追放少女と絶命者
ミミズたちの卵をすべて斬り捨てた後も、凪咲とミナの進撃は止まらなかった。
行く手を阻む魔物は、ただの一太刀で地に伏した。
剣の振りは鋭く、刃の軌跡を目で追うことすら困難だった。
ミナもまた、凪咲の身体を覆い、飛来する毒針や牙の大半を防いでいた。
多数のモンスターにか囲まれ小さな傷を負うこともあったが、多少の傷であれば手持ちのポーションで治療できる。
ふたりの呼吸は完全に揃い、まるで一つの生き物のようにダンジョンを進む。
そんな中。
「ミナ、あれ」
凪咲が指さした先、
湿った石床に、赤黒く染まった血痕が点々と続いていた。
ミナはふにゅりと身体を伸ばし、匂いを嗅ぐ。
「……しってるひとの、におい」
迷わず、凪咲たちは血の跡を追った。
やがて辿り着いたのは、崩れかけた小さな広間だった。
そこには、モンスターたちの死骸が無惨に散乱していた。
一体一体、手練れの技で倒されている。
そしてその片隅に。
まるで眠るように寄り添って、二人の少女が倒れていた。
細い身体を血と泥に汚しながらも、顔だけは不思議なほど綺麗なままだった。
凪咲は彼女たちに見覚えがあった。
双子の精鋭冒険者。
リィナとリセだ。
何度か街で、そして訓練場で姿を見たことがある。
(戦ったんだ……最後まで、ここで)
ふたりはきっと、背中を預け合い、命の限り戦い抜き、
そして、共に息絶えたのだ。
凪咲は無言で膝をついた。
「おねえちゃん……?」
ミナが心配そうに寄ってくる。
(……弔ってあげたいけど……今は)
今は、時間がない。
立ち止まっている間にも、地上の街は危機に瀕しているかもしれない。
それでも。
放っていくことなど、できなかった。
凪咲は鞄の中から、一本だけ持っていた魔物避けの光石を取り出した。
ほのかに温かい、微かな光を放つ石。
これを置いておけば、低ランクの魔物はここに近づかない。
せめて、死体が穢されることだけは防げる。
「……少しでも、安らかに」
そう呟き、光石をそっと双子の少女たちの前に置いた。
ミナは、不思議そうに光石を見つめている。
「これでね……守れるんだよ、あの子たちを」
凪咲はミナの頭を撫でた。
何も知らない、何も汚れていないミナに、すべてを背負わせたくはなかった。
立ち上がる。
まだ、歩かなくてはならない。
このモンスターたちの狂乱を、止めるために。
「行こう、ミナ。」
「うん、おねえちゃん!」
ふたりはまた、闇の奥へと歩き出した。
静かに、けれど確かに。
光石の温かな輝きが、背中を見送っていた。




