第七十二話 出会い
前回のあらすじ
竹夏を見つけることが出来た。
焦るな。俺は少しずつ生徒と教師の距離を縮めようとする。彼等を上手く利用するために。
竹夏の気が置けない居場所を奪ってしまうかもしれない、けど。
でも、それは大きな間違いだった。
放課後、俺は竹夏を探していた。
でも、いたって転校生のように振舞っている、教室や他の部屋を見てみるふりをして探していた。
あの授業の後、連れて行かれた女子生徒と同じ場所に行ったらしいのだが、竹夏は戻ってこなかったんだ。
「どうだった? この学校ではいじめがおこらないことがわかってくれたよね?」
「ああ、きっとここは。誰も悪さは出来ない、嘘みたいな場所なんだろうな」
ぱぁっ、と一緒に行動していた表道の顔が明るくなる。褒めているとでも思っているらしい。
「だったらこのまま『正義執行委員会』に」
「だが、等しく誰もが優しくなれない、優しさの勇気を持とうとしない世界だ」
「優しさの、勇気?」
「『簡単に手に入る物に価値はない』。優しさとは本来そう言うものなんだよ。もっともそれを知ったのはおれも、最近だけど」
「……」
何処か思いつめたような顔を表道はしていて、突然震える手を抑えながら、俺が歩いている前に立ちはだかってきた。
「なんだよ?」
「私は何回も聞こうと思っていました。でも王嶌様がそのこと、慎様が超能力者になれなくなった理由を『聞いちゃいけない』と何度も言うから、聞くに聞けなかった。もう、私は――」
真っすぐな目で俺を見た彼女は、思いを吐き出してきたように見えた。
「一年前、『体育委員会』と『正義執行委員会』のぶつかり合い。あと一歩で闇委員会初の『支配地域』を手に入れる戦いで私達は。慎様には、何が起こったの?」
それは、忘れられないと思える日。
自分にとって、生まれ変わった一つの転換点だった。
~*~
一年生の初め、俺は超能力者になるために、いつの間にか出来ていたこの学園都市に来ていた。
でも、現実は何一つ変わらなかったんだ。
学校ではいつも一人、勉強も出来ず、ここでの一般的な常識も知らない。
ついたあだ名が『他人未満、バカ以上』だ。
今でも覚えている、せっかく奮発して買った豪勢な昼ご飯がおいしく感じられなかった、あの一人の昼休み。
その日は、やっと見つけた秘密の食事処で一息つこうとしているときだった。
「くそ、センコウうぜえぇ! 特にあの体育委員会の暴力教師!」
「あ」
「ああ?」
傷だらけで俺のテリトリーだと思っていた場所に入ってきたのは、未成年がしてはいけないものを吸っていたり、髪や格好が風紀委員会と一生友達になれそうな不良だった。
それが、王嶌治記との出会いだった。
そいつはなぜだか分からない、でも、少し背伸びしているように見えた。
こういうと、悪い意味に聞こえるかもしれないが、全然違う。やりたくないのにしている、と思えたんだ。
相手も、どこか懐かしそうに俺を見ている。だから、
「でさぁ! あのくそ教師の顔面に消火器を投げてやったんだよ!」
「へええ~。それはかなりヤったね!」
だろう? そうククク、と笑っている治記。
仲良くなるのにそれほど時間はかからなかった。
話を聞いていると、彼は小さい頃からこんな犯罪者予備軍だったようだ。それなのに、どうして彼の行動をぎこちなく思ったのだろう。
「なあ、お前さぁ、この学園都市を支配してみたいと思わないか?」
「ええ、どうして?」
「嫌なら別にいいぞ? 俺は! 一先ずは今の委員会に在籍しているが、独立して世界を手に入れたい! これこそ男のロマンだと思わないか?」
「そんな、手に入れて何がしたんだよ?」
「もちろん、ハーレムをだな。昔は人目を気にして出来なかったし」
「え?」
「いいや、なんでもない。お前も女が欲しいだろ? それに、どうせつまらない人生ならいい方とは逆に進めるチャンスじゃないか?」
その瞬間、言いえぬ憎しみ寂しさ、悔しさが襲ってきたのを覚えている、つい、
「少しだけだよ?」
そのときの俺の決断は他人の運命を大きく捻じ曲げることになる。
直ぐに作った委員会。リーダーは誰がする? と聞いたとき、治記が『もうしたくない』ということで俺になった。
この世界では殺人は禁止されている。学園都市でも同じだったが、完全に死ぬわけじゃないことは入る前から知っていた。
俺は引きこもりを虐めているやつを殺していった。ついていけないブレインは俺との超約を止めるやつもいた、でも、すぐに新しいブレインを手に入れた。
俺のしていることは自分のように苦しんでいる関係者を救いだしていると思っていた。
現に仲間はどんどん増えている。疑いようがないと思っていた。
でも、いつも殺しを邪魔してくる女性がいたんだ。
「おいおばさん! 毎回毎回邪魔なんだよ!」
「私はまだ二十代です!」
その女性はことあるごとに俺にうんちくを言ってくる。正直うんざりだった。
どうして俺が動く時だけ、止められるのか。その時は不思議だった。
~*~
「そしてお前も知っている通り、体育委員会から持っていない『校庭』を手にれるため、受験当日に狙いを定めて襲撃した」
「はい。でも私と慎様は離れ離れになった。あの体育副委員長のせいで」
「今でも苦手だよな、お前。絶対に井鳥先輩と関わらない」
「違います」
ちょっと動揺している。まあいいや。
「俺は井鳥先輩との戦闘で、その言葉に揺れていた。そしてどこかで俺がここに来る情報を手に入れたらしい集団が目の前に現れた、そいつらは俺が今まで殺していった生徒の姉や兄、弟、妹達で作ったらしい被害者委員会の連中だった。奴ら推薦を受けていた叶帆が暴走するように仕向けて場をかき乱したんだ」
「その時私は撤退の指示を受けていました。王嶌様の命令だったのでてっきり慎様も聞いているとばっかり」
「俺は数人の男女に取り囲まれていた。やっと叶帆を止めた代償で力を失くして死にかけていた、でも彼らの委員会から必死に俺を助けようとしてくれた人がいたんだ、それがおばさんだった」
「だれ、なの?」
「その女性は俺の腹違いの姉だった。そして、もう関わらないことを決めた俺の親に代わって生活費を送ってくれた人だったよ。彼女は俺の代わりに恨みを持っている人々に頭を下げてくれていた」
「お姉さん。そのお姉さんに助けてもらって――」
「助けてもらったよ。体が弱いのにな。信じてくれるか分からないが、お前には話す。俺の姉の能力、それは『構成能力』の一部分、『時間』なんだ」
「構成能力って! 双子様達と同じ‼」
「おなじ、じゃないな。この世界にとって正真正銘の構成能力者の一部分を担う人だぞ? 姉さんは俺と叶帆を救うために時間を捻じ曲げて、さらに残り少ない構成能力を俺に全て渡してくれた。その代わりに姉さんは不治の病にかかることになった。病名はついていないが『時間』を、自分の行動で人の未来を変えるだけで寿命が縮むことになったんだ」
俺は理解したんだ。姉さんを救うために、今までの分の罪を償っていこうと。人を、本当の意味で助けていこうと。




