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お前もプリンセスかよっ!  作者: テラェフカ
第一章 英雄姫は止まらない
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第二十三話 ユエル様はガツンと言える

 

 我がライト家は、貴族の開くパーティーに護衛を派遣している。主な収入源の一つだ。

 だから、ユエル様とも何度かすれ違っていたりする訳なのだが……どうやらただの護衛なんていちいち覚えてはいないらしい。ご令嬢なんかは貴族同士の付き合いで忙しいから当然ではあるけれど。視線は感じるが、女性の多いパーティーの中で黒一点の珍しさからだろう。

 挨拶を済ませた後はレイラン先生から後は勝手にして良いと伝えられ、俺達は急遽(きゅうきょ)作戦会議を開く事になった。


「どうするの?」


 そうみんなに小さく問うのはトファリ。だが、俺を含めて誰一人として答えなどを持ち合わせていない。これは……もしかすると、緊急時にに対する応用力を求められているのかもしれない。

 当初の予定では、早いペースで目的地まで急いで、食材集めでもしようという事になっていた。それが……言い方は悪いがお荷物が一つ増えてしまった。


「あらあら、鳥さんが飛んでいますわぁ」

『呑気な子ねぇ……』


 パピーが呆れる程のポワポワ加減である。決して嫌いなユルさじゃないけど。

 それに、服装は向こうの学校の制服だろうから良いとしても荷物が多い。旅行ケース二つ分はあるだろうか。

 何はともあれ、確認しなければならない。何が出来て何が出来なくて……どういう人物なのかを。


「トファリ、ユエル様ってどういう人だ?」

「……私も詳しくないけど、侯爵令嬢で……見たまんまだと思うわよ? 貴族の子女を呼んでお茶会なんかをよくしてる感じの」

「アレは戦えるのかエ? 妾は……なんか苦手ダ」

「戦えはしない……と思う。魔法くらいは使えるでしょうけど……って! 本人に聞いた方が早いじゃない! ――ユエルさん、ちょっと来てくれるかしら」

「はぁ~い」


 トファリが呼んで、ユエル様がふわっふわっと軽やかに駆けて来る。何だか背後にお花畑が見えそうなゆったり感だ……。


「ユエルさん。まずは紹介しておくわ。リベとミーニョさんとルーと、そしてシューゴよ」

「改めまして。皆様、よろしくお願い致しますわね」


 制服のローブを摘まんでヒラリと綺麗な挨拶をしている。緊張感がまるで無い……可愛いけど。ホント、嫌いじゃないですけど。


「それで、えーっと……ユエル様がどういう魔法を使えるのかとか、戦えるのかとか、何が出来るのかを知りたいんだけど」

「トファリ様の前で出来ると言うのも恥ずかしいのですが……魔法は水魔法を少しばかり。ですが戦えませんし、皆様にはご迷惑を掛けてしまうかと……」

「あなたの事は守るから安心して。体力とか無さそうだし、疲れたらすぐに言うのよ?」

「はい! よろしくお願いしま……まぁ! こちらに可愛らしいワンちゃんが居ますわ。それにルー様でしたか? ぬいぐるみの様に可憐ですわ!」


 ポンちゃんとルーがロックオンされた。緊張感は持って欲しいがそれほど怖がって無さそうなのは良かったかもしれない。


「なぁ、トファリ……」

「――まぁ、そこのあなた! こちらは第二王女で在らせられるトファリ様でしてよ!? 呼び捨てなど言語道断ですわ!」

「え、あ……ご、ごめんなさい?」


 ビシッと指をさされ、ガツンと怒られた。世間的にも貴族的にも正しいのはユエル様だし、初対面なのも相まって考えるより先に謝っていた。

 男にガツンと言える女性は『母』と成った者か勝ち気な者くらいだと思っていたし、ユエル様みたいなご令嬢タイプは特に、男を引き立ててくれると思っていたから……ちょっと意外だ。


「あー、ユエルさん? コイツは良いのよ。ほら、ライト家の人間だから」

「あら、そうです……の? おや、おやおやまぁまぁ! ……あなたがあのシューゴ様でございますか? いつもパーティーの警備をして頂いて感謝しておりますわ。父もライト家の方々には感謝を……」

