第二十四話 今を楽しめている
「水の流れる音がするよ~!」
そう言ってルーが駆け出し、その後を俺達がついて行くと――地図的にもチェックポイントで間違いない川辺へと辿り着いた。
まだ夕暮れ前の時間である。当初の予定とは少し違うけど、どうにか明るい内に辿り着けたみたいだ。
自称毒に強いというルーが川の水が飲めるのか確認していると、茂みからレイラン先生が姿を現した。
「ふむ、まさか普通にこのルートを踏破されるとは……」
「まぁ、戦闘は確かに多かったですけどウチには血の気の多い子達が居るので」
ほとんどはリベとトファリ、二人のお陰で魔物は問題なく対処出来た。それに、ルーが危険じゃない道を選んで通ってくれたお陰で安全に進むこともできた。お嬢様も傷ひとつ無く連れて来られたし、ミッションクリアと言ってもいいだろう。
「夜の方が魔物は活発になる。早めにテントを張って先に誰か休むと良い。気を抜くなよシューゴ」
「分かりました。先生は晩御飯どうしますか? こっちで作ったらお呼びしましょうか?」
「いや、監視役にも食べ物は配られている。気にするな。シューゴ、お前が代表ならパーティーの行動を書き記しておけよ?」
「はい!」
「では……また明日の朝に」
先生が離れて行き、俺達だけになったという事でさっそく準備に取り掛かる。早く動きたくてウズウズとしている者が少なくとも一名……居るみたいだしな。
「お待たせルー。それじゃ、食料調達班とテント設営調理班に別かれるぞ。食料調達はルーとトファリとミーニョさん。残りがテント設営! 以上! 解散!」
「ちょっと待てぇぇい! 妾も食料調達が良いゾ!」
案の定、すぐに反対意見を言うリベ。想定内だったから勢いで流そうと思ったのにやはり無理だった。
野菜や木の実はミーニョさんが居るし、ルーは沢山お肉を持ってくるだろう。トファリはちょっと強い生き物なら平気で倒す……となると、大剣でズシャァとしてしまいそうなリベがお留守番に必然となってしまう。
「テント設営したら川で遊んでも良いよ?」
「良くない! 良くない! 妾も狩りに行きたい!」
『シューゴ、僕とパピーも狩りに行ってくるね!』
「あまり遠くに行かない様にな」
「ぬぐぐ……なぜ駄目なのダ!」
「いや、駄目じゃないけど……そうだ! 子分と女の子がここに残って怖い魔物とか来たら誰が助けてくれるんだ? 親分しか居ないだろ?」
「…………っ!」
「一番強い人が残ってくれないとさ、俺は安心して料理も出来ない」
「一番……強、い? ……くふ、くふふふふ! まったく仕方ない子分だなぁー! わーはっはっはっはっはー」
高笑いしているリベに気付かれない様に、まだ出発していなかった三人に目で合図を送って行って貰う。
さて、まずはテント設営をしなければならない。三人は寝れるテントが一つと二人用のテントが一つ。パーティーはユエル様が加わった事で女の子は五人、男は俺が一人。足りてないという事態だが……まぁ、元より夜通し火の番というか見張りをするつもりだったから、そこまでの大事ではない。
ポンちゃんとパピーと寄り添っていれば今の季節なら凍える心配も無いだろう。
「じゃあ、テントを立てるからユエル様も手伝ってくたさい」
「分かりましたわ」
「妾はテントなぞやったコトないゾ! そもそも細かい作業は苦手ダ!」
「……じゃあ、川で魚でも捕まえててください」
ユエル様と二人で、実質一人でやっていると同じだがやる気はあるユエル様だし、そういう頑張る子は出来るけど頑張らない子よりも重宝する。やる気があるかどうかは、一緒に働く上での士気に関わってくる。
(それに、ご令嬢の前でアウトドアもイケますよアピールをしておかないとな)
結局、男は顔と頼りになるかどうかだから、せめて頼れる男を演出しないといけない。それが例え自分とは地位の違う人相手であったとしても、いつ、どこで、どう人脈が繋がっていくかは分からない。ご令嬢界隈で『ライト家のシューゴ様が今アツい!』なんてコトになれば男爵家の次男という立場であれ、婚約の申し出の一つや二つ期待できるだろう。
