第84話 鳥の魔物に襲撃される城塞都市
アゴスティと思われる城塞都市は、鳥の魔物たちの攻撃を受けていた。
無数の大きな鳥たちが城塞をとりか込み、城塞をまもる兵たちと戦っている。
守兵たちは、上空の鳥たちに矢と石をとばしている。
城塞の上まで侵入してきた敵に対しては、剣や槍で応戦していた。
「おいおい。めっちゃ戦闘中だぜ。やばいんじゃねぇの!?」
馬を走らせながら、ジルダが大声を発する。
「あの鳥の魔物も、住民反乱の末に街を襲ってるのか? ここの市民は魔物を使役するのか!?」
シルヴィオは前髪を風になびかせながら、視線の先にひろがる謎めいた光景に愕然としていた。
シルヴィオの言う通りだ。あの鳥の魔物たちが住民反乱に呼応するのは、変だ。
魔物は人間と相容れない。
古来より、俺たち人間は、凶悪な魔物たちと大陸の覇権をかけて戦ってきたのだ。
「不可解な状況になっているが、あの鳥たちが俺たちの敵であることに間違いはない。アゴスティを救出するぞ!」
「おう!」
「さっさと追いはらってしまいましょう!」
城塞都市のアゴスティが目前にせまってくる。
高くつみあげられた城壁のまわりで、民兵とおもわしき者たちが戦っていた。
城壁に梯子がかけられ、民兵たちは城壁をよじのぼろうとする。
しかし守兵がすさかず熱湯をかけて、民兵たちを梯子から落としていた。
やはり、厄介なのは鳥の魔物たちだ。
守兵のはなつ細い矢では、ワシのように大きい鳥の魔物を撃ち落とすことができない。
「ジルダっ。上空に風の魔法をはなて!」
「お、おう!」
ジルダが馬上で魔法をとなえる。
「くらえっ!」
彼女が右手から魔力をはなつと、頭上の空気が街に引っぱられるように動きだした。
はげしい風が鳥の魔物たちを押しながす。
彼らに直接的なダメージをあたえることはできないが、これで戦場を撹乱できるっ。
「グラート。あれ、鳥じゃねぇぞっ」
なにっ。
「なんか、人の顔みたいのがついてる!」
人の顔がついた鳥だとっ。
鳥の魔物たちは黒い羽根を上空でまき散らしている。
全長は、人とおなじくらいだ。腕はなく、足も黒鳥そのものだが、顔にクチバシはついていない。
艶やかな白い肌だ。赤い瞳も大きく、ルビーのような色をしていた。
鳥の魔物たちが俺たちに飛びかかってくる。
「くっ」
するどい急降下で、すぐに馬から落とされてしまった。
「なめるな!」
シルヴィオが幻影剣を出現させて、鳥の魔物たちを斬り裂く。
おどるような攻撃で斬りすてられた魔物たちは、まっぷたつに裂かれた身体を地面にさらした。
「グラートさん。こいつらは、きっとストラという魔物――くっ」
ストラと呼んだ魔物たちが、黒い羽根を上空から落としてくる。
羽根はダガーのようにするどさを増し、アゴスティのかわいた地面に深く突き刺さる。
「ストラというのが、こいつらの名か」
「はい! 見ての通り、人の顔をもった鳥の魔物ですっ」
ストラたちは上空から羽根を何度も落としてくる。
後退して羽根の攻撃をよけるが、一枚の羽根が頬をかすめてしまった。
熱い血がしずかに右の頬をつたう。
「こいつらは、上空にいれば、俺たちが攻撃できないと思っているようだな」
しょっていたヴァールアクスを右手でとって、三歩ほど後退する。
「ヴァールアクスで空を斬るのは簡単だ!」
突撃して、引いていたヴァールアクスで空気を裂いた。
真空の波が光のはやさで突き抜ける。
上空であざ笑っていたストラたちは、そろって腹を斬り裂かれた。
「グラートさんっ」
「すげっ!」
十羽のストラがぽとりと地面に落ちた。
後続のストラたちが血相を変えて、俺たちに襲いかかってくる。
彼らは怒りくるい、連携のとれていない突撃を俺にくり返してくる。
「こんなもの!」
ヴァールアクスをふりはらい、ストラたちをまっぷたつにする。
しかし……くっ。数がおおい!
