第七十一話 授業
前回のあらすじ
王嶌 治記。俺が昔心を許した相手。
気持ち悪いほど人間離れしている彼に。
俺の考えは見透かされていた。
「転校生、では挨拶をお願いできるかな」
焦らないでいい。ただ挨拶をするだけだ。
教鞭を取るのは不祥事や、疑似学園都市に絶望した先生。医者で言うともぐりになるのだろう。
表舞台から退場した彼等達はここで少ないながらも日々の生活のため、自分と同じような生徒に授業を教えているようだ。
しかし、それにしても。この『疑似学園都市の隙間』にはボロボロながらも学校があった。
聞いた所、ここに住んでいる生徒や先生達などで一生懸命に見よう見まねで作ったらしい。
そして一昔前みたいに、ここにいる先生の顔は優しそうで穏やかだった。
「はい、このたび『正義執行委員会』に再度入ることになりました。矢炭 慎です」
『ハハハハハハハハハハ‼』
あんだ、よ? いきなり笑われたんだが?
イラっとする感情が俺を満たす。
「慎さん。ここでその自己紹介は合っていないよ。君の名前は最近加わった生徒でも知っている。そうだな、再月さん?」
「うん! 知ってる~‼」
焦らないでいいといった理由はこれだった。
これが、今の彼女。性格につきものだった棘が取れているようで、甘々な顔をして手を挙げ返事をしている。
座って体を右に左に揺すったりしている。とても女の子らしく見えた。
「あたし達は仲間にこれからなるんだよ? 慎くんの本当の力、噂は広まっているの! 今トレンドなのはこの疑似学園都市唯一の中央という能力傾向で、あたしが持っている称号αと同じ称号πを持っている! それを聞きたいな~!」
どうしてそれを⁉ いや、この『疑似学園都市の隙間』では俺と関わった人間が多い。その秘密の一端を見た、聞いた、戦った生徒が情報を纏めているのだろうな。
胸の内側に緊張は走る。今思うと本当に良かったよ。あの四争選選考会襲撃事件で力を使わなくて。
「いいぜ。俺は、超能力が使える」
へええ~と周りが騒がしくなる。目をキラキラとさせてその秘密を共有できるのがとてもうれしそうだ。
「それはどういうことなんだ? 超能力者はどんな奴でも『超約』でブレインと契約しないといけない。だったらお前のブレインは誰なんですか? まさかとはおもうけど、あの三つ編みの――」
「知りたいだろうな。だったら試してみるか? 俺の戦闘を見てその力を制御できているか。見ないと分からないだろ?」
「……」
少しびっくりな顔をしている表道、俺が何を考えているのか分からなかったのだろう。
分からないのはもっとも。すぐにでもここから離れたいと思っているのに、敵に情報を渡そうとしているなんて、とでも思っていそうだな。
「先生、戦闘訓練に切り替えましょ? とても意味のある訓練になります!」
「そうですねぇ。では上に取り合って」
「先生、すいません。今日はパスしてもいいですか。まだ、この『疑似学園都市の隙間』を隈なく見てみたいですし。ここに来るので少し疲れてしまって」
「はは、そうですね。では明日にしましょうか?」
上手く切り抜けられたようだ。
残念だったな。明日にはもうここにはいない。竹夏も見つけられた。ついでにこの場所の仕組みでも聞いてみても面白いかもしれない。
「その、教えられなかったら別にいいんだが。この『疑似学園都市の隙間』はどういう理屈で存在しているんだ?」
「そうですね。では、復習もかねて、『疑似学園都市の隙間』の仕組みの授業をしましょうか」
『賛成~‼』
「皆さん、ありがとうございます」
上手く取り入れた。内心ガッツポーズしたくてたまらないな。
「では、慎くん。君を連れてきた静沙さんの隣に座ってください」
「いえ、出来れば同じ称号持ちなので、竹夏さんの隣に座って色々聞きたいのですが」
「……何を聞きたいのですか? お喋りは禁止ですよ」