いわばユエル様は、将来の俺の為のキューピットになるかもしれない人物だ。丁寧に優しくしておこう……。
「そうですわシューゴ様! ひとつ尋ねてもよろしいですか?」
「ひゃ、は、はい!? な、何でしょうか?」
「シューゴ様とトファリ様との関係なのですが、やはりお二人は……キャーー!」
「いや、きゃーて……」
急に勝手に盛り上がられても、普通に気持ちが追い付かない。
女の子の会話は雰囲気だけで進むことも多々あるというのは把握しているけど、男は自分の中で道筋を立てて決めた事を話すから女の子特有の見きり発車で終着点の無い会話にはついていけない事が多い。
それに比べるとトファリやリベなんかは、用件があって話し掛けてくるから接しやすい部分がある。それに、どちらかと言うと話しやすい魔法や戦闘についての話題が多いのも男としてはありがたい。
勝手に気楽と思ったり……女の子としてはどうなの? と勝手に心配したりもするが。
「――ですがですが、トファリ様があんなに親しく殿方とお話しをしている姿なんて、うふふ……何だかとっても珍しくて驚いてしまいましたわ。舞踏会などのパーティーではムスッとしていらっしゃるので」
最近は、貴族のパーティーでトファリの護衛をするよりも外の警備に就くコトが増えていたから知らなかったが、ムスッとしているのか。シンプルにつまらないのだろう。
永遠と挨拶に来る貴族の相手とか……流行りを押さえておかないとついていけない会話とか、ちょっと考えただけで大変なのが分かる。トファリに向いていないというのも。
本当は乙女チックな部分もあるから誰が誰と結婚する、みたいな話なら混ざりたいはずなのに、自分が行くと会話を止めてしまうと遠慮しているトファリの姿が目に浮かんでくる。憐れ憐れ。
「……本当は、ユエル様や他の方々みたいに育っていく筈だったんですけどね。俺が余計なコトをしたせいで今みたいなお転婆姫に」
「まぁ……うふふっ! その遠慮の無いシューゴ様だからトファリ様も楽しそうなのかもしれませんわね!」
「あははー……お姫様には振り回されてばかりで困ってますよ」
「あらあら、その割には楽しそうなお顔をしてますわよ?」
自分の顔をペタペタと触ってみる。そんな顔をしていたのか疑問で、ついペタペタと。
トファリについて頭を悩ませる日々に、眉間にシワを寄せる回数が増えた。そのせいでウチの従業員からは一番の苦労人と認識されているレベルになっている。
それでも笑えているのなら……今が俺に合った生き方で、ちゃんと楽しめている証なのだろう。
「うぉーい! 子分! 子分! 魚捕まえたゾー! ワハハハハ」
「リベは楽しそうで良いなぁ。ユエル様、テント立てたら俺達も少し川で遊んでみますか?」
「そうですわね! 私、水魔法は得意ですのよ?」
テントを立てた俺達は浅く綺麗な水が流れている川に足を入れた。
ユエル様の水魔法――プカプカとシャボン玉の様に作った水球を、自分の周りに幾つも浮かべている。川とか特に関係ないみたいだ。
それに対抗してかは知らないが、リベは紫に近い色をした炎を操っていた。
水と火で水蒸気が発生して、霧状に広がったら大惨事になりかねない。リベならやりそうだから、先にバリアを張る準備だけしておく。
「妾の炎は水に負けん! くらえ人間ーーーッ!」
「あわわ、リベ様の炎が私に!?」
「はぁ……だと思った」
リベの操る炎の一個一個に透明のバリアの箱で包む。完全に囲ったコトで妖術の繋がりが切れたのか、炎はゆっくりと消えていった。
「リベ、誰彼構わず戦うのは駄目だぞ。強者は強者とだけ戦えば良いんだ」
「ふむ……その通りであるナ! 悪いことしたな、弱っちぃ人間よ!」
「あはは……リベ様はとてもお強いのですね」
「う、うむ! 妾は強いゾ! お主、人間にしては子分と同じで見所があるナ!」
遊んでいる俺達の元に一番最初に獲物を持って戻ってきたのはルーだった。気絶しているそこそこ大きい猪を担いで来る女の子の姿は、中々の迫力がある。
「シューゴ、シューゴ! とりあえずコレ! 何か作っておいて! また捕って来るからお願いね! ね!」
デカい動物を一頭置くと、ルーはまたすぐに森へと駆けて行った――。




