毛を立たせて浮き立った様子になる。

 ところが、それをソロンは「女の尻を追いかけ回すのは、余所(よそ)でやっとれ」と一言の下に切り捨てた。

 予想もしていなかった暴言と、図星を突かれた羞恥に言葉を失うバヌカには、もはや目もくれずにソロンは言う。

「そんなものは、わしの功績に決まっておろうが」

 あまりに傲岸不遜(ごうがんふそん)な物言いに誰もが絶句した。すると、それまで口を閉ざしていたポンピウスが取りなすように言う。

「事実、血筋も地位も実績も明らかなソロン殿の提案だからこそ、私も誘いに乗ったのです」

 ポンピウスの言葉に、ソロンは自慢げな顔を作る。それに「大人げない」と思いつつポンピウスは続けて言う。

「そして、それを議論できたのも、もはやロマニア国に滅ぼされるか、あなた方に滅ぼされるかの二択を迫られていたからにすぎません。しかし、それほど追い詰められてなお、話し合いではあなた方に降るとは決められませんでした」

 ポンピウスは、蒼馬に降るかどうかを議論していたときの宮廷の光景を思い浮かべて苦笑した。 

 あのときは、普段は高貴な身分と取り澄ましていた重臣と貴族諸侯らが恥も外聞も投げ捨て、口汚く相手を罵り、激昂するあまり殴りかかる者まで出る始末だったのである。それでもなお結論はでず、結局は最後の王族であるワリナ王女に決断を(ゆだ)ねるしかなかったのだ。

 そればかりか、ポンピウスはこの場では秘していたが、そうまでして降伏を決めたというのに、一部の跳ねっ返りが戦いの最中に蒼馬を暗殺しようとしたのである。

 もし、降伏する相手が蒼馬ではなく、由緒ある血筋や地位のある国だったならば、もっと話は簡単だっただろうとポンピウスは思う。

 こうまで言われても、いまだ納得できないとばかりに顔をしかめているシェムルの姿に、ソロンはエラディアへと話を振る。

「女官長殿。すでに小僧は諸国へ友好を求める使者を送っていると聞く。それらの国より返礼の使者は参りましたかな?」

 エラディアはふるふると首を横に振った。

生憎(あいにく)とございません。例外と言えばジェボアの商人ギルドの方々でございますが、あの方々はあくまで商売上の利便のために爵位をお金で買っているだけ。その根は平民にございます。

 そんな名より実を取る商人の方々が実権を握っているはずのジェボア国ですら、国としてはソーマ様と直接に友誼を結ぼうという使者を寄越してはおりません」

 ソロンは「当然じゃろうな」とつまらなそうに吐き捨てる。

「事実上、商人ギルドが国を支配しているジェボアが、なぜ傀儡とはいえ王制を敷いておる? 簡単なことよ。今、わしらが直面しておる問題を回避するために他ならん」

 事実を突きつけられたシェムルは、うっと言葉に詰まる。そんなシェムルにソロンは優しく諭すように言う。

「王侯貴族とは、人の上でふんぞり返って偉そうにしておるから王侯貴族なのよ。平伏しなければ不敬だと憤慨し、直視しただけでも無礼だと激怒する。そうしなければ権威が保てぬと思うておる連中よ。

 そんな者たちが、自らを平民と同じと言い張る小僧から仲良くしましょうと言われて喜ぶか? 仲良くお手々をつないで友情を誓い合うか? 対等の協議の場に足を運ぼうと思うか?」

 ソロンは意地の悪い笑みを浮かべ、「そんなわけがあるものか」と言い切った。

「たとえ、どのように(ひん)しようとも、いかに(きゅう)しようとも、それは変わらぬ。それはいかな小国とて同じことよ」

 ソロンは部屋の壁にかけられた西域図を杖で指し示しながら言う。

「まずは、ホルメア国とロマニア国に挟まれておった小国バルジボア。両国の間をのらりくらりと生き延びてきたこの国にとっては、ホルメア国に取って代わったわしらとは真っ先に友好を図らねばならぬはず。

 また、ロマニア国の東にある八王連合国の諸国ともなれば、もはや言うに及ばず。ロマニア国の脅威に備える八王連合国にとってみれば、ロマニア国と対抗でき、また実際にロマニア国が八王連合国へ攻め入ったときにその後背を突ける位置におるわしらとは、ホルメア国とそうであったように是が非でも友好を結ばねばならぬであろう」

 ソロンは手にした杖で床を音高く突いた。

「ところが、そうした国ですらいまだに正式な使者は送って寄越しておらん」

 そこにポンピウスが口を挟む。

「正式な国使ではございませんが、かつての交遊を伝手(つて)にして私を含めた旧ホルメア国の重臣や諸侯のところへ、そうした国々からの客人が多く訪れております」

 正式な国使を送れない代わりに旧交を温めるという名目で、この国の内情を探るとともに相談を持ちかるために諸国の要人たちが訪れているとポンピウスは言う。

「そうした方々が一様に口にするのは、新たに興る国とソーマ様をどう扱うべきか、ということなのです」

 当然ながら、使者ひとつ送るにしても相手によって格式が問われる。

 相手が西域の雄とも呼ばれた大国ホルメアだったならば、国の要人を使者に立て、多くの贈答品を携えさせ、最上の礼をもって自国の王の言葉を伝えなければならない。

 しかし、相手が平民であれば、使者はせいぜい役人程度である。しかも相手を平伏させた上で、そこに権威を示しつつ王の言葉を一方的に告げることになる。

 ところが、新たに興る国は西域の雄ホルメア国を飲み込んだ強国でありながら、その頂点に立つ蒼馬は自身を民と平等と言い切っているのだ。

 そのため諸国は、自国よりも強大な国として上位につけるべきか、はたまた平民に率いられた新興国として下位と見なすべきか、その判断すらつかず、使者を送れずに苦慮しているという。

「そうした国々は、決してあなたたちと対立したいわけではございません。むしろソーマ様が求められているように友好を図りたいのです」

 ポンピウスが深い憂慮を込めて語った言葉をソロンが引き継ぐ。

「この西域では、ここ百年の間に滅びる小国はあれど、新たに国が興ったことはない。ましてや、それが西域の雄とも呼ばれたホルメア国を飲み込んで興った大国ともなれば、それが諸国へもたらした衝撃の大きさは言うまでもなかろう。

 今や西域の諸国は、小僧が興そうとしておる国によってこの西域に新たな均衡が生まれるのか、はたまた戦乱の時代へと突き進むのかと、その一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)を緊張をもって注視しておる」

 ソロンは手にした杖で壁に掛けられた地図を音高く叩いた。

「ところが、諸国はわしらとの対話と交渉の窓口を見い出せぬために、無用な緊張を()いられておる。

 それはまさに火にかけられ、ぐらぐらと煮立った油のごとき状況よ。わずかな火種で大火となる恐れがあるばかりか、このままでは放っておいても遠からず燃え上がるのは必定であろう!」

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