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お前もプリンセスかよっ!  作者: テラェフカ
第一章 英雄姫は止まらない
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第三十話 責任の行方


暑いですね、もうね!



 

 第二、第三の奇襲に備えていたが杞憂に終わり、朝を迎える。トファリの索敵により、ここ以外に被害が無かった事は確認済みだ。

 ゾンビ達の死体は、日の光に当たった瞬間から煙を出しながら溶ける様に消えていき――珍しいというか初めて見る現象に俺もトファリもじっくりと観察してアレコレ議論を交わしていく。こんな状況下においても知識を深める事に喜々とする学生の俺達を観て、レイラン先生は少しばかりドン引きしていた。

 禁呪が故なのか、地面に広がった血さえも浄化されたみたいに綺麗に消えて無くなり……禁呪を使われた側の動物や人の証拠までも消えてしまった。そりゃ、完全犯罪みたいな手口だし詳しい情報が後世に残っていない訳だ。


「じゃあ、私達は先に帰るから後の事は任せたわよ」

「こっちは任せとけ」


 夜中に俺、トファリ、レイラン先生の三人で話し合い、朝になったらトファリとレイラン先生だけ先に学園へと戻る事に決まった。校長先生への説明をして、その後の話し合いの為に。


「じゃあ、レイラン先生しっかり捕まっていてくださいね?」

「う、うむ……」

「行きますよ〜…………ッ!」


 おそらく空中を移動する……なんて経験の無いレイラン先生はおっかなびっくりトファリの背中に乗っていた。そして、次の瞬間――悲鳴と共に空高く飛んで行った。

 先に戻るという選択が出来るのは、トファリが馬よりも早いからだ。空中に浮かんで自由に動けるトファリなら、王都まではあっという間に着くだろう。

 俺は残ってみんなに説明があるし、ユエル様を無事に森の入口まで帰さないといけない。


(ま、トファリに背負われて移動するなんて護衛としてのプライドが許せないしな)


 二人が見えなくなるまで空を見上げ、俺も朝食の準備に取り掛かった。いつ起きてくるかは分からないけど、きっとルーはお腹を空かせているだろうから。


「もにゅもにゅ……ふぁ〜……しゅーごぉ〜……?」


 ――朝食の準備を終えてしばらくするとルーが一番に起きてきた。

 まだ眠たそうだが、とりあえずちゃんと起きた事にホッとする。息はあるが起きないという状態に嫌な想像は何度かしていた。


「おはよう、ルー」

「おはよぉ……あのね、あのね、ルーね、いつの間にか寝ちゃってたみたい」

「そっか、思ってたより疲れてたのかもな」

「うん……でもね、でもね、もっとみんなとお喋りしようと思っていたのに……不思議ぃ〜」

「川で顔でも洗ってきな。朝ご飯の準備はしておくから」


 ふと、ルーは確か毒が効かない――少なくとも食べ物系の毒は消化する――と言っていた。そんなルーまでも眠らせるとなると植物から作り出した眠り粉みたいなモノではなく、魔法系の眠りの可能性が高い。


(ウチのパーティーにトファリ意外でそんな事が出来る奴って……)


 柔らかい笑顔が浮かんで消える。

 ……だからといって、別に責め立てるつもりは無い。世の中、国、それより小さいコミュニティ。人が集まれば、いつだって誰かの思惑で、人は動かされ、諸行の流れが形成されていく。