無言の圧力が、俺を襲う。先生だけじゃなかった。生徒のほとんどが笑顔でいるのに、冷めた目で見ているのが分かった、分からされてしまった。
少し、踏み込み過ぎたな。
俺の思い過ごしだった。こいつら、俺を信用していない。信用しないで受け入れている。
「すみません。忘れてください」
ねっとりとした視線を受けて、俺は表道の隣に座った。
「甘いです」
ボソッと聞こえないように表道が呟いた。そしてプイっと教室の窓から畑が広がっている方を見る。
「よし。では復習です」
その教師は教師としては、優秀な人だった。
曰く、この場所は『疑似学園都市』で忘れられた、誰も踏み入ることのない土地の空間を切り取って繋げている場所らしい。
その余った空間を起点にして、空間を形作っている、と。
空き地とか、ビルの裏側とかだろうな。だからこの場所は広くなったり狭くなったりするらしい。
更新は一か月に一回。今は今年最大の広さらしいぜ。どうでもいいな。
「それを可能にしているのは‼ 私達の副委員長であり、神をも従える王嶌様です‼」
神を従える、か。ずいぶん心酔されていると言える。そんな奴がこの世に存在するわけがない。
ここにいるであろう選考会に襲撃をかけたあの双子も一緒だ。あの時は冷静じゃなかったから簡単に信じてしまったが、その化けの皮、きっと容易く剥げることになるだろう。
『ウソをつけ。心では、本当だと思っているんだろ』
黙れ、構成能力者は『師匠』だけの――くそったれ。切り替えたほうがいいな。
「だから私達は王嶌様の理想を遂行するために命を賭けて」
キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴った。
「ここまでですね。では明日は戦闘訓練にしますので、そのつもりで」
『ありがとうございました‼』
ふう、やっと終わったな。最後はほとんど王嶌の功績自慢だった。
ほとんど少しも身にならなかったが、本拠地の情報が聞けただけで良しとしよう。
「とつげき~」
「う、ぐくぁぁ!」
休み時間になったら、竹夏が女子高生のノリで突撃してきた!
「いてぇ。なんだ竹夏、さん」
「慎くんはこの場所でのルールは知らないよね! だからみんな‼ 慎くんにここでマナーを守らなかった人が受ける罰を見てもらお~」
は、何を言っている、んだ?
その、瞬間。さあーっとみんなの血の気が引いたように見えた。
その見せてくる、ものを竹夏がしようとするまで、俺は彼女の幸せはここなんじゃと思ってしまっていた。なにせ、彼女は素をここで、出せている気がしたから。
でも、
「むつきちゃん。陰でみきちゃんの悪口を言っていたね~」
このセリフを聞いて友達と移動しようとしていた女子生徒が、全生徒、文字通り廊下や教室の友達までにさえ睨まれて――いて。
「ち、ちがいます。いやぁ‼ 私は!」
「いくら仕事が遅いからって、疲れていたって悪口はダメだよ?」
「殺せ! 悪は殺せぇ!」
生徒達が魔女狩りのように声をあげている。
「うんうん、ダメだよ条ヶ咲さん。竹夏さんだから見つけられたんだ。死んで償わないと」
先生でさえ納得する、その光景にゾクっとするほどの悪寒が俺を駆け巡った。
「た、たすけ」
何処かに連れて行かれる女子生徒。止めようとすると、表道が俺の肩を抑えて首を振った。
そうなのか。やっぱり、最終的にここは。
一年の時、気付いたんだ。『いじめや引きこもり専用の探偵、警察機関と彼らを治療する国家資格を作る』とは、
限りなくいじめをなくす代わりに、『何か虐めにつながることを言ってしまっていないか』と常にビクビクと生活しないといけなくなることを。
月曜日は投稿できず申し訳ございませんでした。
なんか、毎日決まった時間に投稿しないといけない呪いにかかっている気がしていつの間にか過ぎてしまっていました。
なので明日から投稿をできるときにしたいと思いますのでよろしくお願いします。




