第六十二話 裏取引
前回のあらすじ
突然始まることになったクラスマッチ、通称クラス対抗戦。
俺を差し置いての生徒会公認イベント。絶対に裏があると思っていた。
そんなことは露知らず、和気あいあいと作戦を練る生徒達のクラスに入ってきたのは――、
「先生、それはどういう意味ですか!」
と繭が気持ちを押さえつけて冷静に反論したら、
「言った通りの意味ですよ。このクラスは腐っている。スポーツをする気もなければ勉強する気もないただクラスの名を持っているだけの屑箱です。今すぐ別のクラスに移動することをお勧めしますよ」
「生徒が悪いだけってことかよ!」
そうだ、私たちも必至にやっているんだと声がきこえてきた。
「黙りなさい。先生もあなたたちには手を焼いているそうですよ。もっと勉強しろとね」
約半数の生徒が顔を下に向けた。きっと生徒たちは真面目に勉強していないのだろう。それは彼等達が一番よく理解しているようだ。
そうだな。後で聞いた話だが、確かに他のクラスよりも居眠りはするし、勉強の理解も低い。進んで体育委員会の高校に入ったわりにはスポーツでも他の委員会に負ける時もあることが分かった。
でも、
俺は横から口を滑り込ませていってやった。
「確かにこの学級は真面目に努力している生徒はいないのかもしれない。しかし、それをなくしても余りある物があると俺は知っています。もっとも、それだけではやっていけないのも事実です。だが、先生が一番信じ、努力していないのはどうかと思うのですが?」
俺は船占先生を睨んだ。すると先生はウッとするようにたじろぎ、
「ふ、ふん。言葉だけでならどうとでもいえます。世の中は結果がすべて。過程なんてどうでもいいんですよ」
そう負け犬の遠吠えのように吐き捨てると、さっさと適当に出席をとって帰っていった。
「お~君いうじゃない!」
繭が俺の肩をどついてきた。
「まあ、俺を雇ってくれたみんなにお返しってことで」
クラスの生徒がそれぞれ、俺の周りに集まって褒めたたえるように背中を叩いてくる。
嬉しかった、だが喜び過ぎだと少し自虐しながらも、温かい思いを隠そうとは思わなかった。
~*~
「つまり、2年D組はドッジボールを勝負競技に指定したと」
「はい、盗み聞きをしていたので確かです」
これは、クラスマッチが終わった後、風紀員会から聞いた話だ。
俺は昔は若かった。船占先生はそう思っていたらしい。
意図的に勝たせる、そしてその一番のクラスから分け前をもらってクラスに差し入れとしてお菓子を買ったりアイスを買ったりする。
そうすれば誰もが幸せになれる、まさに完璧だと思っていた。
彼も最初はこんなではなかった。
我武者羅にクラス全員で勉強を頑張りスポーツを頑張りいついかなる競技も勝利を貪欲に望んだ。
しかし、いくら待っても勝利は訪れない。
そんなときに手を出したのが意図的な勝利だった。はじめは軽い気持ちで。しかし、努力しなくてももらえる額にどんどんやる気は吸い取られていった。
しまいには努力することすら無駄なことだと思った。
そうだった、これが世界の理なのか。と理解したら生徒はどんどん離れていった。しかし、もらえる額はどんどん増えていった。
そうか、俺は負け犬だったのか。いつからだろう。こんな麻薬中毒みたいに泥沼にはまってしまったのは。
「先生、先生‼ 船占先生‼」
「は、はい」
「聞いていましたか⁉ 今回のクラスマッチという大会、とてもいいスポンサーが付いたのでそのコネを利用して大会の時にわざと不良少年を当てます。彼らは四争選選考会の時痛い目を見ていますので、きっと邪な考えを起こしてくれるでしょう。さあ、二人で甘い、甘い蜜を啜ろうではありませんか!」
「……はい、そうですね」
納得していると言ったらうそになる。この先生を支持している自分がものすごく腹立たしくなったが俺は負け犬なんだと思うとすぐにその気持ちは薄らいでいった。
そうして、事態はどんどん動き出そうとしていた。




