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破壊の御子  作者: 無銘工房
龍驤の章
258/548

第124話 大将軍(後)

「《猛き牙》を――大族長をお救いしろっ!」

 たまらず声を上げたのは、シシュルであった。そして、自らも自身を盾にすべくガラムの許へ駆け寄る。それに触発され、ゾアンの戦士たちも次々と飛び出してダライオスへと襲いかかった。

「雑魚どもが、小うるさいわっ!」

 しかし、そんな決死の特攻すらもダライオスは一蹴(いっしゅう)する。彼が斧槍を振るう度に、ゾアンの戦士たちは自らが噴き上げる鮮血で宙に弧を描き、大地を赤く染めて倒れていく。

 そうして同胞たちが時間を稼いでいる間に、シシュルは仰向けに横たわるガラムを助け起こす。

「《猛き牙》! 大族長! しっかりしてくださいっ!」

 シシュルに身体を揺さぶられ、ガラムは低くうめいた。

 直撃こそは避けていたが、それでもダライオスの斧槍による衝撃は今なおも鈍痛となってガラムの身体をしびれさせていた。

 しかし、それ以上にガラムを打ちのめしていたのは、ダライオスの言葉である。

 ダライオスが言うとおりだ。

 ガラムは、そう痛切に感じていた。

 自分には大将軍という決意も覚悟も足りていなかったのだ。心のどこかで蒼馬が言うとおりにみんなを動かしていれば良いだけ、と甘く見ていた。

 だからこそ、こうして軽々しくも敵将を討ち取ろうと前に出てきてしまったのだ。

 強敵と渡り合い、それで負けて果てても満足だと言うのは、平原最強の勇者ならば許されるだろう。

 だが、大将軍は全将兵の統率者であり代表でもある。そんな大将軍が敵に討ち取られれば全軍の士気はガタ落ちとなってしまう。指揮は乱れ、兵たちは混乱する。下手をすれば戦局すらも覆しかねない事態となるだろう。

 それでも大将軍が単身敵と戦おうと言うのならば、必勝を期さねばならない。少なくとも、それだけの覚悟と決意をもって当たらねばならなかったのだ。

 それなのに自分は、強敵への好奇心と興味だけで戦いに出てしまった。

 その結果が、これである。

 いまだに自分はソルビアント平原最強の勇者でしかなかったのだ。

 ガラムは強い悔恨(かいこん)の念に(さいな)まれた。

 そんな無様な自分と比べて、蒼馬とシェムルはどうだ、とガラムは思う。

 初めて見たときは、軟弱な人間のガキとしか思っていなかった蒼馬はソルビアント平原のすべてのゾアンを救い、平原を奪還するという快挙をなした。そればかりか、(またた)く間に他の種族の者たちまで率い、人間の国すら無視できない巨大な勢力を築き上げた。そして、今や自分らゾアンを滅亡させかけた強大なホルメア国すら飲み込み、さらに飛躍しようとさえしている。

 また、そのそばに常に付き従う妹のシェムルも同じだ。シェムルの戦士としての技量は、女戦士としては腕が立つ程度である。自分やズーグとでは、とうてい比較になりはしない。それを自覚しているシェムルは、戦士としてではなく蒼馬の右筆(ゆうひつ)として新たな道を見出していた。あれほど固執していた戦士の本道からは外れようとも、前へと進む蒼馬について行かんと努力しているのだ。

 そんなふたりに比べれば、自分は平原最強の勇者からまったく成長していなかったというしかない。

 シシュルの手を借りてガラムが打ちのめされた身体を起こせば、目に入るのはダライオスを必死に食い止めようとする者たちの姿だ。

 こんなふがいない自分を救おうと、数多くの者たちが必死にダライオスに挑みかかっている。その中には同じゾアンの同胞だけではなく、エルフや人間などの姿もあった。

 その光景にガラムは自分への怒りを覚えた。

 こんな名ばかりの大将軍でしかない自分を助けようと、あれほど多くの者たちが必死に戦っている。それなのに、立ち上がることすらできない自分のこのふがいなさは、何だというのだ。