「あははー……」


 ……進まない。話が進まない出発しないといけないのに、話がまったく進まない……。リベが飽きてウズウズし始めている。

 他のパーティーもこんな感じになっているのだろうか。堪えきれず、リベがパピーを捕まえようと跳ねて退屈しのぎをし始めてしまった。


「トファリ、並びの再編成を……してくれ」

「……分かったわ」

「まぁ! トファリ様をアゴで使うなんて失礼ですわよ。いくらシューゴ様でも親しき仲にも礼儀ありですわ!」

「ご、ごめんなさい?」

「ユエルさん、シューゴは良いのよ……」

「それは失礼致しましたわ」


 ユエル様はなかなかの強敵だ……。トファリに他のみんなと話し合って貰っている間……いや、ユエル様を俺が引き受けている間にみんなには話し合いを進めて貰う。


「あの、ユエル様はどうして今日の遠征に? おそらく強制ではありませんよね?」

「はい。お母様は危険だと反対していたのですが、お父様が行ってこいと仰ったので……理由はそれだけですわ。他の方に迷惑を掛けてしまうとも思ったのですが、侯爵家の娘としてもっと外のコトを知らないといけない……と思い立った次第にございます」

「なるほど。ご立派ですね。ユエル様の安全は、このライト家のシューゴが必ずやお守り致します」

「うふふ……とても頼もしいですわね」


 ユエル様と普通に話していると、何だか……ちょっと、普通に楽しい。暴力的な会話も無ければ魔法の難しい話しも無い。

 至って普通の会話。だけど、なんか楽しい。侯爵家のご令嬢という事でおそらくは婚約者もトファリとは違ってちゃんと居るのだろうが、その人の為にも傷一つ無く帰宅させてやらねばならない。

 大事な、至って普通のご令嬢だと思うと、俄然、やる気が湧いてくる。


「……こっちの話し合いは終わったけど、そっちの話しはまだ終わらないのかしらぁ? んー?」

「……じゃあ、行こうか。編成は?」


 高めの語尾に威圧感を感じたからすぐに話を逸らす。

 話し合いの結果、ルーとリベを先頭に、俺とユエルさん、後方にミーニョさんとトファリという編成に決まった。

 近接先頭を前衛に真ん中を安全地帯として後方に魔法師という配置、よっぽどのコトが無ければおよそ万全な体制だろう。


「ルー、案内は任せた。じゃあみんな! 出発しよう!」


 俺達は、ようやく森への一歩を踏み出した。


 ◇◇


「ぜぇ……ぜぇ……」

「荷物、持とうか?」

「いや……大丈夫だ。まだイケる」


 後ろからトファリが言ってくれるが断った。本当は一個くらいユエル様の荷物を持って欲しいのだが、戦闘を任せっきりにしている分、雑用くらいは俺がやらなければ割りが合わなくなってしまう。


「私、もう足が痛いですわぁ……」


 そんな時、ユエル様がそんな事を仰った。少し距離を空けている前方と後方の四人には聞こえなかっただろうが、隣に居る俺にはバッチリと聞こえる。だが――俺は無視した。

 まだ森に入って一時間と少し。今のところただ歩いているだけのユエル様の要望を簡単に通す訳にはいかない。

 誰かが怪我をした時や本当に疲れた時以外は休憩しない。


「シューゴ! 動物(ごはん)!」

「あぁ……四足獣系の動物ね。ルー、美味そうだけど捕まえたら荷物が増えるから後でね」


 少し離れた所に居た猪みたいな動物を追い払って、また進んでいく。レイラン先生曰く、このコースが一番厳しいらしいが今のところは問題なく進めている。


「んお? くっひっひ! おい、獣人! 魔物が居たぞ! 妾が狩ってくル!」

「あー、勝手したらダメだなんだよー! リベは何でも斬れば良いと思ってる……それは良くない考えだよっ! お肉が(いた)んじゃう!」

「敵は切れば良かろうて……獣のくせに細かいゾ!」


「トファリさん。植物系の魔物です。蔦に毒を持っている事が多いので気を付けてください」

「ありがとうミーニョさん。――我が名、我が魔力を神聖なる御技へと昇華し今ここへ! 駆けろ――『紫電の槍』」

「短文詠唱かつ魔物だけを的確に……流石の技量です~。それにしても、指を鳴らすのはシューゴさんと同じなんですね~?」

「た……たまたまよっ」


 戦闘に関して言えば頼もしい限りだ。何もしないでいるのが申し訳なくなる程に順調に進んでいく。冒険者の方々が数を減らしておいてくれたのだろうが、リベの物足りなさを見るともう少しだけ残しておいてくれても良かったと思う。安全に越した事は無いけれど。


