第二十話 超弦理論
前回のあらすじ
絢小町小連。俺のブレインサポーターである。
その性格は少しずぼらといった所。
だからって殴られるのは勘弁願いたい。
俺は、ペン型携帯を開いて情報を集めていた。暇つぶしである。
「あ、アンタ‼」
「ん?」
仮説診療所に現れたのは、隠しきれないその身に有り余る力で俺に向けられるいじめの原因を作った再月さんであった。
「フン!」
彼女は、挨拶をしないで俺を無視することにしたらしい。まだ叶帆と戦わなかったことを引きづっているのだろう。
戦えば、どうにかなっていたと思っているのか? ただ楽しいことに飢えている傍観者の遊びにのせられただけだと思うぞ。
しかし、彼女もこの虐められる結果の片棒を担いでしまったことは分かっているはず。
反省しなさい、とでも思っているのだろう。まあ、いいけど。そのつもりだったし。
「新九郎さん‼ 何をしていたかと思えばこんなところに、さあ、帰りますよ」
「わかった、わかったから生徒会長には」
「もう言ってあります‼」
声デカすぎ。ちょっとは他の患者のことを考えろよ⁉
ていうか、ここで新事実発覚。下っ端は下っ端じゃなかったらしい。嘘だろ。
でも、だったら何で病院は入れてくれなかったのだろうか? 生徒会メンバーだったら顔パスのはず。
というか再月との関係はなんだ? 彼女とは『委員会』が別だ。
少し、ズレていると。覚えておこう。
言い合いをしていたその後、生徒会メンバーは再月に軽々と引きずられて出ていったよ。
「小連さん、ありがとう。また色々と相談させてもらいます」
「うん。待っている」
委員会と協力していて仲がいいらしく、知り合いらしい。外に出た小連は片手を軽く振って送り出した。
再月がチラッと俺を見て睨むのはご愛嬌。
「叶帆、俺達も帰るぞ」
「……」
小連と一緒に診察室に戻った。
隣を歩く小連の顔がほんのりと赤く色づいていた。もう忘れろよ。俺も忘れるからさ。
その微妙な空気を肌で感じたらしい、叶帆はおろおろしていたが、今思いついた顔をして、
「そ、そうだ! 小連さん。どうですか? マスターの考えていた理論の仮説は?」
椅子に座った小連は小首をかしげ、言いたいことがはっきりわかったとき、また小首をかしげた。
「その話? やっぱり難しい。いったい何を調べているのか分からないけど時間と空間を混ぜるなんて普通は出来ない」
この世界の人間が持てる次元限界量を超えたとき、海の塩のように浮かび上がっていくもの。それが超能力として扱うことのできる次元という超能力だ。
次元は能力、それなら次元を他人に渡す能力があるはずだ。それを操作するのがブレインの役目。
そしてヒモ理論、一次元に広がった点から求められる九次元とはなにか。
「そもそも、発明した科学者も勘違いが多い人だったよ?」
「その科学者に合わせてくれ‼」
「……」
「その人に会うことはできませんか?」
「無理」
そうかよ。
「いい、発明したとされる科学者の考えはこの世界をこう定義している。起点、創造、空間とね」
「それは知っている」
「……」
こっちを見ないで無言の圧力。俺には発言権はないのかよ?
「起点が行動すること、創造がものとか物質。そして、空間がこの世界という入れ物。その内訳としてあるものが九次元、だけどここが科学者の悩みの種。一人一人の計算方法で違う次元が出てくる」
暫定的に今のところ、空間に含まれるのは次元だ。創造に含まれる時間と交わることはないらしい。
「あなたが言っていることは時空という時間と空間が合わさることの証明になりかねない。それは定義からブレてしまうことになる」
少し考えたら無理だってわかる? とはぁっと大きなため息を出した。
「無理でも調べなおしてくれ。まだわかっていないことがあるかもしれない。金なら払うから」
「……」
「マスター。彼女が言うのです。この研究から手を引いたほうがいいのではないですか?」
「結果は知っている。まだ、調べていない方法があるはずだ」
「でも……、はい、しょうがないですね。小連さん。引き続きお願いしてもいいですか?」
「オーケー。わかった。報酬はいつもの額でいい」「ああ」「それと」
俺の方を向いて、手を出してきた。何の手? それに初めて顔を向けて喋ってきた?
「慰謝料を請求する」
パンティの件をまだ根に持っているよコイツ。
「俺から搾り取るつもりか! だったらもっと結果を出せ!」
「……」
「え~と、結果を出せと言っています」
「だったら次元そのものを能力にしている人にでも会えば? 誰かは持っているはず」
起点などの能力を持つ、その人に聞いたら分かると言ってくる。
何せ世界の神というか、世界そのものを作った人になるんだから、と。
手を再度出される。
「慰謝料を請求する」
「金以外なら」
「なら助手として一日借りる。叶帆、いい?」
「い、いいのかな。でも、なにか」
「それでいい。何でも言ってくれ」
座った椅子をくるっと回し俺達から顔を隠す。
「……」
頬に両手を置いて外を見ていた。外って? 会社の壁なんだけど?
「ま、待って下さい! やっぱりだめ、です‼」
どうしたんだ? 動転している。
くるっと戻った、叶帆をジト目をしながら一言いう。
「なんとなく、気になる?」
「まさか、貴方もマスターの魅力に⁉」
「うるさいぞ。それで小連、詰まっているなら少し疑問に思っていることがあるのだが」
「……」
「ああくそ! 叶帆!」
さっき喋っただろ? もうその設定は捨てちまえ!
俺は自分の仮説を話した。もしかしたら鼻で笑われるかもしれない、それでも一途の光になるのならと思って伝えた。
俺のプライドであの人の命が助かるのなら、それは最終的に俺が助かることになるから。
「そう、確かに一次元に広がったと決めたのは科学者。それを一次元以外の八次元を吸収した点と考えるなんて。それ、正しいのなら超弦理論の根底からひっくり返ることになるけど」
「吸収したのなら時間と次元がくっ付く可能性もあるんじゃないかとは思っている」
キラキラとした目をむけられた、ほんの一瞬だったけど。見間違いか?
「……やっぱり、ちょっと欲しい」
ゾワワワワ! と警戒心で全身の毛が逆立ったような叶帆! いきなり椅子から立ち上がって、会話を断ち切ってきた。
「マスター、帰りますよ! 小連さん、私達はやることがあリますので、失礼しました!」
ぐいぐいと引っ張る、少し肉体強化にブーストがかかっているので抵抗は難しい。
「おい、わかった。わかったから」
「また、暇な時に来て、それまでに調べつくしてみる」
眠そうな目で手を軽く挙げる。そしてそのまま机のカルテを見始めた。
よろしく。と俺は、忙しいスケジュールの彼女に感謝しながらその場を後にした。




