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神を喰らって神剣になった私と冷徹な死神~妹に裏切られ神の贄にされた令嬢は帝都の軍人に溺愛される~  作者: あさづき ゆう
第三章 結衣の変化

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旧三条家の異変

 三条家の領地までは比較的平たんな道のりで、馬で移動しやすい。だが、早駆けで進んでも帝都から片道三日はかかる距離にある。真人は少しでも早く帝都に戻るために、愛馬に鞭を入れ、いくつもの町や村を駆け抜けた。


「隊長、ちょっと飛ばしすぎです。無理に走らせたら、帰りは大変なことになりますよ」


 無茶苦茶な走りに並走しながら、浅羽の声が風に乗って届く。ちらりと真人は浅羽を見やる。


「あともう少しだけだ。山の麓に入れば、嫌でも速度を落とすことになる」

「そんな無茶な。少し落ち着いてくださいよ」


 浅羽は呆れたようにため息をついた。


「そんなに連れてくるのが嫌ですかね? 結衣さん、絶対に怒っていますよ」

「怒らせておけばいい。連れてくるよりはましだ」

「そんなこと言って。泣かれたらどうするんです?」


 真人が眉間にしわを寄せて浅羽を睨んだ。彼は馬を操りながら器用に肩をすくめる。


「余計なことはもう言いませんよ。ですが、正直、神剣なしでどうするんですか?」

「あの地に残っていたとしても、荒神の残骸だ。それならば、代わりの剣で十分だ」


 そう言って、自分の腰にある剣に視線を向けた。浅羽は歯切れ悪く同意する。


「まあ、悪い剣じゃないとは思いますけど」


 何か言いたそうに真人を見るが、彼はその視線を無視した。しばらく無言で馬を走らせると、遠くに立派な屋敷が見えてくる。


「ああ、見えてきたな」


 馬の速度を下げ、ゆっくりと近づいた。屋敷の門のところで、馬から降りる。数カ月前には洗練され客人を招いていたであろう数寄屋門は朽ちて、屋根が中央から陥没し、崩れ落ちている。門扉は壊れ、半分開いていた。真人はその扉を押し開くと、さっさと敷地内へと入っていった。


「うあー、なんかすごい嫌な空気ですね」


 浅羽が後ろを歩きながら、周囲をうかがう。いつもと変わらぬ口調であるが、ひどく警戒していた。

 三条家の継承が失敗し、神が変質した。前当主は死に、後継者であった長男は恐慌状態に陥った。


(あの時、冷静になればもしかしたら)


 そこまで考えて、真人は首を左右に振った。この家の神が狂わされること、そしてその狂った神を屠ることはすでに決まっていた。だから、事前に真人が派遣されたのだ。確実に仕留めるために。


「何度見ても悲惨なものですね。まだ半年ほどしか経っていないのに……すっかり廃墟だ」


 そこはすでに神がおらず、空気が重苦しい。浅羽が荒れ果てた屋敷を見つめ、憂鬱そうにため息を漏らす。


「監視はすでに解除されていたな?」

「そうですね。一カ月前に監視は終わっています。それまでは特にこれといった変化は報告されていませんね」


 浅羽が懐から資料を取り出し、さっと視線を走らせた。


「変化なし?」

「ええ。今回のことは、定期巡回で異常が見つかったみたいです」

「定期巡回か。監視が外れてから荒神が手に負えないほど変質したということか?」


 不可解そうに呟くと、浅羽も頷いた。


「そう報告されていますけど、隊長が処理したのにそんなことあるんですかね?」

「確認しないとわからないが……屠神の力だけでは消滅できない要素があったのかもしれない」


 そう言って、真人は敷地へと足を踏み入れた。そして、目を瞑り神経を研ぎ澄ます。急激に外の音が消え、音ではない音を拾い始める。神力を薄く広げれば、異常のある場所が歪む。真人は目を開けると、それを目指して歩き始めた。浅羽が驚いて、真人を引き留める。


