追放少女と限界
斬って、斬って、斬って、斬った。
足元には、無数の魔物の骸。
歩くたびに、粘つく血液が靴裏にまとわりつく。
落下してから何時間経過したか、把握はできていないが。
疲労は、澱のように蓄積していた。
それでも。
(まだ……進まなきゃ)
その意思だけを頼りに、凪咲は刀を振るい続けた。
途中、わずかに生き延びた精鋭冒険者たちと遭遇することもあった。
情報交換をした後、彼らは彼女の疲弊した様子を案じたが、凪咲は首を振りすぐに別れた。
1人で戦う必要があった。
多分それだけが自分の存在意義だから。
多分それだけが誰も傷つけない方法だから。
巨大蝙蝠を切り伏せ、硬い甲殻を持つ蟹型のモンスターを両断した瞬間。
「パキン」
鋭い音とともに、愛用の刀がへし折れた。
(……師匠に怒られるな)
そんな場違いな思考が、ぼんやりと頭を過ぎる。
無意識のまま動きすぐに近くで倒れていた冒険者の剣を拾う。
だが、手に馴染まない。
東方で鍛えられた「刀」と、王国の「剣」は全く異なる。
刀身の反り、重心の位置、刃の感覚――すべてが違った。
それでも、凪咲は作業のように剣を振った。
振らなければ、いけない。
斬らなければいけない。
それだけが。
「おねえちゃん!」
ミナの声で、ようやく自分が植物型の魔物が自分に噛みつかれようとしていたことに気づき、倒れるようにして回避。
身を伏せた状態のまま、一瞬でそれを斬り倒す。
(まずい)
思考が鈍い。
手足が重い。
視界がぐにゃりと歪む。
軽い傷ならポーションで塞げる。
だが、失った血液は、戻らない。
何度も戦い、何度も裂かれ、流した血が、確実に彼女を蝕んでいた。
「……まだ」
自らの頬を叩き、気合を入れる。
だが、その意志も空しく、一歩踏み出すと同時に凪咲は崩れるように地面に倒れた。
ぼんやりとした意識の中で。
「おねえちゃん、だいじょうぶ、だいじょうぶだからね!」
ミナが、ぐにゃりとした体で必死に凪咲を引きずっているのが見えた。
細い腕で、懸命に。
自分よりずっと小さな存在が、必死に助けようとしている。
(……ミナ……)
後ろから、魔物たちの足音が迫る。
このままでは追いつかれ、ふたりとも喰い尽くされるだろう。
凪咲は、力を振り絞り、かすれた声で告げた。
「……ミナ……いいから……逃げて……」
「やだっ」
ミナは泣きながら、凪咲を引きずり続けた。
(せめて、この子だけでも)
そんな願いを最後に、凪咲の意識は、闇に沈んでいった。
最後にこんな声が聞こえた。
「大丈夫だから、おねえちゃん」
その声は不思議と安らかだった。




