第六十九話 『疑似学園都市の隙間(ランダムリリーフ)』
前回のあらすじ
案内された場所はメイド喫茶だった。
調子が狂う、なんか調子が狂う。
しかし、ここにいる彼女達は『正義執行委員会』の本拠地に飛ばすことが出来る、油断ならない人たちだった
ピチョン、ピチョン、ピチョン。
上から液体のようなものが落ちてきている。
夏が近づいているというのに、どこか薄ら寒く空気は冷えていて。人は住んではいけない所だとおぼろげに思った。
「そろそろ起きてください! 僕に静沙ちゃんを寝取られる負け犬さん!」
「くぁ、っつつ」
顔をはたかれたらしい。
あれか、俺の邪魔をしてくる人間は漏れなく睡眠を邪魔する特徴でもあるのか?
いや、そうだ!
「は! ここは。俺は、俺は確か、表道に」
「そうですよ。あなたは静沙ちゃんに心を奪われてここに来た。早くしてくださいよ。僕はこの場所にあまり居たくないんです! さあ、行きますよ!」
「ど、どこに?」
「決まっています。『疑似学園都市の隙間』にいる、闇委員会最大派閥の『正義執行委員会』副委員長、王嶌さんに挨拶に行くんです。ううう、早くいかないと。もう静沙ちゃんは先に行ったんだぞ⁉」
『疑似学園都市の隙間』? そんな場所、聞いたことがない。
頭を振って周りを見渡す。そこは石でつまれた牢屋のようで、冷えた風が隙間から俺の頬を撫でる。
「メイドさん達~。いくらこいつが危険そうだからって直接地下牢に飛ばすなんて、いいよぉ! ぞくぞくするぅ。今度は誰か一人くらい食ってみたいなぁ」
こいつの女関係はどうでもいい。今更だが、表道に好かれていない理由は彼女だけを好きだと言っているのに目移りするところなんだろうと思うし。
しかし、もしかしたら俺の目的が『正義執行委員会』バレたってことかよ?
「キノミ、大丈夫なのか? 俺が竹夏を連れ戻しに来たことが知られているんじゃないか?」
「そぉ、じゃあしっぽまいて帰る?」
キノミは俺を試すように聞いてきた。目は何処かかっこつけているように陽キャ感を出していて、
こいつに覚悟を聞かれるとか。
その言葉で調子が戻った。立ち上がりイライラした雰囲気を纏ってぶっきらぼうに告げる。
「は、冗談だろ? それよりいいのか? 副委員長に会わせないといけないんだろ?」
「そ、そうでした! 早く行きますよ! あ、言っときますけど一回抜けたので僕のほうが先輩になるから。敬うよおに!」
「はいはい、よろしくお願いいたしますよ、キノミさん」
しかし、俺はキノミについていきながら今一度この牢屋を見る。
潜在的に死の香りがするこの場所を見ていると、外の『疑似学園都市の隙間』と言っていた場所も酷い、それこそ温かみもなく、人が住める環境ではないんじゃないかと思ってしまう。
牢屋の監視役をキノミが顔パスで通り抜けると、俺の不安に思っている世界が、見えてきた。
「さて、改めて『学園都市の隙間』にようこそ。ここが君の潰そうとしている、解き放たれた人間の居場所だ」
「こ、ここが」
牢屋を出て見えたその光景は、
太陽が眩しい、そこは大都市のような等間隔に調和された景色では全くなく、今は何かを収穫する時期なのだろう、何処か付き物が落ちたかのような学生が食材を摘み取っている。
広い、世界はこんなにも広いのかと思わせる。明るい田園風景が地平線の遠くまで宝物のように光っていた。
近くにいる、笑って手伝うのはまだ幼い子供達だ。
人はこんなにも優しくなれるのかと思えるほど、仲が良く見える。
「ここは、本当に疑似学園都市か?」
「嘘だと思うでしょう? パラレルだけしか知らなった時、人を蹴落とすのが当然だと思っていた。でも世界はこんなにも美しいのかと自分を恥じるくらい、ここに来た僕はこの場所を守りたいと心から望んでいたよ」
そこは、まるで俺の心の穴を埋めるために存在していると感じた。
都会が嫌いというわけじゃない。
人とすれ違うだけで、挨拶する。それは都会では誰もやらない。けどそれは以前、昔の人々が繋げていた慣習で。
その他多くのちょっとしたほっこりする生き方などが、生き生きとして根付いていた。
疑似学園都市『パラレル』。その中にあるのだろう、『疑似学園都市の隙間』。
一瞬、敵は誰なのか分からなくなってしまった。