「隊長、儀式を行った祠はこっちですよ」

「そこは空だ。異常はあっちから感じる」


 浅羽が驚いた顔で真人の指さす方を見た。


「ええ? ちょっと待ってください。今、確認します」


 資料をめくり、屋敷の間取り図を広げる。


「隊長が行こうとしている場所は――ああ、ここだ。離れですね。どうやら、次男夫婦が住んでいたみたいです」

「次男夫婦?」

「儀式失敗の後、行方不明ですね。ひとり、子どもがいたみたいですけど……」


 情報を読み上げていた浅羽が不審そうに眉を寄せた。


「あれ? おかしいな」

「どうした」

「いえ、俺の記憶だと、三条一族は全員、死亡しているはずなんですよ。行方不明なんて当時の情報ではなかったような?」


 浅羽が首をひねり、考え込む。


「考えるのは後だ。離れに異常があるのは間違いない。行くぞ」

「あ、待ってください!」


 言葉少なに断言して、再び歩き始めた。浅羽は資料を懐にしまい、その後を追った。壊れた床、崩れている灯篭などを見ながら、母屋の裏手へ向かった。三条家の屋敷は一般的な屋敷と同じで、母屋と離れは渡り廊下で繋がっていた。その渡り廊下へと足を踏み入れて二人は立ち止まる。


「おかしい」

「そうですね、ここだけ荒れていない」


 他は廃墟と言ってもおかしくないほど朽ちているのに、ここだけは何事もなかったかのようだ。今にも離れの玄関が開き、客人を招き入れるのではないかと思えるほど、静かで本来の姿のままだった。二人は顔を見合わせ、ゆっくりと玄関へと向かう。

 真人は刀の柄に手をかけ、玄関を開け放った。

 その瞬間、何かが飛び出してくる。真人は反射的にそれを斬り捨てた。どしゃりと水っぽい音を鳴らして、それが地面に落ちる。


「うわっ! なんですか、これ!」


 浅羽も刀を抜き、襲ってくる丸い白い何かを斬り捨てた。ぶしゃっと中の液体が飛び、浅羽は顔を歪めた。


「荒神が変化したものだろうな。こんなもの、初めて見た」


 冷静に観察しつつ、真人は飛びかかってくるそれを次々に切り捨てていく。


「くそ、力がのらない」


 代替品の刀は神剣を使う前によく使っていたものだ。だから使えないはずはなかった。だが、真人の神力は強くなっているのか、うまく乗せることができない。


「だから、言ったじゃないですか!」

「うるさい、集中しろ。次が来る!」


 ぶつぶつと文句を言う浅羽に真人が声を荒げた。浅羽はうわっと声をあげながらも、襲い掛かるものを処理する。


「しかし気持ち悪いですね、一体どのぐらいあるんですかね」

「あの奥にあるモノが元凶だろう」


 真人が離れの奥に進みながら、ちらりと視線を向けた。浅羽もそちらを見て、頷いた。


「そうみたいです。隊長、やれるんですか?」

「やるしかないだろう。しばらくの間、ひきつけてくれ」

「了解」


 浅羽は短く答えると、真人の前に躍り出た。先ほどよりも鋭く浅羽の刀が閃く。その間に真人は目を伏せ、神力を高めようと集中した。その瞬間、何かが真人の神経に触った。反射的に顔を上げれば、そこに結衣がいる感覚を覚える。


(なんだ、これは?)


 認識した途端、一気に神力が逆流した。それはいつも屠神をふるうときに感じる力の塊。

 つながったと理解したのと同時に、真人の持つ刀が淡く輝き震えた。いつものように刀を振るう。刀に乗った神力は余すことなく大きな白い塊に叩きつけられた。それは、耐えきれず大きな音を立てて破裂した。

 真人は手を緩めることなく、そのまま最後まで叩きつける。大きな塊が真っ二つに割れたところで、手元からぱきりと乾いた音がした。


「隊長!」


 折れた刀の刃が弾かれ、真人の右腕を切り裂いた。赤い血が飛び散る。


「清めたまえ、清めたまえ。不浄なるもの、理に反するもの、滅したまえ」


 呪文を唱えると、異形はすべて燃えた。それを確認してから、力を抜く。浅羽が近づくと、慣れた手つきで怪我をした右腕の止血をする。


「何しているんですか。神剣と同じように神力を流すから折れるんです」

「……同じようにしたつもりはないんだが。斬ったものが悪かっただけだ」

「そういうことにしておきましょうか。じゃあ、他の調査もさっさとしてしまいましょうか」


 特に文句も内容で、浅羽は肩をすくめると他に異常がないか確認を始めた。同じように真人も動き出す。だが、先ほどの屠神がそばにいるような感覚はいつまでも抜けなかった。


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