「私、足が疲れてしまって痛いです……シューゴ様、私、足が、疲れましたわ」

「…………おぉーい! みんな、一旦休憩にしよう! 気付かない内に疲労が溜まっている事もあるし! うん!」


 ごめんみんな……俺にはユエル様を無視出来なかったよ。

 休めそうな場所を探して、みんなで休憩にする。


「そうですわ! シューゴ様、私の鞄の中にお茶菓子がありますの!」

「お菓子!? わーい、ルーにも食べさせてーっ!」

「うふふ、お可愛らしいルー様ですわね。もちろんですわ」


 何をこんなに持ってきているのかと思ったが、鞄の中身はお茶菓子セットで高級茶葉や王都でも人気のお菓子が入っていた。ユエル様が持ってきたもう一方の鞄は洋服らしい……。


「シューゴ様。お湯を沸かしたいのですが……火はありますでしょうか?」

「あー……誰か火魔法使える人~?」


 俺とルーとユエル様以外の三人が手を挙げてくれる。落ち葉や木の枝なんかを集めてきて、代表してトファリにちょっとだけ火魔法を使って貰って火を灯して土魔法で火に対する囲いを形成し、簡易的なコンロを作った。

 食堂のおばちゃん達に借りた器具の中に、片手鍋もあって丁度良いからそれを使う事にした。


「あとは私にお任せくださいませ! お茶には少々凝ってますのよ」

「お茶など飲めれば何でも良かろうに……くっふっふ、しかしお菓子は(こだわ)るだけ拘るが良いゾ! おい獣人! 今、妾のやつ取っただろッ!」

「んー? モグモグ……」

「うぉぉぉい! 妾のお菓子をよくも……ぐぬぬ許せん。てか、許さぁぁぁぁぁん!」

「ほらほら、あんた達喧嘩しないの。お菓子なら私のを分けてあげるから」

「わーい!」

「お主ではないわ! 食い意地の張った獣人めェ……」


 トファリは俺が出す食べ物しか食べない。こういう場であってもその約束をちゃんと守ってくれている。

 ユエル様が用意してくれたせっかくのお菓子。危険が無いのは分かっているけど、食べさせる訳にもいかない。だから代わりに似たような味のクッキーや紅茶を別に用意してあげる。同じ物は食べなかったとしても、同じ空間を楽しむ事の方が大切だもんな。


「ねぇ、シューゴ。ルーが荷物もってあげるからユエルをおんぶしてあけたらどうかな!? そしたら早いよ? 沢山食べ物集める時間もできるよ?」


 ルーの提案は効率的だが、貴族的問題が少し。


「うーん……まぁ、それが早いんだろうけど、ご令嬢とあんまり触れ合う距離に居るのも良くないんだよなぁ」

「あら、私は構いませんわよ? もう足が疲れましたし、皆様にご迷惑を掛けるでしょうから」

「…………うん。どうしようか、トファリ」

「何で私に聞くの……?」


 不思議そうな顔を向けるトファリに、逆に不思議そうな顔を向けてしまう。二人して首を傾けるも、二人とも言葉は出てこない。

 自分でも何でトファリに聞いたのか分からないが、とりあえずトファリが大丈夫というのなら、大丈夫だろう。


「まぁ、効率重視で行くか?」

「そう、ね?」

「皆様、お茶の用意ができましたわぁ~」


 どこか抜けたユエル様の声に、俺とトファリの不思議空間も霧散していく。

 俺とリベだけ高級志向からかけ離れているせいか「分からんけど美味い」以外の言葉が見付からず、二人でちゃっちゃと飲み干した。


「じゃあ、出発しようか。ルー、リベ、先導は任せたぞ」

「親分として魔物を狩り尽くしてくれるわッ!」

「ルー頑張るねっ!」


 細身だが力の強いトファリに荷物を預け、ユエル様を背負った俺を中心にした陣形に作り直した。

 俺達はユエル様に合わせていた移動速度を上げ、木々の生い茂る森を駆け抜けていった。

 キャーキャー楽しそうに叫ぶユエル様は、案外ハートが強いのかもしれない――。



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