第二十七話 正解がない
それぞれのお腹が満たされて来た頃、話題はお風呂問題になっていた。『一日くらい平気派』のリベ、ルーと『ちゃんと入る派』のトファリ、ユエル様。そして『どちらでも良い派』の俺とミーニョさんに分かれていた。
入りたい派の二人が勝手に入れば話は終わると思いきや、ちゃんとリベやルーも入らせるつもりらしく、話し合いが長引いている。
「女の子なのですから常に身嗜みには気を配りませんと! 髪のお手入れも……リベ様はゴワゴワでしてよ?」
「構わヌ! 湯浴びはもっと安全な場所ですれば良かろうがッ! 一日くらい我慢せい!」
「ルー? 貴女は特に狩りをして汚れているのだから、しっかり洗わないと駄目よ?」
「ん~……ルーは別に帰ってからで良いよ?」
疲れを癒す為にお湯を沸かして入るという考えは大いに分かる。これだけのメンツが居れば、魔法でちゃっちゃと簡易風呂も作れるだろう。
俺は自分の能力で清潔にしようと思えばいつでも出来るけど、精神的に癒される為にはやはりお風呂に入った方が良い。だが……明日でも良い気持ちも分かる。
「シューゴさんシューゴさん」
「どうしたんですか?」
「さすがにどうかしないと~、時間ばかり過ぎていく気がしますよ~? 睡眠を取る時間が削られる方が問題かと~」
「確かに。うーん……でも女の子の言い争いに男が割り込んで良いものか……」
「私の予想では~……ほら、向こうから来ましたよ〜」
ミーニョさんの言う通り、割り込む割り込まないの前に面倒事の方から巻き込みにやって来た。
「シューゴ様? シューゴ様はお綺麗な女性の方が好きでらっしゃいますよね?」
「子分! 多少の汚れは戦う者の宿命よナ!?」
「シューゴ、リベはどうでも良いけどルーの毛並みの危機よ! もちろん、私達に賛成よね?」
「シューゴシューゴ、一緒にお風呂ならルーも入る!」
――正解が無い。あるのかもしれないけど、俺の過去の経験からしてもこんな状況なんて無かったし、正解が無い。
何を選んだとしても、誰かしらから反発が出るだろう。
別にみんなで仲良く風呂に入れば良いじゃん。そして、キャッキャウフフとした声を届けてくれれば良いじゃん……と思うのは俺だけだろう。一応、提案してみるか。
「……俺がバリアで安全を確保するから、みんな一緒に入ってくれば?」
「シューゴは一緒じゃないのぉ……?」
「ごめんよルー。いろいろとね? いろいろと問題があるから」
女性は布で身体を隠したとしても、肌を大きく晒してはいけない駄目という貴族ルールがある。
残念なコトにこの国には色っぽい下着、そしてカラフルな水着なんてのはまだ無い。少なくとも男物の下着は、柔らかい布を形作って、結ぶ為の紐を通しただけの物だ。だからおそらく女性物もみんな柔らかい布を纏っている……感じだと思う。その辺はよく分からないが。
(他の種族で下着文明が進んでるとことかあるのかな? 下着というか服飾系だけど……)
リベとかルー、ミーニョさん達他種族のみんながどんな下着を着けているのかは、いやらしい意味じゃなく興味がある。
だが、見せてくれという訳にもいかないし文献や本で調べられるとは思えないし……やはり、いつかは国を出て放浪とかしながら自分の足で行くしか無いのかもしれない。
「くっふっふー! 出かした獣人! 妾も子分と一緒だったら入ってやらん事も無いゾ! なぁ、獣人? お主もその方が良いのだロ?」
「うん! みんな一緒の方が楽しいもんね!」
「な、な、何を言ってるのリベもルーも!? 男性に気軽に肌を見せてはいけないって習わなかったの!?」
「そうですわ! 殿方と混浴だなんて……あ、あれ……なんでしょうかこのドキドキは……」
またリベが……そう心の中でため息を吐く。
俺は当事者なのか当事者じゃないのか、それが曖昧になる程に俺を除いて話が進んでいく。ちなみに、ミーニョさんは種族的に男女関係なく結婚してからじゃないと大胆は肌の露出はダメという事でみんな出てから一人で入るらしい。
獣人や鬼族のその辺りの事情については知らないが、普通に婚約者でも無い相手と混浴はダメな気がする。将来の旦那さんの為にも、今は自分の気持ちとは別に遠慮すべきだろう。
「俺はみんなと入らないぞ? みんなの将来の旦那さんになる人の気持ちを考えると、俺にはそんなマネ出来ない」
「そ、そうよね! 分かってるじゃないシューゴ……」
「なら、ルーは大丈夫だね! えへへ~……ルーはシューゴのお嫁さんになるから一緒にお風呂に入れるね! てことは~……リベもトファリも大丈夫?」