「くぁ〜〜っ……よう寝タよう寝タ。お……ふっふっふッ、見張りご苦労だぞ子分ヨ!」

「……っとと、後ろからドンッてするリベは朝食抜きですね」

「何故じゃ!? それが人のすることかエ!」

「ほらほら、リベ様! シューゴ様にそんなコトをしてはダメですよ」

「おはようございますユエル様。すみません、リベを連れて顔を洗ってシャッキリさせてきてください」


 リベとユエル様も起きて顔を洗いに行った。そして、最後に起きてきたのはミーニョさんだ。

 先程までとは違い、顔を見合わせた瞬間から妙な緊張感があった。でも――。


「おはようございます、ミーニョさん」

「あ……はい、です」


 そう笑顔で迎えた。

 何も聞かないから、別に何も話してくれなくても良い。敵が何者かはまだ分からないが、居る事が分かった以上やる事は変わらないのだから。

 トファリを狙うモノは全て敵。狙われ続けるのならば、俺もトファリ本人も敵を倒し続けなければならない。そして、その道の途中で友達を助けられるのなら……俺やトファリはもっと本気になるだろう。


「トファリは強い。それはみんな分かってると思う。でもね、ミーニョさん。実は俺も強いんだぜ? 友達を守れるくらいにはな」

「あた……あ、た……ち……あたちは……」

「良いよ。敵ならば倒すし、味方なら守る。シンプルに行こう!」


 どう考えてもミーニョさんしか疑えない状況。でも、そんなのは別に気にしていない。俺もトファリも怒りの感情は微塵も無い。

 短い付き合いでまだお互いのコトを全然知らない。それ故にどんな裏があっても裏切られたと感じるのは俺達の勝手な感情だ。

 ――だから話し合って、俺もトファリもミーニョさんになら別に裏切られても良いという結論を出した。

 裏切られても良いから信じるし、裏切られても良いと思うからこちらも遠慮はしないで済む。

 本当はちょっとだけ信じたい気持ちの方が強いけど。


(だって、せっかく友達みたいになれたんだしな……ミーニョさんが敵側だとしても利用されているだけだとしても……邪神教団は絶対に潰す!)


 トファリも今頃、校長先生にそう言っているはずだ――。



 ◇◇◇


「ミーニョさんは妖精で可愛いんです! 絶対に良い子なのは間違いないんですユゼ先生!」

「落ち着いて、トファリちゃん」


 柔らかな笑みを浮かべるユゼに対して怖い顔で訴えかけるトファリ。それをオロオロとして見ているレイラン。

 粗方の事情を聞いたユゼは今後の予定を考えていた。決してミーニョをどうにかする……そういう思考は無かったのだが、トファリは沈黙に不安を抱いて詰め寄っていた。


「邪神教団なのよね?」

「……はい。敵はそう名乗っていました」

「そう……少々厄介ねぇ」


 トファリの返事を聞いて、見た目はお婆ちゃん中身は妖艶なエルフであるユゼが天井を仰いだ。

 立場だけを見ればトファリの方が上ではあるのだが、敬意を持っている相手に対してはトファリも礼儀正しい。魔法のエキスパートであるユゼから出た厄介という言葉に詰め寄る威勢は失われていた。


「ユゼ先生は知ってるのですか? 邪神教団を。私は昔にちょっとあったくらいで……」

「そうねぇ……うーん……一言で言ってしまうと他と同じ盗みや殺し、何でも行う犯罪グループなんだけど、他と違うのは邪神――つまりは邪竜を復活させようとしているコトかしら」

