第二十九話 邪神教団
ヤババ、更新したつもりでいましたわ……(^q^)
「でも死体傀儡師になるなんて……それこそ実際に死体を操ってみようと思わない限りは下手すると一生知り得ない魔法よ?」
魔法を扱える者は、まず最初に自分の中の魔力を感じ取る練習から始める。そして、様々な魔法を試し自分の魔力に向いている魔法を探し出しすのが一般的な流れだ。
魔力の性質が火に向いている人がいくら水の魔法の練習をしてもほとんど意味が無い様に、人にはそれぞれ合った魔法がある。
つまり、トファリの言うようにどんな状況であったかは分からないが、死体を操ろうと思って魔力を繰り出さなければ、自分に死体を操る才能がある事は分からない。
「親や兄弟、恋人が魔物や戦争で死んでしまった……みたいな状況下で才能に気付いたとしても、今こうしてその能力を使う為に生き物を殺しているのなら同情はできないな」
「……そうね。敵を探ってみるわ。バリアを継続しておいて」
「頼む。少なくとも学校側が用意したサプライズじゃないだろう……悪質過ぎる。他のグループの所にも行ってるとしたら最悪だな」
「自分で言うのもあれだけど、王女である私を狙って来た可能性が一番高いんじゃないの?」
魔法を扱いながらも会話する余裕のあるトファリに、才能の理不尽さを垣間見る。ここまでの差があると嫉妬するなんて感情はない。それに、過去を知っているからか、その努力の量には敬意しかない。
そんなトファリは、実際に狙われる事がよくあった。子供の頃に比べると最近はその鳴りを潜めていたが……。
その才能を聞きつけた何者かに未遂で終わった誘拐事件が何回も起こっている。ウチの警備や王家直属の諜報員的な人達によって防がれてきたれけど、今回は訳が違いそうだ。
今回もその類なのでは無いか、とトファリは思っている様だが俺はそう思いたくない。
「お前だけを狙って来ているとしたら……誰かを疑わなくてはならないだろ?」
「……そうね。訳を話してくれるなら許せるけれど、まず疑いたくは無いわ」
誰か、なんて濁したけれど人数は絞られる。だからこそ、あまりその線は考えたくなかった。
俺が利用されるのは別に構わない。そういう家柄だから自分の身は自分で守れる。
けれど、トファリに危険が及ぶならば、俺の立場が少し変わってくる。俺は――トファリを守る義務があるのだから。
「確認だけどトファリ」
「なによ?」
「あれは完全に死体で良いんだよな?」
「えぇ。人も動物も生きてはいないわ」
念の為、暗号のスキルでパスを繋ごうと試みる。
(何も、無いか……)
言葉が返ってくる事も無ければ、そもそもの意思すら無い感覚。完全に死体が何者かに動かされている状態みたいだ。ならば――。
「バリア」
どしゃ、バタッ、びしゃ……。
バリアの外側からバリアを突き破ろうと叩いていたゾンビ達の胴体が真っ二つに分かれ、倒れていく。人も動物も大きい小さいも関係なく、目に見える範囲の動く死体が動かない死体へと変わっていく。
あまりのスプラッタな光景、ユエル様が目覚めなかったのは逆に良かったかもしれない。
「シューゴのそれ……生きてる人に対して使えなくて良かったと思うわ。反則だもの」
「まぁ、な。どういう原理で死体を操ってるか解らなかったから一応全身を囲ってから三分割くらいに切ったけど……動かないよな?」
「そうみたいね。でもまだ森の置くから来……ッ⁉」
「どうした!」
「一人妙な動きを……追われてる? レイラン先生かもしれない!」
「そっか、あの人は森のどこかに……」
俺達の監視役として付いて来てくれたレイラン先生。どこかで夜を過ごすみたいでバリアの外側、つまりゾンビ達の居る側に立ってる事になる。
『パピー!』
『はいはい。多少乱暴になるわよ』
呼んですぐに飛ぶ準備に入る。トファリから聞いた方角を指さしてパピーに伝えると、バリアの高さを超える所まで上昇して、レイラン先生の元へ急下降していく。
そして十数秒もしない内に、両肩をパピーに掴まれて浮かぶレイラン先生の姿が見えた。
『まったく……シューゴ、エサよりも重いものを持たせるんじゃないわよ』
『助かったよパピー、ありがとう』
「あたた……」
俺の腕に乗りながら文句を言うパピーにお礼を言いながを撫でていると、ドサッと地面に放り投げられたレイラン先生がお尻を擦りながら、立ち上がった。
