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第七十九話 思い出

前回のあらすじ

男子の独断で風呂覗きが始まったらしい。

もっとも、被害者である女子達はかなりしたたかである。

そして、慎はかなりここぞとばかりに馬鹿力を、発揮した?




 俺は、女子全員分の張り手を食らった。



 とても痛い、いや頬じゃない。俺を見てくるあの目がとても痛いんだ。





 これで、2年D組での俺の評価は、スーパーウブ覗き魔となったらしい。


 悲しい。俺は、せっかく助けに来たつもりだったのに。


 あのシャワー室を借りた男子の顔は絶対に犯罪者のそれだったぞ。わかってくれないだろうけど。



 俺は、空気が吸いたくなって寮である、マンションの屋上に来ていた。


 実際は、女子の目が痛かったからだとは、決して言わなかった。


 風に当たりながら、俺は『疑似学園都市の隙間(ランダムリリーフ)』のことを思い出す。


 どういえばいいか。あの田舎のような風景は俺にとって懐かしく、捨てがたいものに感じられたのは事実だ。そしてそこに危機感を覚えたこともはっきりしている。



 具体的にどうとは言えないが、見た目だけだったんだ。何かが、足りない気がした。なんとなくだけどな。



 人の関係性だけではなく、決定的に足りないもの。それは、



「いえ~い。変態彼氏さん~、どうしたのここで? まさか私を置いて自殺です~?」



 うわめんど。ハイテンションな竹夏が俺を追いかけて来たよ。面白いことがあったらどんな時でも顔を突っ込むその性格は、彼女の本来の持ち味なのだろうか。



「うるさい。ここに来る暇があるのならさっさと叶帆と一緒に寝ろ。明日も試合だぞ?」



「う~ん。私は今を楽しんでいるの~。寝不足だろうが、明日死ぬことになったとしても、ゆ・る・が・な。いぞ‼ それよりも、私にお願いしなくていいのかいぃ?」



「何をお願いするんだよ、言っとくが一緒には寝ないぞ?」


 こいつ、戻ってきてから隙あらば俺の布団に入ろうとする、正直言ってうんざりしていた。





「違う違う、私を好きになったあなたを叩いたクラスメイト、プラス叶帆ちゃんだったよね? 彼女達に、暴力の制裁を与えなきゃね、だって冤罪なんでしょ?」


 ゾクっと、俺の体を何かが突き抜けた気がした。


 それはさらに、体の中に麻酔を入れたかのようにじわりじわりと彼女の存在をどんどん怖いものに変えていくようで。




 しかし俺はグッと、その死の気配を飲みこんだ。この壊れた心を取り戻すために、今自分に出来ることは、



「何だ、友達になるのが怖いのか? 竹夏さんよ」



「え?」



 目をぱちくりとしている。何を言われたのか理解できなかった顔だった。


 彼女の心に、経験から来る多くの想いが反響していくことを願って。



「確かに信じるのは怖い。それは痛いほど知っているさ、そもそも簡単に信じられたら世界に争うなんてものは存在しないしな」


『そうか、そうか、竹夏はごめんなさいさせるか。でもね――、竹夏が毎日通っている小学生の友達は悪かな?』


「俺もお前も、色々迷惑をかけてきたよな? それなのに、いつも助けてもらっている」


『≪罪を憎んで人を憎まず≫。誰だってケンカするさ。間違いもする、自分だけなんでと考えることもある』


「これからもお前はさ、笑っていろよ。人を傷つけることが、楽しい人間なんていないんだ。大丈夫さ。迷っているのはお前一人だけじゃない。俺も一緒だ」


『その友達は毎日ケンカをしていた。でも、竹夏は、許そうと思ったんだろう?』





「な、にを言っているの? 悪は断罪しないと、同じことを繰り返すの‼ ここの人達はみんなそう! 誰だって自分の身がかわいいから、だから痛みで分からせるの‼」


『私はね、沢山の人と出会った、だからこそ知っていることがあるんだ、人は――』


「当たり前だろ? 人間なんてほとんど赤の他人。仲良くしていてもいつかは別れの時が来る。早い時もあるし遅い時もあるしな。でもその中で人は――」


 その時、彼女は大切なものを思い出せたと言っていた。大事な大事な、思い出を。







『「ケンカをした後の許しあった顔、それは世界でもっとも、かけがえのないものなんだよ(ぜ)‼」』








「……、ふん、カッコつけて何言ってんの……」


 ボソッと呟いて、くるっと方向転換した竹夏は、そのまま部屋に戻っていった。


 はは、確かに、誰かに言わされたみたいに歯が浮くような言葉だったかもな。




 でも、届いただろ? 竹夏?




 屋上から部屋に戻ろうと背を向けた彼女、その顔は、少し付き物が取れたようなスッキリした顔に見えた。






 ~*~



 次の日、2年D組は円になってエンジンをかけていた。



「さてみんな勝負の時だ。ここまで私のクラスでよく耐えてくれた。光栄に思う。そして、そんな体に悪い生活もこれでおさらばしよう。このドッジボールに優勝すれば多額のクラス運営費が入る。みんなに均等に分配すると約束しよう。みんな‼ 勝つぞ!」



『お~‼』


「お~」



 そこには変わらず、竹夏が試合を楽しんでいたよ。



 そして、ここまでは疑いようもなく思っていた。俺達は、必ず勝利に辿りつける、と。


 しかし、



 この不良クラスに当たらなければ、船占先生がここで足を洗っていれば、俺がもっとしっかりしていれば。




 俺の心は、後にも先にも悔やみきれないしこりが残ることになる。



今日はここまでです。

見て下さってありがとうございました。ブックマークや感想などお待ちしております。

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