追放少女と訓練
名前をもらったスライム――いまや「ミナ」と呼ばれる彼女は、嬉しさを隠しきれない様子だった。
ぴょんぴょん跳ね回りながら、「ミナ! ミナ!」と何度も自分の名前を口にしている。
凪咲はそんなミナを見ながら、小さく笑った。
「さて、そろそろ訓練所へ行こうか」
「くんれんじょ?」
「うん、君がどれくらい戦えるか、ちゃんと知っておきたいんだ。ダンジョンでいきなり実戦、なんて危ないからね」
ミナはぴたっと跳ねるのをやめると、きらきらした瞳でうなずいた。
興味津々のようだ。
ミナを連れ町はずれの訓練所に向かう。
この場は冒険者と軍属の物に開放されている施設だ。
訓練所の受付に向かうと、顔見知りの係員にじろじろと見られた。
「ええと……お二人、そっくりですね?」
一瞬、凪咲は言葉に詰まった。
どう説明すればいいか。
とっさに、口から出たのは。
「い、妹です!」
係員は「なるほど」と納得した様子で手続きを進めた。
その横で、ミナは顔を輝かせていた。
「いもうと、なぎさの、いもうと!」
小さく呟きながら、何度も胸の前で手をぎゅっと握りしめている。
それから、恥ずかしげに、でも嬉しそうに凪咲に寄り添った。
「おねえちゃん……!」
「……!?」
凪咲は顔を赤くしながらも、ぐっと耐えた。
今更否定するわけにもいかない。
それに――ちょっとだけ、悪くない気持ちだった。
訓練場の個室に案内されると、二人は対面して立った。
「じゃあ、試しに攻撃してきて」
「うん、まかせて、おねえちゃん!」
ミナは元気よく答えると、ぐぐぐっと腕を振りかぶり――そのまま、突進。
ぽふっ。
体当たり。
それは、赤子の頭突き程度の衝撃だった。
「うん……痛くない」
「えへへ、すごいでしょ!」
満面の笑みで誇らしげなミナ。
だが、戦力として考えると、かなり心許ない。
さらにスライム形態になって覆いかぶさる戦法も試してみたが、凪咲が本気で動くと、あっけなく弾き飛ばされた。
「ぶぇぇぇん……」
壁にぺたりと張り付いたミナが、泣きそうな顔をしている。
「だ、大丈夫!?」
「うん……だいじょうぶ……」
スライムらしく、ミナはすぐに身体を集めて元の姿に戻った。
それだけは本当にすごい。
続いて防御性能も試してみた。
壁から訓練用の火矢が放たれると、ミナは瞬時にスライム形態になり、自ら凪咲を覆う。
炎が直撃しても、ミナの身体は一切ダメージを受けなかった。
そして、凪咲も無傷だった。
「すごい!」
「えっへん!」
ミナは得意げに胸を張った。
結論。
攻撃力はほぼ皆無。
だが、防御性能は驚異的。
特に炎属性には絶対的な耐性を持つ。
凪咲はメモを取りながら、うんうんとうなずいた。
「ミナは守りの達人ってことだね」
「たつじん!」
褒められたミナは、また嬉しそうに跳ね回った。
戦力としてはまだまだだけど、彼女には彼女なりの強みがある。
それが分かっただけでも、今日は大収穫だった。