「大丈夫ですか、先生?」
「う、うむ……いきなり掴まれた時は死ぬのかと思ったがな。それより、お前達は無事か?」
「えぇ。とりあえずみんな生きてます。やはり、異常事態という事ですか?」
「何かが起きているのは確かだ。ただいったい何が……」
先生すら事態を把握していないとなると下手に動けない。別々の場所からそれぞれのゴール地点に進んでいる他のグループとの連絡を取ろうにも、今は来られたら困る状況だしこちらからは狼煙を上げる事も出来ない。
「それより、敵が一定の場所からこちら側に来ないのはどういう事だ? トファリ様の魔法か?」
「あ、それは……」
「――そうです! ですから、ここに居れば安全ですが何も解決はしません」
「……ったく。でもシューゴ、何も解決しない事は無さそうよ? 来るわ」
トファリが見詰める方に俺もレイラン先生も警戒を向けて、何者かが歩いて出てくるのを待った。ガサゴソと草木を踏み鳴らして暗闇から姿を見せたのは、特徴の無い白い仮面で顔を隠し全身ボロいローブで身体を覆った人であった。
背は俺達よりも高く、体格から男だと推測が出来る。
「これはこれは、我等が巫女姫よ。ご機嫌麗しゅうございます」
第一声はそんな丁寧極まりない言葉。大人の男の声だった。汚れる事など厭わず膝を地面に着いて礼儀正しく。ただただワザとらしいその姿に、気は抜けなかった。
「――何者かッ!」
「ト……ファリ?」
怒気を孕んだ声に一瞬、呆気に取られる。らしくない激情だ。
「その仮面。見覚えがある――たしか」
「邪神教団――我々は救われぬこの世界を救う者であります」
邪神教団。なんと分かり易いネーミングだろうか。邪神とはたしか……おとぎ話に出てくる神と争った悪龍だったか。その神にも比類する強さから、邪神として後世にまで逸話が残っている。
それを信仰している奴等、トファリが見覚えのある仮面と言うならば、やはりトファリを狙った盗賊や悪党に違いは無いという事。
分かりやすい俺の敵だ。
「残党……いいえ、あの時に死体傀儡師なんて居なかったはず」
「えぇ。第一計画は残念ながら失敗。幼子の内に連れ去れれば良かったのですがねぇ。しかし、我々が世界を平和に整える日はそう遠くないでしょう」
「お前はトファリを巫女姫と呼んだな。邪神教団と巫女、とても良い想像は出来ないが?」
「……ふむ。貴方は確かライト家の者ですね。この見えない壁も貴方ですね? 本当に邪魔な一族です」
「答えろ! トファリをどうするつもりだッ⁉」
「……くふふ……ふははっ……ハハハッ! 全ては邪神復活の為に」
「あぁ、そうかい」
男が両手を広げると、俺がバラバラにしたゾンビの体が合わさって復元されていく。それに加えて森からもゾロゾロと人や獣の死体が出てきた。
倒したからとゾンビを囲んでいたバリアを解除したのが失敗だっただろうか。傀儡師というぐらいだから、魔力で死体を操っている――間違ってはないのだろうがまだやはり全容は掴めない。
「……チッ。バリア!」
「――っとと、ハハハ。この身体も操っている器に過ぎません。捉えた所で意味を成しませんよ?」
「逃がさない為だ」
すぐにトファリへとパスを繋ぐ――。
『捕えたところで情報を吐かせるのは無理そうだぞ?』
『そうね』
「この身体はAランク冒険者のものですから、あまり手荒な――」
「うるさいっ!!」
「おやおや、手癖の悪い姫様で」
初めて敵に共感してしまった……。うるさいの一言で相手の首から下を土で固めてしまうお姫様に。
「邪神教団! 改めて聞いておくが……お前達の目的はトファリという事で良いんだな?」
「いいえいいえ。巫女姫はあくまでも目的の為の器に過ぎません。……その日まで大人しく姫を守っていろライト家」
「お前等にトファリを渡すか――敵ならば確実に潰す。邪神教団」
「くふ、ふはっ……ハハハハハハハハハッ! もう既に計画は動き出しているっ! お前に果たして阻めるかな。ではでは巫女姫様、またいつかお会い出来る日を楽しみにしております」
グシャ――先程まで立っていた仮面の男の体が空缶を踏んだ時の様に潰れた。
無理と判断すれば勿体無い様子を見せていた身体をも簡単に潰してしまう。敵の死体傀儡師の素性や性格までもが作り物なのかもしれないという疑念だけとまだ動いているゾンビだけを残して、消えていった。