 自分のふがいなさに歯がみするガラムの耳に、懐かしい声がよみがえる。

「男は失敗を悔いるな。悔いるとは後ろを向くことだ。男ならば失敗を背負い、前を向け」

 それは五年前に亡くなった父の言葉である。

 父のガルグズは、自分の子供を(さと)すときにやけに格好つけた物言いをする悪癖があった。その薫陶(くんとう)をまともに受けて育ってしまったのが、シェムルである。彼女の今を(かんがみ)みれば、父のガルグズがどのようなことを言い聞かせていたか想像できるだろう。

 そして、ガラムもまたシェムルほどではないが、その影響は受けていた。

「男がゴロゴロ寝ているな! みっともない! 何がなくとも胸を張って立っていろ!」

 再び耳によみがえる懐かしい父親の叱責に、ガラムは苦笑した。

「親父め。死んでも口うるさいのはなおらないな」

 いまだに膝が笑うのを押してガラムは立ち上がった。ふらつくガラムを心配してシシュルがその身体を支える。

「お下がりください、大族長!」

 そのシシュルに向けて、ガラムは食いしばった歯から小さく声を洩らす。

「……と呼ぶな」

 うめくように小さな声に、何を言われたかわからずシシュルは困惑する。そんなシシュルを突き飛ばすように押しのけ、ガラムは自らの足だけでしっかりと立つと、吠えるように言った。

「俺を大族長と呼ぶな! 俺は、大将軍だ!」

 例え名目上とはいえ大将軍となったのだ。それに命を懸けられずして、何が男だ。

 しかし、どうすればいい?

 自分には蒼馬やダリウスのように軍略を練り、兵馬を動かして勝利を引き寄せる才はない。しかし、武勇においてもジャハーンギルは言うに及ばず、あのダライオスにも劣る。

 かといって、逃げるわけにもいかない。一度はこうして戦いの場に出てしまい、ダライオスを相手に醜態を晒してしまったのだ。今さら尻尾を丸めて逃げ帰れば、自分が嘲笑されるのみならず、今戦っている者すべてがそんな情けない大将軍に率いられていると物笑いのタネにされるだろう。

 勝てる相手ではない。しかし、逃げられない。

 ならば、どうすればいい?

 自分に問いかけるガラムの耳に、再び父親の声がよみがえる。

「男とは、その拳と背中で語るものだ」

 その声に押されるようにして、ガラムは四つ足となって一気に駆け出した。

 そんなガラムの姿を見たダライオスは嘲笑を浮かべる。

「笑止っ!」

 怒りに我を忘れて無謀な突撃をかけてきたと見たダライオスは、それを粉砕してやろうと斧槍を構えた。

 再び山のように巨大になったダライオスが振るったその刃をガラムは交差させた山刀で受け止める。だが、その威力にまたもや吹き飛ばされてしまった。

 しかし、ガラムは宙で身体をひねって着地するや否や、再びダライオスに飛びかかる。

「しゃらくさいわっ!」

 振り抜いた斧槍を戻す間もなかったダライオスは、ガラムの突撃を前蹴りで迎え撃った。だが、ただの前蹴りと(あなど)るなかれ。自らの武勇を万軍に相当すると豪語するダライオスの蹴りは、それだけで胸甲の上から胸骨を粉砕する威力があるのだ。

