第八十話 甘え
前回のあらすじ
一人傷心に浸っていた時、竹夏の塗り替わってしまった黒い感情が表に出てきた。
それは、俺は呑み込みもうとする。しかし、笑って吹き飛ばす。
彼女の思い出も、一緒に語りかけていたように見えた。
「け、来ましたでボス」
そこには選考会で煮え湯を飲ませた、不良のボスがいた。近くには祭梅理嗣と名乗ったやつもいるようだ。
「こんにちは、最弱クラスの救世主さんよ。どうだ~そこの居心地は。ずいぶん楽しいだろ~」
「まさか、このクラスが差別されている原因は‼ お前達わざと――」
ぶん殴ろうとしたが繭が手をだして止めてくる。
「気にしなくていい。それより、試合を始めよう」
「ふん。さすがはクラス委員長、冷静だなぁ。見てろ慎、お前の大事な人が傷つくのを、その眼でな」
負け惜しみと同じものだ。とその時の言葉は軽く考えてしまっていた。
「お~君さん、何か、仕掛けてくるかもしれません」
そう千鶴が不安げな声を出す。俺は辺りを見まわして、
「この体育館に武器の持ち込みは不可。不良で目立つ人にはより一層厳重な審査が課されるはずだ。大丈夫。安心だから」
そう、笑って不安を取り除いていた。
「では、2年D組対2年F組の試合を始めます」
「お願いします」「うい~す」
試合は、始まった。繭が俺を送り出す。
「まずジャンプボールからだよ。頑張ってくれ。お~君」
「わかってますって」
相手のボールを確保する生徒はボスらしい。ずんぐりとした体でのそりと歩いてきた。ボスと面と面を合わせて睨みあう、
「最弱クラスの救世主、1つ忠告してやろうか? 絶対に、ボールをとるな」
なにが、そう思うと同時にピィー、と笛が鳴りボールが高い所まであがった。それを何も考えず反射的にボールをとる。
「ふん、それがお前の答えか」
なぜか不満げなボスの言葉が俺の心を不安にさせる。しかし気にしていても仕方がない。もう勝負は始まっているんだ。
(気にするな。ここを勝たないと2年D組には勝利はないんだ。必ず勝って見せる‼)
考えているうちにチームメイトがボールを思いっきり相手コートに投げ、それが不良の手に当たったようだ。しかし、気になってしまうことが。
こちらと同じように不良達は手をバレーの形にしているにもかかわらず、真上に飛ばさずに軌道を横にまげ、さらにスピードをあげるように力を入れていた。そのせいでボールはコートの内を超えて体育館の外に簡単に出ていってしまう。
「アウトですが、最後に触ったのは2年F組なのでボールデットにつきボールは2年F組からスタートです」
審判がそう宣言した後、こちらはやった‼ と叫んでいることに対して、不良グループはやっぱりこうなったかと、なぜか暗い雰囲気を出している。
「さて~ボールを取りに行かないとな~」
ボスが自らボールを取りに行った。俺はどんどん最初に言われた言葉がのどにつっかえていき、それを必死に試合に集中しようと人目を気にせず首を振って忘れようとする。でも、
「どういう意味だ。あいつ……」
不良のボスが、気持ち悪い笑みをして、ボールを取って帰ってきた。
「さて……。狙いは誰にしようか」
誰に投げても一緒だ。俺が完璧につかんでやる‼
「さぁ、血祭の始まりだ。死にたくないやつは俺の前に立つな‼」
そういって帰ってきてすぐ、おもいっきり繭にボールを投げてきた。
「委員長、そっちに向か――‼」
その投げたボールは、野球のナックルボールのように不自然に揺れ始めていて。
(あの不良はブレインだ。つまり能力者ではない。なのにこの不自然な軌道……もしかして‼)
そういって俺が気づいた時は、もう遅かった。
「委員長‼」
繭に手を伸ばす。繭は全然気づいていないようでボールに頭から当たりに行く準備をしている。そこに横から尭志が繭とボールの間に自らの体を滑り込ませた!
ドゴンっと鈍い音が鳴り尭志の頭から血がダラダラと流れていく。その様子を見ていた女性陣達がきゃぁああ‼ と悲鳴を上げていた。
「祭梅に忠告されただろう……出る杭は打たれるって」
ボスはそうイライラしているように言ったあと不良達に引き上げの指示をだし体育館から姿を消した。
「2年F組の危険球のため敗北とみなし、2年D組の勝利とします‼」
それどころじゃない‼ 待機していた保健委員が尭志のそばに駆けつけその頭に救急処置としてガーゼを張ったりアルコールを塗って消毒したりしている。
「たっかー‼ たっか――」
「来るな‼ 慎‼」
びくっとする。今までも人に嫌われることは何回もあった。しかし、今回はケースが違う。心を許した人に嫌われるのだ。わかっていた。いつかこういうことが起きることを、それでも最後まで、許しを請おうとたっかーの所に行こうとしたら、
「慎、委員長、みんな。俺に構うな。せっかく優勝まであとちょっとなんだぜ。ここは喜ぶところだ。泣くところじゃない。そうだろう?」
「しかしたっかー、お前、傷が」
「慎、お前はわかっちゃいない。全然わかっちゃいない。今だからこそいうがお前を入れるのにものすごい議論があった。みんなケガをする。もちろんクラス副委員長として俺も反対した。だが、委員長は反対しなかった。彼はみんなを救う、救世主だとな。慎。何回でも言ってやる、お前そんな委員長の気持ちにドロをぬる気か‼」
俺は、手をたっかーに伸ばしかけてその手をぎゅっと握り尭志に背を向けた。
「そうだ。それでいいんだぜ……お~くん」
がくんっと、尭志は担架の上で意識を失ってしまった。
「何をしている‼ 千鶴、至急暇なクラスメイトでドッジボール向きの選手を呼んで来い‼ 光絵、うちと契約している保健委員を呼んで尭志の看護をさせろ‼」
『は、はい‼』
繭はその指示を目に涙を貯めていうと千鶴と光絵は糸が切れたように走って体育館の外に出て言った。
「委員長……俺は――」
「いい、言わなくていい、バカやろう。たっか~に謝りたいんだったら優勝というてみあげを持っていくんだ。わかったか‼」
そういって繭は次の対戦会場に向かって歩きだしていった。
その後ろ姿に俺は黙って、頭を下げることしかできなかった。




