追放少女とダンジョン
はるか昔、この地には魔王が君臨していた。
邪悪なる力で数多の魔物を従え、人間たちを蹂躙していたという。
だが、勇者とその仲間たちによって魔王は討たれ、地上には再び平和が訪れた。
――ただし、魔王の本拠地であった地下迷宮だけは、未だに完全には消えなかった。
そのダンジョンは今もなお、底知れぬ魔力を放ち、内部構成を変形させ、無限に魔物を生み出し続けている。
もし放置すれば、いずれ地上にあふれ出し、再び災厄をもたらすだろう。
当初、王国は軍隊を派遣してダンジョンの制圧を試みた。
だが、狭く入り組んだ通路では大規模な軍勢の運用は困難だった。
何より、魔物たちの数はあまりにも膨大だった。
そこで王は決断した。
ダンジョンの門前に街を築き、民間から「冒険者」を募ることを。
モンスターを倒し、素材を持ち帰れば報酬を得られる。
その報酬で暮らし、またダンジョンに挑む。
素材は武器や防具だけでなく、生活必需品にも広く利用され、街の経済を支えた。
こうしてダンジョンと街は、持ちつ持たれつの関係で繁栄していったのだった。
「……まあ、そういうわけでね」
ダンジョンの入り口に立ち、凪咲は隣のミナに言った。
「私みたいに、戦うことしかできない人間には、ここで生きるしかないってわけ」
「ふーん、人間もたいへん、なんだね……」
ミナは小さく首をかしげながらも、真剣に聞いていた。
眼前にそびえるダンジョンの入口は、古びた石造りだった。
壁に設置された明かりは魔王の死後もダンジョンを照らし続けている。
重厚なアーチがぽっかりと開き、内部からは微かに冷たく乾いた空気が漂ってくる。
その空気を、ミナはすぅっと鼻で吸い込むと――
「……なつかしい匂い」
ぽつりと呟いた。
凪咲は驚いてミナを見た。
「懐かしい? ここに来たことがあるの?」
「わかんない、でも、なんか、からだが覚えてる気がする」
ミナは自分の小さな胸に手を当て、不安そうに首を傾げた。
(……スライムって、もしかしてこのダンジョンから生まれた存在なのかもしれない)
凪咲はそんなことをぼんやりと思った。
ミナが持つ、どこか人ならざる感覚。
それは、こうしたダンジョンの魔力と無関係ではないのかもしれない。
「でも……いまは、おねえちゃんといっしょ、こわくない!」
ミナは笑って、凪咲の手をきゅっと握った。
その手は、小さく、そしてほんのり温かかった。
凪咲は微笑み返して、ダンジョンへの一歩を踏み出す。
「よし、行こう、ミナ」
「うんっ!」
こうして、"姉妹"は初めてのダンジョン探索へと足を踏み入れたのだった。