 それをまともに食らったガラムは仰け反るようにして吹き飛ばされる。だが、それでもガラムは後転するかのように着地すると、またもやダライオスへと飛びかかった。

 ただそれしか知らないとでもいうように、ただ愚直にダライオスへと挑みかかるガラムに、味方から悲鳴のような声があがる。

「大族長! お下がりください! そいつは怪物です!」

 その声にガラムは、息をつく間もなくダライオスへと挑みかかっていた足を止める。

 そして、同胞たちに背中を向けたまま、その両腕を大きく広げた。

 しかし、それもほんのわずかな時間である。再びガラムはダライオスへと挑みかかっていった。

 斧槍で吹き飛ばされ、足で蹴り飛ばされ、体当たりで突き飛ばされ、それでもガラムは挑み続ける。

 そんなガラムの戦いぶりに、味方は困惑した。

 とうてい勝てる相手とは思えない。それなのに、なぜああして愚直に攻め続けるのか。

 そして、その直前に見せた行動。あたかも自分の背中を自分らに大きく見せるかのような仕草に、いったいどのような意味があったのか。

 ただ、何となくこう言われているような気がした。

 俺の背を見ろ、と。

 その無言の声に(うなが)されて目を向ければ、そこにあるのは自分よりも強大な敵にも(ひる)まず戦う男の背である。仲間のために道を切り開こうとする男の背である。たとえ無謀であると言われようとも、ただ愚直に前へと突き進もうとする男の背だ。

 皆は、思わず拳を握った。

 そして、我知らず咽喉から声がほとばしる。

「「おおおおおー!」」

 その熱気をはらんだ声を背中に受け、さらにダライオスへ激しく挑みかかるガラムは自分を叱咤する。

 負けてなるものか!

 戦という強大な獣の首を押さえ込み御するのが、実際の腕力に直結するなど妄言に過ぎない。単騎で大軍を迎え撃つ気概のみで強くなれるはずがないのだ。

 もしそうであれば、敵味方数万を(あざむ)き、翻弄(ほんろう)した蒼馬がとてつもない怪力の持ち主となってしまう。寸鉄も帯びず落とされた世界で、大国を相手に戦をしようという蒼馬が最強の男になってしまう。

 だが、実際にはそのようなことはありはしない。

 ようは、自負と気迫である。

 ダライオスの自らが数万の将兵を従える大将軍であるという絶大なる自負。それが自己暗示のようになり、彼に肉体の限界を超えた力を発揮させているのだ。

 また、その自負がもたらす圧倒的な気迫。それが、知らず知らずのうちに敵を萎縮(いしゅく)させ、その本来の力を発揮できなくさせているのである。

 しかし、それにガラムは真っ向から挑む。

 そのガラムの勢いに、これは小手先の技では倒せないと判断したダライオスは一際大きく斧槍を振りかぶる。

「大将軍の渾身の一撃を食らわしてくれん!」

 大きく横薙ぎに振るわれたダライオスの斧槍をガラムは避けない。両手の山刀を交差させて、あえてそれを受け止めた。またもやガラムの身体は斧槍の威力を受けきれずに撥ね飛ばされそうになる。だが、ガラムは大地を踏み締める足の爪を立てて、それを何とかしのいだ。

 ガラムは、牙を剥いてニイッと笑う。

 自分が受け止めた斧槍を握るダライオスの身体は、巨漢だが決して先程までのあり得ない大きさではなくなっていた。

 自慢の斧槍の一撃を受け止められたのには、ダライオスも驚いていた。

 直撃を避けて受け流したのでも、弾いたのでも、よけたのでもない。自分の渾身の一撃を真っ向から受け止めたのである。このようなまねをした敵は、ダライオスの長い戦歴の中でも片方だけとなった腕の指だけで数えられるほどしかいない。大将軍を拝命してからとなれば皆無である。

 そして、それにもまして驚嘆すべきは、自分の威を真っ向から撥ね除ける胆力。それどころか、逆にこちらを圧倒しようといわんばかりの気迫がゾアンの身体から噴き上がっていた。

 ゾアンの外見からその年齢を推し量るのは困難だが、その身のこなしを見ればかなり若いゾアンのようだ。

 化けおったか!

 ダライオスは目を見張った。

 いまだ成長途中である若い者の中には、何かをきっかけにし、まるで人が変わったかのように著しい成長と変化を遂げる者がいる。だが、まさかその瞬間をこの目にしようとは、ダライオスにとっても初めての経験であった。それが今まさに刃を交えている敵とはいえ、ダライオスは深い賛嘆の念を抱かずにはいられない。 