そもそもあれが本体では無いのなら、帰ってから死体傀儡師について調べた所で、性別年齢姿形の得られた情報はあって無い様なものだ。
残った敵は敵というにはお粗末で、先程と同じ様にバリアで切り刻んで動きを止めた。そこからはトファリが、土魔法を使って獣も人も別け隔てなく土の中へ埋葬していった。
「……トファリよ、また厄介な奴等に狙われてるな?」
「今思えばだけど、六歳の頃に来た白い仮面の奴等は下っ端戦闘員だったのかもしれないわね。ちなみに、その時に敵を全員捕縛したのはアンタのお母様よ?」
「……あー。ん、ごめん? ……どうりでライト家を恨んでるっぽいのか」
「ねぇ! それより、そのー……さっき言ってた事だけど……」
「ん? なんのことだ?」
「私を守るだなんて、あんな奴等に奪われたりしないんですけど?」
「あぁ、そうだろうけどさ。お前が邪神教団とかまぁ、他の奴等にもだけど……奪われたら(確実に死刑だから)困るしな」
「そ、そう……。まぁ、そう……ふーん。ふふっ」
自分が狙われている自覚が薄まっているのか……強い者の驕りにも思えて少し心配だ。
トファリに戦闘面での不安は無い。それは母様も言っていた事で、心配なのはむしろ精神面。国民を人質に取られたらまず躊躇してしまう。
(ま、その優しさは大事にして欲しいからこそ俺が……)
そう戦いの余韻に浸りながらトファリと話していると、肩をトントンと叩かれる。振り向くとレイラン先生が何とも言えない顔をしていた。
「うむ、その……もっと焦ったりしないのかな? シューゴ、お前はまったく剣術を使わないし意味わからない技を使うし……なんかトファリ様の前で男らしい事とか言ってるし」
「あー……まぁ、怖さで言えばウチの母様の方が……ん? 男らしい事?」
「いや、何でもない。それにしてもレイズ様か……なるほど。私もあの方の強さには恐怖を覚えるよ」
先生が無事で敵の全容は分からないまでも、狙われている事は判明した。被害はゼロ……と言いたいが、ゾンビにされた人も居たから喜べはしない。服装が冒険者らしき物で、つまりは俺達の為に魔物を減らそうとしてくれた人達だろうから。
「とりあえずバリアは貼り続けて警戒は続けます。先生も一休みしてください。あ、何か飲みます? それとも食べます?」
「教え子に気を遣われるとは……いや、うん。飲み物を貰おうか」
まだまだ夜は長い。敵について考えるには丁度良いタイミングだ。
強がってみたものの、動き出している計画というのも気になるし、トファリをどうするのかも気になる。
邪神教団……詰まるところ、龍の復活でも企んでいるのだろう。だが、それとどうトファリが絡んでくるのか。
「なぁ、トファリ」
「なによ?」
「死なない限りさ、誰かに利用されて、その誰かが助かるなら……まぁ、良いと思ってる」
「私もよ。誰かに利用されて死ぬのはまっぴらごめんだけど、私を利用して困っている誰かが救われるなら……ね」
「――起きてるか分からないけど、そういう事だから! 困ったら助けを求めろよ。こっちは英雄だぞ」
テントの方角に向けて、起きているかも分からない『誰か』に声を掛ける。
予想が外れていたらただの独り言。それならそれでも構わない。裏切りとも思わない。まだ、俺もトファリも生きているのだから。
「……二人は何の話をしているの?」
「友達が困ってるなら助けたいって話ですよ。そうだ、レイラン先生! 流石に手持ちのレポートに今の事は書ききれ無いですし、校長先生への報告お願いしますね」
「分かった。というか、国家を揺るがす大事件よ……王女様を狙った者達の中に死体傀儡師が居るなんて……」
「はっはっは、笑えませんよね! 笑うしか無いですけど」
戦績としての心労が溜まっていくレイラン先生が少し可哀想だ。学校側としても大失態になるだろう。
「大丈夫ですよ、レイラン先生。問題は表に出さなければ問題にはなりません。な、トファリ」
「そうね。私も学校に通えなくなると困るもの」
「「ハッハッハッハッハッ」」
俺達を変な子という目で見るレイラン先生の顔が印象的だった。不敬罪ですよ、先生――。
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