「……たしかそんな事を言っていました。あ! それに、私を巫女姫と……どういう意味でしょうか?」


 トファリは敵が言っていた言葉を思い出し、ユゼに聞いた。それに関してシューゴが「嫌な予感しかしない……」と言っていた事もついでにユゼへと伝える。


「あらあら、シューゴちゃんは勘が良いのかしら? うふふ、ならシューゴちゃんは一生懸命になってトファリちゃんを守ってくれるでしょうね」

「そ、そ、それは! それは、それが……アイツの仕事というか? 義務ですからっ!」

「あらあら」


 孫を見る目でユゼから見られたトファリは、何故か慌てている自分にハッとして顔が赤くなった。

 ユゼがシューゴと自分とのやり取りを見ていたのでは無いかと疑ってしまうほど的確に当てられて、行き場のない恥ずかしさが心の中を渦巻いていた。


「割り込みをお許しください。ユゼ様、この事は国王陛下にお伝え致しますか?」

「だ、駄目よ! 学校に通えなくなったら元も子もないわ!」


 本気の言葉にレイランが立ち(すく)む。トファリに威圧しているつもりは無くとも王女が声を荒げるのは怖いものがある。


「でもねぇ……」

「では、この件は私が解決します! それなら問題ありませんね!」

「大ありよ、トファリちゃん。貴女はこの国の王女、それに、そもそも敵の居場所も分からないでしょ? 国内にアジトがあるとは限らないのよ?」

「うっ……それは……」

「はぁ〜……何か邪神教団に繋がりのある人が居ればね〜手掛かりの一つでも掴めば大義名分なんて幾らでも出るんだけどね〜」


 わざとらしさ満載のユゼの演技にトファリは目を輝かせ、教員でもあり国を守る立場の騎士でもあるレイランは静かにタメ息を吐いた。


「――ユゼ先生、少し急用を思い出したので失礼させて頂きます!」

「元気ねぇ〜トファリちゃんは。行く前にひとつ良いかしら?」

「……っとと、なんでしょうか?」

「トファリちゃん――貴女、好きな子は居る?」

「……え、え〜っと、そ、それは乙女のヒミツですっ!」


 その答えにユゼは満面の笑みを見せ、部屋から出て行くトファリを見送った。

 それから筆と紙を取り出し国王陛下用と陛下の妻であるメイ王妃用とで二つの手紙を用意し、それをレイランへと託した。

 手紙の内容を知る(すべ)のないレイランは、ユゼが楽しそうな理由が分からないまま部屋を後にし、大急ぎで王城へと馬を走らせていく。


 手紙の内容を要約すると、こうだ――『今後もトファリ・ケースタスに関する問題は、全てシューゴ・イル・ライトに責任を問う』


 つまりは何も変わらない。ただ、学園には何も責任が無いという体裁を取る為に、手紙を送っただけである。国王陛下には。

 その妻であるメイ王妃に宛てた手紙はまた少し違う内容となっていた。


『妖精族との関わりが強くなる可能性アリ。ただし、急速に築いた友好関係は脆く崩れやすいコトを戒める様に。相互の距離感と敬意、尊重する心を忘れるべからず。最後に、トファリ・ケースタスに関する(以下略)』


 本来なら国王陛下に宛てるべき国政に関わる内容をメイ王妃に向けて送るあたり、ユゼも長年この国に住んでは居ないという事だ。

 ユゼからすれば、この国と数多に散らばる妖精族の少規模国家が繋がろうとどうでも良いことである。その関係が破綻し、争いになったとしてもどちらにも(くみ)せず無関係を貫くくらいには国に対しての依存は希薄だ。

 それでも、別の国に移動する労力を考えるとこの国が愚かじゃない事を手紙一つで願った方が面倒ではないと思ったまでだ。


「うふふ、ごめんなさいねシューゴちゃん」


 変わらぬ優しい笑みを浮かべて、代わりに責任を負う若者へ謝罪の言葉を述べる。ユゼの顔を見た者は悪びれる気持ちなんて皆無だというのはすぐに気付くだろう。


「さてさて、戻って来るまでお茶にでもしましょうか」


 しかし、これでトファリやシューゴが動きやすくなったのも確かである。

 ユゼは知っている、邪神が何かを。

 ユゼは知っている、巫女姫が何かを。

 ユゼは知っている、だからこそ自分が出来るのは手助けのみで当人達が強くならねばならない事を。


 エルフの森を出て人の世界に溶け込み数百年。

 数十年に一度は現れる自分の魔法を見破る者達。

 そんな時は決まって何かが起こる時代となる。


「うふふっ、人の魅力は繋がりの心よ。トファリちゃん、シューゴちゃん……頑張るのよ」


 学園長室から外の広がる空を見上げ、若者へ向けて応援の言葉を投げ掛けた。紅茶の入ったカップを片手に持ちながら。



 ◇◇◇


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