腕に絡み付いてくるルーを強引に引き剥がせない俺がいる。それに、混浴を恥ずかしがる男は居ても嫌と思う男は限りなくゼロに近いんじゃないだろうか。
俺だって強引に誘われたら、仕方ないなぁ〜感というのを出して流されるのだけど、風紀委員みたいなユエル様が居る限りは無理だろう。
「ちょ、ちょっとルー? 何を言って……全然大丈夫じゃないわ? そんな先の話と言うか、決まってないのに……シューゴ!!」
「そ、そうだぞ獣人! 子分は子分なのダ! そもそも湯浴びを避ける為にだナ……子分ッ!!」
トファリとリベが行き場のない感情を俺に向けて放ってくる。
「いや、俺に怒鳴っても仕方ないだろ……それにな、トファリ、リベ。男で女の子と一緒にお風呂に入れるコトを喜ばない奴は……居ないっ!!」
「バカ言ってないの!」
「イヤらしいぞ子分!」
「じょ……冗談だよ。俺がバリア張っておくから、早く土魔法で風呂作って水魔法でお湯出して……みんなで入ってきな」
よくお湯は火魔法と水魔法を組み合わせるとか言う魔法師が居るが、それはただ下手くそなだけである。水と聞いて冷たいものと言うのが先に思い浮かぶ人の錯覚だ。
温風も同じで、風と聞いて涼しいものと思い浮かんでしまう人の、頭の固さが余計な手間に繋がっている。
確かに二つの属性を組み合わせる技術は凄いのかもしれないが、火魔法で温度調節している様なレベルなら修行不足でしかない。
「みんなが入るとなるとそれなりに広さが要るわよね」
トファリが指を鳴らすと、五右衛門風呂の様な円形で広い湯船が形作られる。そして、もう一度指を鳴らすと魔力が変換されたお湯が湯船へと注がれる。
魔力から魔法への変換スピード、形成した魔法の完成度の高さ、簡単にやってのける姿は誰が見ても一流と言えるレベルだった。英雄の扱い方として、これは間違いなく正しく無いと思うけど。
湯気が立ち上るお風呂を見ると流石のリベも心が動かされたのか、お湯の温度を確かめたりし始めた。
「トファリ、更に壁を一枚作っとけよ? 俺のバリアは目に見えないからな」
「アンタが覗かないのは分かってるけど、冒険者とかが来ないとも限らないしね」
「分からんぞ? 俺が覗くかもしれないだろ?」
「それ、真顔で言うこと? ま、覗いても良いわよ? 全員分の責任取れるのなら、ね!」
「ははっ……お前一人でも大変だっつーのに全員とか、命が幾つあっても足りないな」
「…………ぉ、え!? そ、そ、それってどういう意味!?」
「ぶぁぁぁぁぁぁぁッ!! 冷たい水が妾にぃぃぃぃぃ!?」
何か、リベが遊んでいるな……。トファリが慌てて魔法を消したが、ずぶ濡れのリベが悲しそうな顔をしていた。
「ご、ごめんリベ! 服も乾かしておくから、先にお風呂入ってて! ルーもユエルも……今壁作るから」
お風呂を囲う様に高い壁が作られる。真上からは丸見えだろうが、そこまでして覗く者も居ないだろう。壁の更に外側から俺のバリアで囲う……これで侵入も無理だし安全だろう。
「トファリは後で良いのか?」
「仕方ないでしょ。それに、リベの服はすぐに乾かせるけど、ミーニョさん用の完全個室お風呂も用意しないといけないしね」
「あら~私は身体を拭くだけで良いのですが~」
「大丈夫よ。それほど手間じゃないから遠慮しないで」
「ではありがたく~」
指パッチン一回で完成するお風呂。見ているだけだと、トファリの労力は分かりにくい。だが、普通の人ならぶっ倒れるまではいかなくともかなり疲れるはずだ。
「トファリ、お風呂分の特別だぞ?」
頑張った者にはご褒美を。正しい者が報われる世界は理想であるが中々難しいのも事実だ。だから、せめて俺が視ている世界だけでも頑張っている人が頑張っただけ良い事のある世界にしていきたい。
「えっ……ケーキ!? 良いのっ!?」
「シー……。後で食べるスイーツとは別に、な。お風呂作りも楽じゃないだろ?」
「……シューゴってば、そういうとこには気付くんだから。ん、ありがと」
美味しそうにケーキを食べている時だけは、幼かったあの頃の無邪気な笑顔をみせてくれる。英雄と呼ばれるトファリが年相応な顔をしている内は平和という事だろう。少しでも長くこんな時間が続きますように……そう、あんな神でもちゃんと神だろうから願っておいた。
「俺は片付けしておくから、トファリはゆっくりしてて良いぞ」
「悪いわね。ケーキに忙しくて動く気になれないわ」
日が暮れて、もう辺りは暗くなり始めている。火の番をする事を考えると、まだまだ先は長い。みんなが風呂を堪能している内に片付けでもやって、提出するレポートでも書きますかね。




