第七話 ヒーローの困惑
前回のあらすじ
人は運命には逆らえない。
でも、それを救ってくれる人はいる。
だからって?
来ました。我らがヒーロー、再月である。この女、この疑似学園都市で唯一の称号【α】を持っていてその活躍っぷりは新聞委員会のかっこうのエサになっている。
何回説明しても話は尽きないな。彼女は最強のフォアードとも言われている。フォアードなら攻撃的、レフトなら邪道という、学園都市で使われている能力の傾向のことだ。
そして、その中で称号とは四争選で歴史に名を刻んだ証明であり、彼女もまた例に漏れずその一人、ということだ。
しかし、主人公のまねをするバカがいるとは……はっきり言って恥ずかしい。それは、幼稚園で将来の夢がヒーローといったビデオが今になって出てきた時の気持ちに似ている。
そもそも俺達体育委員会と問題を起こしたのに、そこが借りている『教室』にいること自体が、不自然だと言えば不自然だな。
さすがにどの年齢と立場でも、許可されたら好きに授業を受けられる限度があるだろ。
「ちっ、うぜ~のが来た。行くぞお前ら」
不良の一人が悪態をつくと今まで遊んでいた人形を地面に落とし、これが最後とばかりに強く踏んづけて去っていった。
人形はそのままだ。あれに触ったらどんな濡れ衣をつけられるかわかったものじゃないと誰も触りたがらない。そして先生が持ち主を聞いて不良のもとに帰る。それがここ最近のループ事情であった。
しかし、これまでのことで再月も学習したのだろう。その人形を大事そうに手に取り埃を払って忘れ物保管場所に持って行こうともせず手の脇に挟んだ。
きちんと自分で処分するつもりらしい。そして不良グループの前に座っている、机の上で伏せてびくびくしている叶帆に話しかけた。
「大丈夫?」
彼女は遠くから見ても可愛らしい愛嬌のある顔でいう。その顔はまるで優しい太陽のように叶帆には見えていたのだろう。目が驚きに彩られ、頬は赤く染め、うっとりとしていた。
おいおい、なびくんじゃないぞ? 味方のふりして実力を確認しているかもしれないからな。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
と、叶帆ははっとして今気づいたとばかりに頭を下げる。再月は叶帆の感謝を受け取ってはいたが、俺はこっちを睨みつけ始めているのに気づいていた。
その顔を授業の準備を装いながらかわして、いったん間を十分取ってからちらっと横目で盗み見てみると、ものの見事にデンジャラスな顔で突っかってきそうな表情に変化。
ここまでか、と思ったが急に沸点が過ぎたヤカンのように再月はふうっと肩を下ろして叶帆の方に顔を戻す。意味がないと悟ったのだろうか。
珍しいと思う。最近の傾向はこっちに迫ってきて耳あたりのよい言葉を並べて怒鳴ってくるのだ。
だが、それはただの思い違いだった。叶帆を向いた再月の顔が生き生きとしているのが見えたからだ。
「それにしてもアイツ等も悪いけど叶帆ちゃんも能力者なのよ。ブレインは何をしているのかしらね~」
お前もですか。再月は皮肉交じりでいって俺を非難する。
本当にこいつは嫌いだ。ちくちく攻撃して俺に何を求めているのであろう。少し違った行動をしたから心配してみればなんてことはない。
ただ、注意する方向性を変えただけだった。俺は思う、こんなことならブレインになるんじゃなかった。
ブレインとは能力者を束ねる先導者のこと。普通、ブレインと能力者は行動を共にするのがこの疑似学園都市の暗黙のルールだ。
なぜなら、超能力のコントロールは俺達がやっているからである。人間、自分の力を完璧に制御できているかはあやふやだ。だから能力の未発動状態と発動状態の切り替えや強弱を客観的なブレインが代わりにやっているのである。もちろん、超能力を与えるのも仕事。
しかし、ただそれだけしか出来ない。
はっきり言ってしまうと一般人とたいして変わらない存在。
「マ、マスターは友達と一緒にいる方がいいんです。私は関わってもいいことなんてありませんので……」
憂鬱した表情で叶帆は言い顔を下に向ける。本当はもっと一緒にいてほしいと思っていることはバレバレである。
しかし、再月にはその顔が逆に保護欲を誘ったのだろうか。痛みを共感しているような表情になると保護者のように叶帆に抱き着いて、
「大丈夫だから‼ あんな最低なブレインじゃなくあたしがあなたを守ってあげる‼」
と宣言した。きっと竹夏はブレインらしい振る舞いをして安心させようとしたのだろう。誰もが羨む理想像がそこにはあった。
しかし、叶帆には何処かが気にさわったらしい。顔が急に怒りに彩られて再月をおもいっきり突き飛ばしていた。
「マスターを否定するのは止めてください‼」
と、いじめっ子が聞いたら泣いて逃げ出しそうな大声で叶帆が怒鳴った。その瞳はいじめられている時には見せない力強い目で周りの空気を困惑させる。
だが言った途端に自分の過ちに気づいたのか、叶帆はしまった‼ という顔を浮かべて静まりかえった教室からどこかへ走り去って行ってしまった。
「なんなのよ、もう」
再月はしりもちをつきながらただ唖然としていることしか出来なかった。
今日は11時頃、あと二話目投稿します! 三話目も出来たら!




