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神を喰らって神剣になった私と冷徹な死神~妹に裏切られ神の贄にされた令嬢は帝都の軍人に溺愛される~  作者: あさづき ゆう
第二章 役割

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初仕事

 穏やかな時間を過ごしていると、狭間がやってくる。


「あ、こんなところでいちゃついていたんだ。探したよ」

「いちゃついていない。何の用だ」


 真人が不機嫌に否定する。談話室にいる隊員たちの生ぬるい眼差しに、結衣もさすがにいたたまれなくなった。つい、視線が落ちる。


「実は、結衣の仕事が決まりました! もちろん帝からの直接与えられた、名誉ある仕事です! ハイ拍手!」

「却下だ」


 それをぶった切ったのが、不機嫌な顔をした真人だ。結衣は呆気に取られて、座ったまま二人の顔を交互に見る。


「ははは、何を言っているのかな? そもそも、彼女が神剣と同化してしまったのは真人のせい。そして、神剣と同化してしまった以上、彼女が真人と一緒に仕事をするのは必須。理解したかな?」


 狭間はやれやれと言わんばかりに首を左右に振る。真人は無表情に一言、放った。


「必要ない」


 二人は再び、にらみ合いながら激しく応酬する。それを見ていた使用人たちはこっそりと目配せをした。そして、どうしていいかわからずおろおろしている結衣の袖を少し引っ張る。


「結衣さん、これはここから逃げたほうが得策です。絶対に巻き込まれますって」

「え、でも。私の仕事について話しているのよね? 放置しちゃダメなんじゃないかしら?」


 横目で二人のやり合いを見つつ、小声で返事をした。隊員たちは困った様子で首を傾げる。


「そうかもしれませんが……この二人の間に割り込めます?」


 そう言われて、二人へと視線を戻す。口が達者な狭間に、真人が手を出そうとしていた。もちろん、本気のやりあいじゃない。本人たちにしたら、じゃれあっている程度だろう。ただ、こういう力のぶつかり合いなど縁のない結衣にしたら十分に脅威だった。


「無理じゃないかも」

「はい? 結衣さん?」


 結衣は手に持っていた縫物を机に置くと、静かに二人の間に割り込んだ。真人の手がぴたりと止まる。狭間はぽかんとした顔で結衣を見つめた。


「――何している。危ないじゃないか」

「危なくないわ、だって、真人、止まったじゃない」

「そういう問題じゃない」


 不機嫌な真人が苛立たしげに、自分の髪をぐしゃりとかきまぜた。


「うん、止めてくれてありがとう! それで、さっきも言ったけど、仕事が決まったんだよね。帝から指示されているから、断れない案件だよ」

「それ、いつですか?」


 自分に与えられた仕事はしなくてはいけないと思っていたため、素直に尋ねる。狭間はにこりと笑った。


「今から」

「え? この後ってこと?」


 呆気に取られて確認すれば、頷かれた。


「俺は承知していない」

「納得していないのはわかっているけどね。ここで少し従順な様子を見せておかないと、取り上げられてしまうよ?」


 狭間が笑みを消して、忠告した。真人もそれはわかっているのか、むっとしたまま口を閉ざす。結衣は二人の会話からなんとなく事情を察した。


「難しくないよ。ちょっとしたお使い程度の仕事だから。ただ……結衣には神剣となるべく努力してほしいかな」


 結衣は困ったように首を傾げた。


「どうやればいいの? 調べてくれるんじゃなかったの?」

「それが、調べてもちっともわからなかったんだ!」


 どうだ、と言わんばかりに胸を張られた。思ってもいなかった話に、驚きに目を見張る。


「前に、前例があるって」

「成功した事例はあるんだが、神剣・屠神の器になった人はそれほど長く生きていなくてねぇ。神剣の役割は努められなかったんだそうだよ。つまり」


 彼は大げさな舞台役者のように、もったいぶった様子でびしっと人差し指を結衣に突きつける。結衣は目を丸くして、そんな彼を見ていた。


「結衣は唯一の成功例、そう、奇跡だ!」

「うるさい。奇跡でもなんでもない。勝手に持ち上げるな」


 すっかり狭間の勢いに飲まれていた結衣は真人の声で我に返った。


「ええ、駄目? 結構いい感じだと思うんだ。これで奇跡だから、真人にしか扱えないってことで推し進めているんだけど。それぐらい大変なことだってしておかないとさ」


 狭間がそこで言葉を切った。そして、目を細めて、結衣を見つめる。その目は先ほどまでの明るさや親しさは全くない。底知れぬ冷たさに、結衣は体を震わせた。


「実験材料にされてしまうからね。人じゃないとわかった時の彼ら、すごく扱い方が雑になるからね。それに、神剣、どこにあるのかなって。不思議に思わない?」


 狭間は凍り付く結衣の喉にとんと指を立てた。指はすっとしたに向かって動く。それだけで、彼らがどのようなことをする集団化が嫌でもわかってしまう。


「……わかった、行ってくる」


 狭間の手を叩き落とすと、結衣の手を乱暴につかんだ。


「ご理解、ありがとうございますー! あ、これ、神剣の代わり。それと、連絡入れておくから、帝都の門から出た先に案内人に詳細は聞いてほしい。彼女に対して態度が悪いと思うけど、あれが普通だから、キレるんじゃないぞ」


 一気に説明しながら狭間はすぐに持っていた刀を真人に押し付ける。結衣が神剣としての役割を果たせればいいのだろうが、まだできない。そもそもどうやったらいいのかすら、わかっていなかった。

 その戸惑いが真人にも伝わってしまったのか、真人は狭間に応えることなく、大股で歩き始めた。結衣は小走りに彼の後を追いながら、ちらりと振り返る。こちらを見ていた狭間と目が合うと、彼はいつもの調子のいい顔をして口の動きだけで心配ない、と伝えてきた。

 無言で進む真人の後に続きながら、結衣は握られている手を少し引いた。真人の足が止まる。


「ねえ、真人、怒っているの?」

「怒っていない」


 そう言いながらも、くっきりと眉間にしわが寄っていた。結衣はちょっと笑ってしまう。冷酷そうに見えるのに、結衣に対してはひどく過保護だ。その感情が何からきているのかはわからないが、その過保護さが今の結衣にはとてもありがたかった。自分がまだ人として扱われているように感じられる。


「そういうのを怒っているというのよ。狭間さんだって無理難題を言っているわけではないのに」

「――違う。自分が不甲斐ないだけだ」


 いつもなら聞くことのない自分を責める言葉に、結衣は笑みを消した。表情をちゃんと見ようと、真人を下からのぞき込む。普段なら見えない感情の揺らぎがその目に浮かんでいた。


「気にしなくていいのに。あの時はあれが最善だったでしょう?」

「後悔しているわけじゃない。ただ、俺のペースに割り込まれるのが不快だし、それを止められないことが腹立たしい」


 どうやら怒りの矛先は、仕事を与えてきた帝に向けられているようだった。結衣はどこまで踏み込もうと悩んだが、とりえあず名前しか知らない帝について聞くことにした。


「……真人の上司、どんな人?」


 そう聞いただけで、真人の顔から表情が抜けた。それは初めて会った時と同じ、感情の見えない彼だった。


(あら、あまり好ましくない人なのかしら?)


 そう判断してしまうほどの反応に、結衣は戸惑った。


「行くぞ」


 結衣の問いには答えず、真人は再び歩き始めた。


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