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第十八話 体育副委員長

前回のあらすじ

体育委員会のスポーツ選手に久しぶりに会った。

時代はこの人たちが作っている。でもなぜか、

俺を信じてくれている

「へえ、汗一つかかないか。どうやら、姫の部下は役立たずだったらしいね」



「勇者様! どうしてここに?」



「マネージャーに連絡したらここにいるって言われたからだ」



 副委員長とはそれなりに気心知れた仲だ。敬語は抜いている。


 ここは疑似学園都市のはずれ、その山の頂上。ま、名もない小さな山だ。


 そこにぼろっぼろの鉄製で作られた牢屋にスレンダーな体系の美人さんが捕まっていた。


 彼女を捕まえていたのはがりっがりの男。泣く子も黙る大王だ。


 そういや、生徒会関係者だったな。



「二人とも、カッコいいです」



「ここに来るのは下手な恰好じゃいけないからな」



 いつも大変だ。まったく。



「ありがとうございます、私のために」



「さて、それじゃあ」



 こっちにくる、副委員長をさらった生徒会メンバー。



「ああ」



 ぐしゃりと草を踏みつけ歩いてくる。俺は強く睨みつけた。


 ピタッと大王は足を止めた。そして、



「お願いします! もう解放してくださいませんか!」



 深く、深く頭を下げられた。


 ――そう、これは。



「おい」



「ひぃいい!」



 ガラアアンンンンンンン‼ カラ、カランカランカラン。


 爆発音が響く。


 彼女を捕まえていた、否、彼女に脅迫されていた大王役の先輩がおびえたように振り向く。


 そこには目を吊り上げ、喉を噛みついてきそうな姫様、もういいか。


 体育副委員長、井鳥矛夢(いどりむむ)さんが牢屋をぶち壊して立ち上がっていた。



「お前、せっかくラスボスにしてやったのにさぁ。なにその頭の低さ。殺すぞ?」



「いや、あなたの近くを横切ったら無理矢理ここに連れて来たんでしょ!」



「わかるぅ? これは遊びじゃない。俺の乾いた心をいやす、一種のエンターテインメントだ」



「それがなんだとぉおおおぅうおおおお‼」



「だっからさぁ? 楽しませろよ? 堅苦しい場所で顔をうかがって、くそ面白くない奴らと絡んだ腹いせなんだ。わかったかな?」



 彼女の言う通りだ。これはゲームの再現をした、矛夢さんの遊びである。


 普通おかしいからな。どこに姫様がいて、連れ去られる人間がいるんだよ。


 しかも、副委員長をさらう? モブじゃ不可能だ。


 まあ、彼女自体はお姫様の家系はあるんだけど、言葉遣いとか、雰囲気を出すとか面倒くさいらしくてまともに見たことがない。


 ガチっと顔面を捕まれ持ち上げられる、哀れな生徒会メンバーの一人。


 たぶん、こいつは下っ端だろう。生徒会に自分の人徳で当選したとでも思っているやつだ。



「姫さ、もういいかな。体育副委員長。下品な言葉を使わないでくれ」



「おお私は! 能力の使用が禁止されていなければあなたなんて」



「そうか、そうか。言いたいことは明日言えよ? 今日はブレイクタイムにすると決めているんだからな――角闘流――!」



「ぐはぁ、う、うん? ぐはぁつううう‼」



 受け身を取るつもりだったろうが、そのまま地面に押しつけられる。



 頭が地面にめり込んだ。


 パタッと意識が刈り取られた、目は白目をむいている。


 はぁぁ、と化け物がはくような白い息が見えるようだ。俺達を見ながら喉を鳴らしている。



「もういい。残念ながら配管工の男は大王に操られてしまった姫様と戦うことになったというシナリオにしよう、死ね」




 おいおい、死ねって。姫自身が助けに来た勇者を殺すなんてそんな血も涙もない話ってありかよ?


