第五十一話 服化(うか)
前回のあらすじ
戦いが始まった
そして告げられる、双子達の正体
表道から慎が長年探っていた理論が目の前に現れた
「『時空』の構成能力者、そんなもの! この世界の理論では存在しないはずだ‼」
「むくぅ~‼ 心外だ~。僕達の力が信じられないの~!」
「さっき、大人たちを見せてあげたじゃないか~。それで信じてよ!」
そうだった。彼等達が殺されるなんて確かにあり得ない。あり得ないんだ。学園都市ではあらゆる能力者がその力を使って『殺人』というものを防いでいる。しかも小学生の保護者にカウントされる自衛隊員だ。その能力の高さは一級品といっても誇張とは言えない。
「でも、ならどうして! お前達『師匠』の知り合いなんだろ! 学園都市で殺人なんかできるはずがない!」
「知り合いじゃないからですね~。君の『師匠』さん、この学園都市を造ったアイツは一人の人間を世界から隔離した。その彼は九次元と同等の力を持った人でね~私達のリーダーが欲しがっているんだよ!」
知らない話だった。確かに『師匠』はあまり過去を語りたがらない。
全て教えてくれているとは思っていなかったが、それでも『師匠』は俺のためわざと話さなかったと納得していた。
でも、クソ‼ どれを信じたらいい。無駄にブレインの力を使いすぎた、頭がボーとしている。このままじゃ叶帆の抑えられない力も漏れ出してしまう……。
「慎様、このお二方の欲しいものは結末の話。慎様の考えることは簡単だよ? 目的のため、あなたが作った委員会に戻るだけでいい」
「そうだよ~‼ 歓迎してあげる! そうすればここにいる生徒を殺すこともしないかもな~、もちろん時空の力を使わせてあげるし、全力で君のやりたいと最初言っていた、『いじめや引きこもり専用の探偵、警察機関と彼らを治療する国家資格を作る』の後ろ盾になってあげる。ね、それがうれしいでしょ竹夏ちゃん‼」
「あ、あたしは……。慎、あたしどうすればいいの? どう、ぞうすれば」
竹夏は手をわなわなと、震わせている。
不味い、もう大粒の涙ですすり泣くほど感情がブレだしてきていた。再月の次元が不安定になりかけていて。自分の気持ちとブレインの命令、天秤にかけてしまっている。
彼女も答えは分かっている。しかし、それを妨げているものがある。
「お~よしよし。竹夏ちゃん、辛い? 苦しい? もう考えたくない? ほら、見える? 竹夏ちゃん。竹夏先輩の気持ちをせき止める力が、それを振り切って裏切って、楽になろうよ?」
「あたし、の。あたしはもう苦しみたくない。いや、もう嫌。助けて、誰か助けて‼」
「姉さん、いい感じになってくれたよ。アイツの支配からトキハナッチャッテやろう!」
「お~け~。よしよし。こっちの水は甘いぞ~」
双子が竹夏の頭に触れて慰めるように撫でている。すると、
ドロン、とした黒く、そのさらに黒くなった液体のようなものが彼女を取り囲んでいく!
真っ黒な心にだけ簡単に溶けていくものだと、肌が危険を知らせるくらい気持ち悪くベタベタしたもののように感じた。
「再月、止めろ‼ 再月、竹夏‼ 駄目だ‼ それに呑まれてしまっては戻れなくなるぞ‼」
「私達が全て忘れて楽にしてあげる。その感情のまま、永遠に沈んでいきましょうね?」
「あたし、もう、誰も不幸にしたくない。そうよ。一つにならないから、感情が人の数だけあるから争いが生まれるの」
目から精気が奪われていく。その目からは赤い炎が抵抗するように浮かび上がるが徐々に炎が黒く染まっていく。
「さあ、服化の時間ですよ~‼」
グロロオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼
空気中から瘴気を吸い込み、どんどん空に浮かんで再月は繭で覆われ見えなくなっていく。
「竹夏ー‼」
言い訳は腐るほどある。頭がボーっとしているとか、この人数の中『中央』の力を見せるのは不味いとか、そんなことはどうでもいいのに考えてしまったことが、彼女をこれから先も後悔させて、傷つけてしまうことにこの時は気づかなかった。
だって、一番傷つきたくないのは紛れもない俺だったんだ。
走り出して手を伸ばすだけでは何も解決しないとわかっているくせに。