「若造め! 斬り落とされたその首につける名札が空白では寂しかろう。名を名乗れ!」

 ダライオスの問いに、ガラムは受け止めた斧槍を弾き飛ばしながら答える。

「ゾアン十二氏族がひとつ〈牙の氏族〉ガルグズの息子ガラム! 字は《猛き牙》!」

 ガラムはすうっと息を吸うと、それを決意とともに声として咽喉からほとばしらせる。

「そして、ソーマの軍の大将軍なり!」

 ダライオスはしばし目を見張り、それからニイッと笑った。

「その意気や良し! ガラムとやら、その首をこの私の武勲のひとつとしてくれん!」

 ダライオスはその長大な斧槍をまるで小枝のように振り回してガラムに襲いかかった。

「みんな、下がれ-!」

 ふたりのあまりの激しい戦いぶりに、バヌカはみんなを下がらせた。縦横無尽に長大な斧槍を振り回すダライオスに、それをかわすために激しく跳び回るガラム。下手に近寄ろうものならば、ふたりの戦いに巻き込まれかねなかった。

 その戦いは先程までの圧倒的な差はなくなっていた。

 だが、いまだ形勢はガラムが不利である。ダライオスの気迫を跳ね返したものの、何しろ互いの武器の間合いが圧倒的に違うのだ。そればかりは気迫だけでは埋めようがない。

 それでもガラムはダライオスの斧槍の刃をかわし、ときには山刀でいなしながら、ジリジリと間合いを詰めていく。

 それにさしものダライオスも苛立つ。

「ちょこまかと動き回るその足を切り落としてくれるわっ!」

 足を払うかのように振るわれたダライオスの斧槍をガラムは真上に跳んでかわした。

 斧槍を振り抜いたダライオスが見上げる前で、人の背丈ほども高く跳んだガラムの身体が、空中で前転するかのようにぐるりと回転する。そして、その遠心力と全体重を乗せて、ガラムは両手に持った山刀をダライオスの両の首筋目がけて振り下ろした。

 激しい金属音がほとばしり、火花が散る。

 すんでのところで力任せに引き上げられた斧槍の柄につけられた金具がガラムの山刀を食い止めていた。

 地面に降り立ったガラムは再び間合いを取られてはならじと詰め寄る。つばぜり合いのように噛み合ったダライオスの斧槍の柄と山刀が火花を散らす。

 斧槍の柄と山刀を間に挟み、しばしふたりは睨み合った。

 そのふたりの対峙(たいじ)に分け入ったのは、ロマニア国軍側から飛んだ声である。

「ダライオス大将軍閣下! 準備が整いました!」

 後ろから聞こえた部下の声に、ダライオスは大きな気合いを上げてガラムを渾身の力を込めて突き飛ばした。牛の頭突きを正面から受けたような衝撃とともに、ガラムの身体が後方に撥ね飛ばされる。

 しかし、平原最強の勇者の名は伊達ではない。空中でくるりと一回転すると、猫のような軽さで両足から地面に降りた。そして、間髪を容れずにダライオスへ飛びかかろうとする。

 ところが、その出鼻をくじくように、ダライオスは何と斧槍を投げつけた。

 この思わぬ攻撃に、ガラムはたたらを踏む。その足許に投げられた斧槍は突き立ち、その威力の大きさを示すように柄が細かく震えていた。

 自分の唯一の武器を投げつけ、どうするつもりだと目を見張るガラムに、ダライオスは大声を張り上げる。

「若造! その斧槍を預けておこう! もう少し精進しておけ!」

 そう言うなりダライオスは背中を向けると、外套(マント)(ひろがえ)して走り去る。

 これにはガラムも驚いた。

 これほど武勇に優れた男が、何のためらいもなく逃げに打つとは思いもしなかったことである。

「逃げるのか! ロマニア国軍を代表する大将軍が、敵に背を見せるのかっ?!」

 ダライオスを逃がすまいと、ガラムは挑発した。

 それに防壁の向こう側に入りかけていたダライオスは足を止めると、ガラムへと向きなおる。

「若造。大将軍の先達(せんだつ)として、ひとつ教示してやろう」

 ダライオスは、ニカッと笑った。

「それも、時と場合による!」

 そして、大きな笑い声を上げたのである。

 これには一瞬唖然としたガラムだったが、すぐに後を追おうとした。だが、ダライオスがその片腕をサッと振り上げると、防塞から火の手があがった。事前に油でも撒いてあったのか、その火の手は一気に燃え広がり、瞬く間に防塞全体が炎に包まれた。