 角闘流――それは彼女の代名詞である、彼女が生み出したこの世界にあるあらゆる流派に組み込むことが出来る基本流派だ。それは彼女の超能力の名前にも付けられている【角闘流(ディレイラグ)】というものから引っ張ってきたらしい。簡単に言うと、ラグを操る能力から編み出した流派。


 多彩なフェイントを使用し、相手のテンポを乱すコツを学ぶ。乱せればどんな能力を、何を使ってもいい。


 そして俺はそんな彼女の弟子一号である。


 あの生徒会も、それで受け身が取れなかったな。



「はぁはははははは!」



「マ、スターぁあああああ!」



 臆病である叶帆。まったく、矛夢さんは話を聞かないでいつも暴力に訴えてくるからなぁ。悲しい、襲われるのか。



「仕方ない」



 俺はコンビニに置いてある、俺が買うことがギリギリできる雑誌を彼女の顔面に叩きつけた。



「ぐほ、ぁあおお。な、にを!」



 矛夢さんは叩きつけられた雑誌に目を奪われた。



「な、何なのですかこれ! 破廉恥、きゃぁあ、そんな顔をして求めている、ふふへぁ」



 本当に目を隠したいのか? 隙間から一定間隔で覗いている矛夢さん。


 そろろと手に取り、赤い顔で今まで知らなかった世界に足を踏み入れようとしている。


 ああ? エロ本だけど、だから? さっきも言ったが俺がコンビニで買うことが出来るギリギリのラインの本だ。



「と、ここまで。副委員長、お話が」



「ああ! とらないで下さいま、し」



 本を取り上げる、彼女は悲しそうに手を伸ばしていた。


 意識を、無理矢理切り替えてやった。矛夢さんはエロいものに対する耐性がないからな。


 自分で集めるのは恥ずかしくてできない、手に入れても読もうと思うのに時間がかかる。


 そして残念ながら、なのかは分からないが。いつも見る前にマネージャーに捨てられている。



「さて、冷静になったか?」



「んん、もしかして慎、か? どうしてこんなところに。私と遊びたかったのか?」



 誰がむっつり肉食動物と遊ぶか。



「いえ、矛夢さんに許可を貰おうと思って」



「許可、てぇ! いや、ダメだ。ダメだ‼ 君が学校を退学することは許可しない! 委員会を作ったとしても体育大院代学園として、私の可愛い愛弟子としてそばにいてくれ!」



「もう、昔のように戦えないけど?」



「君自身に惚れたんだ。せっかくあのくそ忌々しい委員会から引き抜いたのに!」



 と、ちょっと意地悪をしてしまったか。今日はそういう相談をしたかったわけじゃないんだ。



「冗談です。実は依頼を受けた、ある体育委員会の下部組織を潰すことになったんだ。それで、その許可を貰えないか?」



「ああ、マネージャーの言っていた」



 矛夢さんは、手をあごに置いて、考え出した。



 牢屋の方に戻るように歩いていたところ、かがんで進行方向にいた生徒会メンバーの頬を無感情に軽くぺしぺしと叩く。


 こんなことを言う俺を、普通は信用しない。突っぱねることさえやる気が失せるのが普通だ。


 なにせ、『仲間を売れ』と言っている。


 今ここで、自身が潰されても文句は言えないだろう。

 空を見て、深く考えていないような質問をしてきた。



「もう一度、聞かせてくれないか? 君が学校を見つけて、やりたいことを」



「『いじめや引きこもりの問題に関わった人々を救う学校を作る』ことです」



「……そうか」



 う、う、と死んだ魚みたいに声を出している倒れた生徒会メンバーを何回も愛おしそうに叩く、手遊び感覚で頭を整理しているのだろう。



「お前がそう思っている限り、協力すると決めたからなぁ。その考えでそいつらをどうするか。後始末共々、ちゃんとやれよ?」



「ありがとうございます」



 頭を下げた。彼女はそして、最後とばかりに屍になった元大王に武骨なキスをする。嫌そうな顔で口元をごしごしと拭った。



「くそ、あいつら俺に全部丸投げしたな。だからこんなに早く来られたのか。次世代の委員会を背負うやつかどうか確かめたいらしい」



「矛夢さん? どうした?」



 小声で何かをつぶやいた? 話はちゃんと聞かないと失礼だから質問する。



「いや、何でもない。そうだ。こいつを保健室に連れてやってくれ。ストレス解消に付き合ってくれた礼だから一番高い保健室を使っていいぞ」



 請求はマネージャーに行ってくれ、なんて当然だ。



「保健室に連れて行くことになったのも、矛夢さんのせいだけど」



「うるさい」



 と彼女は反省するつもりもないようでにやりと笑いながら言った。




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