「下劣なものたちめっ。グラートさんからはなれろ!」
「こいつら、しつこいんだよ!」
シルヴィオとジルダも負けじと応戦してくれる。
一匹のストラの戦闘力は、大したものではない。
しかし、空を黒く染め上げてしまうほどの大軍とあっては、アゴスティに容易にちかづけない!
くっ。どうする――。
「何者だ!?」
人間の男の声……!
右からぞろぞろと姿をあらわしたのは、まずしい装備の民兵と、黒装束に身をつつんだ者たち。
オドアケルの者たちの指示で、民兵たちが弓矢をかまえた。
「お前たちは何者だっ。隊と名を名乗れ!」
「隊、か。お前たちに名乗れる隊など知らん」
「な、なんだとっ。貴様……」
オドアケルの指揮官らしき男に耳打ちする者がいた。
指揮官の男は、やがて愕然と目を見開いた。
「その斧! その太々しい体躯っ。貴様はもしや、ドラゴンスレイヤーか!」
「そうだ!」
ヴァールアクスを地面にたたきつける。
衝撃波がかたい地面を裂きながら、地を這う竜のように民兵たちに襲いかかる。
「うわぁ!」
罪のない民たちよ。ゆるせっ。
民兵とオドアケルの者たちは、衝撃波を受けて隊列を乱した。
「な……! なんという、力だっ」
オドアケルの者たちは戦いなれているか。
俺の攻撃をよけられない民兵に対して、半数以上の者が受け身をとっている。
「あの魔物たちを呼び寄せたのは、お前たちか」
オドアケルには、魔物を使役する者がいる。
ビルギッタは俺が殺めてしまったが、他にも魔物を使役できる者がいるのかもしれない。
「そんなことは、お前が知る必要はない!」
オドアケルの者たちが魔法をはなってくる。
炎をとばす初級の魔法か。まっすぐの軌道を読むのは簡単だ。
「そんなヘンテコ魔法でぼくらを倒せっか!」
ジルダも炎をかわしながら魔法をはなった。
強力な紫電を発生させる魔法だっ。古代樹の庭園で見せてくれた魔法だな!
「ぐわっ!」
雲のない空から、紫色のエネルギー体がふりそそぐ。
無数にふる力は不規則な軌道をえがいて、オドアケルの者たちを焼きこがす。
「く、くそ。ドラスレとその一味を殺せ!」
オドアケルの指示で、民兵たちがロングスピアをかまえて突撃してくる。
民兵たちは、戦闘訓練などろくに受けていない。単調な突撃など、よけるのは簡単だ。
しかし――。
「くそっ。こいつら!」
「やめろ、ジルダっ。民兵をなるべく傷つけるな!」
罪のない者たちは、なるべく殺めたくないっ。
「なんだって!? じゃあ、どうやって戦うんだよっ」
「彼らをなるべく傷つけずに倒せる魔法があるだろう。風で吹き飛ばすとか」
「そんな都合のいい魔法があるか!」
民兵の槍をよけながら、ジルダがさけんだ。
「グラートさん。ジルダの言う通りですっ。この者たちを殺さずに退けることなんて、不可能です!」
シルヴィオも民兵を幻影剣で斬らないように、肘打ちで丁寧に対応してくれている。
「無理難題を言っていることは承知している。しかし、民の命をなるべくうばいたくないのだ!」
「グラートさんの、気持ちはわかりますけど……」
「そんなん無茶だぜ!」
ジルダが風の魔法で民兵を吹き飛ばす。
ストラたちが、上空から黒い羽根を落としてくる。驟雨のように。
ストラたちは民兵と俺たちを区別せずに攻撃してくる。
ストラたちの落とす羽根で、民兵たちがひとり、またひとりと倒れていく……。
「やめろ!」
ヴァールアクスでストラたちをなぎ倒すが、こいつらは何匹いるんだ!?
数がおおすぎて、いくら倒しても、きりがない……。
「死ね!」
オドアケルの者たちは、ストラの大軍から距離をとるように、弓や魔法で俺たちを攻撃してくる。
その攻撃は決して強くないが、俺たちを確実に消耗させていく。
「グラートさん!」
「ど、どうすんだよっ」
このまま戦っていたら、戦局は変えられないっ。
どうする!?