「うははははっ! どこぞの誰かのおかげで、私は負け戦で逃げるのだけは得意でな! せっかく勝利し、すべてが掴めると思っていた奴の手のひらから抜け出してやるときの楽しさは格別よ!」

 噴き上がる炎の向こう側から聞こえるダライオスの哄笑に、ガラムは歯ぎしりをする。

「ハーピュアンを呼べ! 急いで迂回路を探させ、追撃しろ!」

 そう指示しながらも、ガラム自身はすでに無駄だろうと思っていた。すぐに迂回できるような道があれば、そもそもここで殿軍と睨み合っていない。また、それだからこそダライオスはここで踏ん張り、ひとりでも多くの敵軍をここに拘束していたのだろう。

 ロマニア国軍に致命傷を与えられぬまま逃がしてしまった。

 せっかくの好機を自らの失態で取り逃してしまったことに、ガラムはギリギリと歯がみをする。

 そして、そのままバタリッと倒れた。

「《猛き牙》!」

 シシュルの悲鳴のような声を聞きながら、ガラムは気を失ってしまった。


                    ◆◇◆◇◆


「閣下、馬をお持ちしました」

 防塞に火を放って追撃を食い止めたのを確認したダライオスへ若い従者が彼の愛馬の手綱を引いてやってきた。

 それに小さく「うむ」と答えたダライオスは、その片腕を馬の鞍にかけると、ひと息に自分の身体を馬上へと引き上げる。それから、従者が差し出した手綱を受け取ろうとした。

 ところが、その手から手綱がスルリッとこぼれ落ちる。

「閣下……!」

 それに若い従者は血相を変えた。

 子供の頃から大将軍に仕えてきた彼は、ダライオスが人間を超えた力を発揮する代償として、戦いが終えた後に激しい疲労と苦痛に襲われているのを知っていた。しかし、それでもこれまで手渡された手綱を取りこぼすようなことはなかったのだ。

 それにダライオスは「騒ぐな」と小さく叱責した。それから改めて差し出された手綱を取ると、馬を走らせる。

 揺れる馬上で、今さらながら手足をもがれるような激しい痛みと馬の背で突っ伏してしまいたくなるような倦怠感に耐えながら、ダライオスの意識は右手に注がれていた。

「若造めが……」

 先程の黒毛のゾアンの戦士の姿を思い起こし、ダライオスは笑う。

「ダリウスに逃げられ、もはや私の遊び相手はおらんと思っておったが、なんのなんの」

 最後のガラムの強烈な一撃を受けて、今さら痺れを訴える手をダライオスはぎゅっと握った。

「いまだこの世は、強き者たちがあふれておるわ」

 敗走する軍の大将軍の口から洩れたとは思えぬ、底抜けに明るい笑い声が上がった。


                    ◆◇◆◇◆


 ガラムとダライオスが激しく刃を交えていた頃、負傷した父王を連れ、敗走する友軍より一足早くカリレヤ平野をひた走っていたピアータは声を張り上げた。

「止まれーっ!」

 それに彼女に率いられた百華隊の勇士たちは土煙を立てさせながら馬を止めた。

 自身も手綱を引いて愛馬を止めたピアータの脇に、乳姉妹でもある副官のデメトリアが馬を寄せる。

「姫殿下。いかがなされました?」

 それにピアータは前を指差して言う。

「街道が二手に分かれている」

 ピアータが言うように街道は少し先で二股に分かれていた。すぐさまデメトリアは従兵から地図を受け取ると馬上でそれを広げる。

「左に行けば、ガッツェンの街。右は、やや遠回りになりますがマサルカ関門砦へ直接向かう道のようです」

 デメトリアの答えに、ピアータは「そうか」と短く答えた。

 このとき、ピアータは知らない。

 ここが彼女ばかりかロマニア国にとっても、ひとつの分岐点であったことを。

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